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「意外に早かったですね」
もう一つのワイングラスを準備しながら、由樹は笑った。
しかし紫雨は口を抑えたまま、ただソファに座っていた。
「……?紫雨さ――」
「俺さ」
急に被せるように言いながら、彼は立ち上がった。
「明日に響いても悪いし、そろそろお暇するわ」
「え、あ、だって篠崎さんも一緒に飲みたいって………」
「明日4組もお客様連れて行く営業マンが何言ってんだか。勝負なんでしょ、あの人も君も」
「……あ、そうだった…」
「お前さ、明日、変な説明してるの見たら、たとえ客の目の前でも回し蹴りするからね」
「本当にしそう…」
由樹が微笑む。
「じゃあね、新谷。また明日」
「はい、よろしくお願いします!」
紫雨は立ち上がると、そそくさと帰って行ってしまった。
「ーーーー」
由樹は半ば呆然としながら、嵐のように現れて、霞のように帰って行ってしまった元上司を思った。
「結局、何しに来たんだろ……」
しばらくして脱衣場から、篠崎が髪の毛を拭きながら出てきた。
「あれ、紫雨は?」
「明日に響いても悪いからって帰りました」
「なんだそりゃ」
篠崎は、紫雨が出ていった玄関を振り返った。
「何しに来たんだろうな」
言いながらこちらを見下ろす。
「もしかしたら」
「ん?」
「俺のこと、心配してきてくれたのかも」
「心配?」
由樹は先ほど、紫雨が自分の頬に手を触れながら発