コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
今週も医療事故だの弁護士に訴えられるだのといった、医師生命の危機を迎えるような出来事も無く無事に週末を迎えた夜、珍しく遊びに出掛けるのでは無く、同じく平穏に週末を迎えている恋人をクッション代わりにした慶一朗が、撮り溜めておいたドラマを見ては、クッション代わりにされているリアムからすれば何が面白いのか分からないドラマを見て一人腹を抱えて笑っていた。
リアムは元々テレビを見たりインターネットの世界を旅することよりも現実に出掛ける方が好きな男で、慶一朗と付き合いだした頃は不慣れなナイトスポットに毎週遊びに出掛けることは苦手だったが、その中で親友と呼べる人達が出来ると話は別だった。
だが、やはり今でもナイトスポットで遊ぶよりは大自然に溢れたキャンプ場に出掛ける方がどちらかと言えば好きだった。
だからここ最近キャンプに行っていないことを思い出し、慶一朗と付き合う前までならば毎週のように一人でキャンプに出掛けていたはずなの三年以上前の己の行動を振り返ると何故か強烈な寂寥感を覚えるようになっていた。
一人でキャンプに行く事で、それまで溜まっていたストレスや人間関係の諸々をリセットし、翌週からの仕事に備えていた気がするのだが、キャンプなど経験したことが無いと苦く笑う慶一朗を見てしまった後は二人でデイキャンプだったり一泊だったりと行く事が多くなった。
そして、月末の週末にはキャンプに行こうと二人で肩を並べてリアムが作った夕食を食べているときに話し合っていた事を思い出し、今もまた己をクッションの代わりにして腹を抱えて笑っている慶一朗の顔を背後から覗き込む。
「楽しそうだな、ケイさん」
「ん?ああ、楽しい」
このドラマの良いところは何も考えずに見ることが出来て馬鹿笑いが出来る事だと、それはドラマでは無くコメディアンの舞台か何かでは無いのかと疑問に感じつつもそうかと頷くと、笑みを浮かべた顔が振り返り、相手にして貰えなくて寂しいかと挑発じみた笑みへと質を変える。
そのあからさまな言葉に僅かにムッとしたリアムだったが、別に寂しくは無いけれどと返すと、顎にキスをした後綺麗な指先で顎の形をなぞるように撫でられる。
「Prinz der Traurigkeit, もうすぐドラマも終わる」
だから最後まで見させてくれ、悲しみの王子様とドイツ語で慰められては頷くことしか出来ず、早く終われば良いのにと往生際の悪い言葉を呟いて明るい色の髪にキスをし、恋人の頭を邪魔に感じる事も無く、アウトドアグッズやキャンプ場を紹介しているチラシに目を向けるのだった。
先程の恋人の言葉は嘘では無いようで、リアムがチラシの両面にプリントされている内容の全てに目を通し終えた頃、己の胸の上で腕を突き上げた慶一朗が満足そうな息を吐いた事に気付き、終わったかと問いかけると、もぞもぞと身動いだあと、腹這いになってにやりと見上げてくる。
「待たせたな、王子様」
「……本当に」
見上げてくる端正な頬をひとつ撫でて目を細め、嬉しそうな顔を掌に押し当ててくる慶一朗を見ていると、唐突に下腹部に熱が生まれてしまう。
何故だか急に抱きたくなる、そんな生理現象のようなものに何とも言えない息を吐くリアムだったが、それを知ってか知らずか己の腹の上で楽しそうに鼻歌など歌い始めた慶一朗に気付き、ある思いを込めて頬を撫でると上げられた顔が不思議そうに傾げられる。
「リアム?」
小さく傾げられた顔に浮かぶ表情と口調に思わず額を押さえて天井を振り仰いでしまうリアムに更に疑問の声が投げかけられるが、腹の下の異変に気付いたようで色素の薄い双眸を見開いた慶一朗がにやりと笑みを浮かべ、リアムと視線を合わせるように名を呼ぶ。
「……まだ少し早い時間だけどベッドに行くか?」
腹這いになっていた身体を起こして腹の上に座り込んだ慶一朗の言葉にリアムが視線を彷徨わせるが、何か閃いた時のように目を大きくし、慶一朗を手招きして吐息が掛かる距離にまで顔を寄せる。
「どうした?」
「Willst du spielen?(遊ばないか?)」
リアムが言うところの遊ぶの意味を少しだけ考え込んだのか、慶一朗の首がまた傾げられるが、唇の両端が煽るように持ち上がり、次いで薄く開いた唇の間から誘うように赤い舌が見え隠れする。
その顔を見た瞬間、脳裏に今まで付き合ってきた男女や一夜限りの相手にも同じような顔を見せていたのかと思ってしまい、嫉妬に目の裏が赤く染まる。
慶一朗と付き合いだして遊びに行くようになったナイトクラブの経営者は元々は慶一朗の親友で当然のように肉体関係も持っていたルカとラシードで、今ではリアムもそんな二人と親友付き合いをしているが、あまり大っぴらには出来ない関係をリアムも持っていた。
その時の事を思い出すと、己よりも付き合いの長い二人には当然ながら己が知らない慶一朗の顔を知っているのだと今更ながらに気付き、嫉妬を抑えようと小さく息を吐く。
「どうした?」
「……ルカやラシードは俺が見た事の無い顔を見てきたのかな」
などとつまらないことを考えただけだと肩を竦めつつ自嘲気味に呟くと、慶一朗の目が細められてそっと持ち上がった手が熱を持って形を変えつつあるものをハーフパンツの上からひと撫でし、思わず眉を寄せるリアムを見下ろして口を開く。
「……安心しろ、お前しか知らない事もある」
「何だって?」
「何でも無い—遊ぶんだろう?」
リアムの問いには答えずに自信ありげな顔で見下ろしてくる慶一朗に頷くと、起き上がることを伝えて慶一朗を腹の上から下ろす。
「準備をしてくる」
ソファとリアムの上から降り立った慶一朗が伸びをして先に上がると告げるが、階段に足を掛けた姿で振り返ると、何かを思い出したようにキッチンに向かおうとしている背中に問いかける。
「Was spielst du?(何をして遊ぶ?)」
「Schokoladen Spiele.(チョコレートゲーム)」
慶一朗のドイツ語の問いかけに同じくドイツ語で返したリアムは、チョコレートゲームの主役であるチョコの味は何が良いとも問いかけ、Erdbeere−ストロベリー−と返されて水とビールも持って行くと返すが、慶一朗からの返事は言葉では無く階段を上って行く足音だった。
その音に目を瞬かせたリアムだったが、キッチンの冷蔵庫から遊びには欠かせない大粒のチョコをひとつと水とビールを両手に持ち、慶一朗よりは静かに階段を上って行くのだった。
チョコレートゲームとリアムが称したのは、いつ頃からか冷蔵庫の中に備蓄されるようになった大粒のチョコレートを使ったもので、互いの口の中でそれを転がし合い、かみ砕いたり溶かしてしまった方が負けで罰として勝者の希望をひとつだけ叶えるというものだった。
ピンクのラッピングから取り出したホワイトチョコにストロベリークリームの味が、甘いものがあまり好きでは無い慶一朗でも好きな味だった為、今もそれを口に含んだリアムがベッドでいつものバスローブを緩く身に纏って腹這いになって足をぶらぶらさせている慶一朗の横に膝を着き、バスローブから見えるうなじにキスをした後、寝返りを打とうとする細い肩を掴んで正対させる。
「……このまま逃げ切れば俺の勝ちだな」
「そう上手くいくと思うか?」
口の中に大粒のチョコを銜えたまま不明瞭に呟くリアムをにやりと見上げた慶一朗は、リアムの頭を抱くように両手を伸ばし、近付いてくる身体を身体で受け止めてチョコが見え隠れする唇を塞ぐようにキスをする。
「……ん」
リアムの器用な舌に押し込まれるように転がり込んできたチョコの味に、やはり甘いけれど以前ほど甘く感じなくなったのはどうしてだろうと思案しつつ舌で押し返そうとするが、口の中に入り込んできた舌が外見からは想像もつかないほど器用に慶一朗の口の中を逃げ隠れするように歯茎の裏を舐めたり口内を好き勝手に蹂躙する。
チョコの大きさが一回り以上小さくなったように感じ、このままでは負けると慶一朗が危惧した時、後ろ頭を大きな手に包まれて顎が上がり、口の端からチョコが溶けた甘い唾液が一筋流れ落ちる。
「――は……っ!」
息苦しさとチョコを押し返せない腹立たしさとキスが齎す甘さに一度リアムから離れて息継ぎのように胸を喘がせた慶一朗だったが、今まで誰かに見せてきたのかと思わず嫉妬しそうになる程男前な笑みを浮かべたリアムにキスをされてシーツに重さを利用して押しつけられる。
普通にのし掛かられればただ重いだけなのに、何故か重さを感じない恋人の鍛えられた身体を受け止めると、口の中に残っていた小さくなったチョコがするりと喉の奥に入ってしまう。
「――!!」
飲み込んでしまった事に気付いた慶一朗が目を見張りリアムの広い背中を拳でひとつ殴ると、それに気付いたリアムがにやりと笑いながら赤く染まる顔を見下ろす。
「飲み込んだ?」
「う、うるさいっ!!」
にやにやと見下ろしてくる愛嬌のある顔を睨み付けた慶一朗だったが、口を開けろと言われてそっぽを向くとその顎を大きな手に捕まれて正対させられる。
「……また、負けた」
ああ、くそ、どうして勝てないんだ、そんなに俺はキスに弱いのかと悔しそうに呟く慶一朗にリアムが小さな笑い声を立ててしまうが、他の誰かで試すとか言わないでくれと不意に声音を変えて慶一朗の顔を囲うように腕を突くと、意外な言葉を聞いたと言いたげに目を見張られる。
「……今日はどうした」
さっきもルカやラシードがどうこう言っていたと細められた目を見つめると、ただの嫉妬だからと自嘲され、嫉妬なら俺の方が得意だぞと何故か自慢げに慶一朗が呟く。
「え……?」
「お前のキスの顔、今まで何人の女に見せてきたんだ?」
さっきの顔で腰が砕けそうになった、そんな顔を何人に見せてきたと、目に強い光を宿した慶一朗がリアムの短い髪を握るように頭を両手で抱きしめてその耳に囁きかける。
「……こんなゲーム、お前としか遊ばない」
だからつまらない嫉妬などせずに勝者の希望を教えてくれと声音を変えて囁くと、背筋をそっと撫でられて身体がひとつ震える。
「ルカのボックス」
「……」
リアムの期待に満ちた言葉に咄嗟に返事が出来なかった慶一朗だったが、全てを使うのは駄目だと悪足掻きの一言を吐き捨てるが、勝者の権利だと言い放たれて悔しそうに口を閉じる。
「……ケイさん」
「……ああ、くそ!分かったから好きなだけ使え!」
ヤケクソ気味に叫ぶ慶一朗の頬や鼻の頭にキスをしたリアムは、最後に不機嫌に歪む唇にキスをし、お返しのキスのように唇を押しつけられて嬉しそうに目を細めるのだった。
ルカのボックスはいつだったかルカが半ば冗談で二人に送ったアダルトグッズを収めた箱で、仕事を頑張ったご褒美にラシードがルカにプレゼントを贈ると、何故かルカが二人にプレゼントを贈るようになったそれらを納めていた。
そのプレゼントボックスの中にあるのは、以前慶一朗が穿くことを拒否したが結局情に押し流されて穿いたTバックの下着や様々な香りがするジェルやローションだったが、その中には所謂大人の玩具と呼ばれるものがいくつも入っていた。
その全てを使うなと拒絶したが結局以前のように情に流されてしまい、どのグッズを使えば慶一朗がより気持ちよくなるかを判断するためとリアムが前置きをした結果、そこにあった玩具の全てを使われてしまったのだ。
最初の内はまだまだ余裕もあった慶一朗だったが、今まで付き合ってきた男でここまで道具を使う奴などいなかったと、いくつ目の道具か分からないが気持ちよさそうにしていたと笑うリアムを慶一朗が息も絶え絶えになりながら睨み付ける。
「……これ、気持ちよさそうだったな」
「……ん、あ……!?」
リアムが呟きつつ手にしたのはサイズが不揃いのボールが連なったもので、3つ目のボールを他の玩具も使っているためか、既に解されているそこに押し当ててグッと押し込むと、慶一朗が枕に後頭部を押しつける。
こういったプラグやスティックなども好きなのかと呟きつつ好奇心からそれをひとつだけ引き抜き、再度押し込むと白い肢体がビクリと揺れ、シーツを握りしめて顔を押しつけてしまう。
「……いつ、か……覚えて、ろ……っ」
リアムが好奇心を丸出しにした幼い子供が遊ぶようにひとつ抜いては二つ押し込んだり一気にそれを抜いたりしていると、快感に掠れた声が覚えていろと恋人同士の睦言よりは仇敵同士の言葉のようなそれを慶一朗が吐き捨て、リアムが何をと少しの意地の悪さを込めて問いかけつつ慶一朗の口元に耳を寄せると、いつかお前のケツにもそれを突っ込んでヒーヒー言わせてやると叫ばれ瞬間絶句してしまうが、にやりと笑みを浮かべて慶一朗の尻に半ばまで突っ込んでいたビーズを全て押し込んでいく。
「あ……っ……ぅ……」
「いくら相手がケイさんでもそれだけは嫌だなぁ」
こんなに気持ちよさそうにしている顔は見せるものでは無く見るものだと、慶一朗が絶句のあまり何も返せなくなるような言葉を囁きかけたリアムは、ビーズの先端に付いている輪に指を通し、ゆっくりゆっくりとそれを抜いていく。
その動きに合わせて慶一朗の口から途切れ途切れの嬌声が流れ、伸び上がって慶一朗の口を塞ぐようにキスをしたリアムがそれを引き抜き、くぐもった声が二人の顔の間にあふれ出す。
肩で息をする慶一朗の顔の傍に手を突くと、その手に手を重ね額をそっと押し当てられる。
こんな風に快感に溺れながらも甘えてくる横顔をルカ達にも見せていたのかと、さっき芽生えたが何とか押し込めた嫉妬が再び頭を擡げ、この顔は自分だけが見ていたいなと呟くと、手首を強い力で握りしめられる。
「……っ!」
「ま、だ言ってるのか……?」
お前は一体誰に何に嫉妬しているんだと、赤く染まる目尻を最早隠しもしないで睨んでくる慶一朗にお詫びのキスをするが顔を背けつつもしっかりとリアムの手首を握りしめる慶一朗を呆然と見下ろす。
「……ケイさん、ごめん」
「うるさい」
お前で無ければ、お前以外の男にここまで好き勝手にさせたこともないしさせるつもりも無いと、いつものように強い口調で吐き捨てられればリアムも考えを改めることは無かっただろうが、その声が自嘲すら滲んだ声だったため、己の不安から発せられた言葉が慶一朗を傷付けたのだと気付き、背中をシーツに沈ませると顔を囲うように腕を突いて色素の薄い双眸を見下ろす。
「ケイさん、悪かった」
「……うるさい」
「うん、ごめん」
「……」
「ごめん」
何故か今日はどうしても嫉妬に負けてしまうと情けない声で告白すると、慶一朗が両手でリアムの頭をそっと抱き寄せ、耳元に口を寄せる。
「さっきも言ったけど……お前しか知らないものもある」
「……そうか?」
「お前のものはお前だけのものだろう?」
リアムの自信のなさげな声に慶一朗が微苦笑しつつ片手を下ろしてリアムの形を変えたものに絡めると、不意のそれにリアムの腰が軽く揺れる。
「だから……」
そんな嫉妬など忘れてしまえと囁かれ、返事の代わりに慶一朗にキスをしたリアムは、優しい手に抱き寄せられて二人シーツに沈むように身を重ねるのだった。
慶一朗の悲鳴のような声が流れ、それに煽られるようにリアムが慶一朗の足を肩で押さえつけてぐいと腰を押しつける。
「――ッは……っ、あ……!」
散々アダルトグッズで快感を煽られ中を解されていた為か、リアムの太さと長さのあるものを慶一朗が受け入れたときには痛みを感じる事はなかったようで、奥へ奥へと進んだリアムの口からも気持ちよさそうな声がこぼれ落ちる程だった。
突き上げられる勢いを借りて逃げを打ちそうな身体を大きな信じられない程の優しい手が力強く引き寄せ、更に奥を刺激されて堪えきれない声を零す。
さっきまでの嫉妬の顔を掻き消し、今はただ慶一朗だけを見ている様に見下ろしては、視線が重なるとキスをしてくるリアムの腰に手を回して気持ちよさを生み出す場所を刺激してくれと態度で伝えると、己の思いを酌み取ったように動いてくれる。
こんな風に自らでは無く慶一朗の気持ちよさを優先し、最低限の負担で済むようにと体位も考えてくれる恋人など今まで付き合ったことはなかった。
リアムが嫉妬していたルカやラシードとセックスをした後は必ず起き上がれなくなるほどの激しさで、こちらの身体を気遣う余裕も無いほどだった。
だが、リアムと付き合い、男とのセックスは初めてだからと何となく方法を伝えてきたからかそれとも持って生まれた優しさからか、ルカ達とは違って痛みを殆ど感じる事はなかった。
ただ、二人や他の男達と決定的に違うのが、さっき口にしたリアムのモノの大きさだった。
さすがにこのサイズを持つ男と付き合ったことは無く、毎日リアムとセックスをすると尻が壊れてしまうのでは無いかと危惧したくなるほどのサイズで、今ではそのサイズにも慣れてきていたが、時折リアム自身が抑えきれないときにはリアムしか刺激したことの無い深い場所を突いてくることがあった。
それに早く気付けと思いつつ突き上げられて快感を生み出す場所を刺激されて腰を震わせた慶一朗は、見下ろしてくるヘイゼルの双眸に目を細め、手の代わりに両足を使ってリアムの腰を固定すると、嬉しそうに笑みを浮かべられる。
その顔が慶一朗の中で欲と情と混ざり合い、今リアム自身を最も感じている場所に伝わると、短く息を呑むような音がこぼれ落ちる。
その声を聞くのも楽しかったが、もっと気持ちよくなろうと誘うようにリアムの頭を抱きしめて何度目かのキスをする。
苦しくないかと問われてただ黙って頷いた慶一朗は、お前みたいに気遣いが出来る男も初めてだ、もうそれに慣れてしまったから今更他の男とも付き合えない、過去に付き合った男達とのセックスなんて思い出すだけでも萎えてしまうと笑うと、いつまでも見続けたい笑みを浮かべたリアムが慶一朗の背中に両手を差し込んだかと思うと、信じられない力でベッドに座り込む。
「――!!」
今まで少しは己のペースで快感を増幅させていたが、リアムの足の上に座らされてしまえば何もすることが出来ず、持ち上げられては引きずり下ろされて頭を仰け反らせる。
堪えたいが堪えられない声をすぐ近くにあるリアムの耳に流し込み、振り落とされないようにしがみついた背中につい爪を立てる。
気持ちいいかと問いかけそうな顔で見つめられ、これが気持ちよくない顔かと自棄になった様に顔を見下ろすと、嬉しそうな笑みがその顔に浮かんでいて、中に入ったものが質量を増した様に感じてしまう。
「……は、あ……ッ!」
奥も気持ちいいと思いつつリアムにしがみついていた時、あまり感じたことが無い強烈な快感が不意に生まれ、リアムの身体を挟むように伸ばした足が緊張する。
覚えのある感覚のはずだが全く違う不思議なそれに目を見張り、己とリアムの身体の間に挟まれているものを見下ろすと、達した事が一目で分かるものが付着しておらず、後ろでイったと呟かれて目尻を赤くしてしまう。
「お、れが悪いんじゃない……っ!」
気持ちよくさせ続けたお前が悪いと羞恥から小さく叫んだ慶一朗の頬にリアムがキスをし、うん、俺のせいだから責任を取ると返され、責任と呟くと同時に背中をシーツに沈められ、腰を捕まれて引き寄せられて背筋が震えてしまう。
「ん――ハ……ッ……あ!」
最奥で受け止める熱と質量は慶一朗の体内を蹂躙する凶器じみていて、本能的な恐怖を覚えて身体が逃げを打ちそうになるが、見下ろしてくる顔からは己に対する愛情以外を見いだせず、ここまで甘く優しい男など本当にいないと改めて気付くと、逃げるのでは無く一緒に気持ちよくなろうと告げるように両手を広げる。
その手の中にグッと身体を押し込んでくる愛しい男の背中を抱きしめ、ぶつけられる情と熱を受け止めながら珍しく声を押し殺すことをせずに上げ続けるが、リアムの息が上がってそろそろ終わりが見えてきた頃、大きな分厚い手が慶一朗のモノに絡められて強烈な快感に悲鳴じみた声を上げた慶一朗の口を塞ぐようにリアムがキスをし、腰と手を今までに無い激しさで動かし続ける。
「――!!」
どちらも同じタイミングで絶頂を迎えようとしているのか、リアムの動きが更に激しくなり、それに釣られた慶一朗がただ大きく口を開けて掠れた声すら出せなくなった時、リアムの口から短く息を呑む音が聞こえ、中に入っていたものがぶるりと震えた後に抜け出していく。
「……ふ、……っ」
リアムの手の動きに合わせて慶一朗自身も熱を吐き出して荒い息を吐いていたが、出て行った感触に息を詰めた後、肺の中を空にするような息を吐く。
「ケイさん、シャワー浴びれるか?」
「……面倒くさい」
今は指一本も動かす力など残っていないというものの、下半身を中心にローションやらジェルやら何やらが纏わり付いて気持ち悪かった。
だからリアムに向けて何とか手を持ち上げて風呂に連れて行けと告げると、喜んでと文字通り喜んでいる顔でリアムが起き上がり、慶一朗を軽々と抱き上げる。
この体力差に目眩を覚えた慶一朗だったが、メインのバスルームでシャワーをしようとキスされて任せると欠伸混じりに返す。
バスルームのバスタブに座らされた慶一朗に壁のシャワーから心地よい温度の湯を出したリアムは、気怠げに立ち上がる慶一朗の前進を手早く洗い流し、己も身綺麗にすると、壁に吊してあるバスローブを慶一朗の背中に被せて再度抱き上げる。
「……水」
「うん、後で飲もう」
単語を呟くことしか出来ない程の疲労感に包まれているらしい慶一朗の頬にキスをし、ベッドルームに戻ったリアムは、そっと慶一朗を下ろして同じように横に潜り込むと、水を飲んだ慶一朗がリアムの腰に腕を回して身を寄せてくる。
湿り気を帯びた髪の下に枕と腕を突っ込んだリアムが欠伸をすると、慶一朗が気持ちよかったかと欠伸混じりに呟き、最高だったとリアムがキス混じりに返す。
「……なら、もう寝ろ」
「うん。――Gute Nacht, ケイさん」
「Du auch.」
お休みなさい、お前もなとさすがに睡魔混じりの声で言葉とキスを交わした二人だったが、慶一朗の寝息が流れ出したのを確かめてからリアムが目を閉じる。
嫉妬から思わずいつも以上に無理な抱き方をしてしまったが、それでもそれを許してこうして傍にいてくれる慶一朗の、言葉に出されることは少ないが決して存在しない訳では無い思いを受け止め、一つ欠伸をして眠りに落ちるのだった。
翌日、慶一朗が目を覚ましたときには既に太陽は高く昇っていて、申し訳なさそうな顔のリアムにクッションやら何やらをぶつけて腹癒せにする。
悪いと笑いながら謝罪をするリアムだったが、寝起きの己しか見ることの出来ない慶一朗の少し茫洋とした顔に顔を寄せてキスをすると、全くと言いたげながらもキスを返してくれる。
それだけで昨日感じた嫉妬が昇華されたように思えるのだった。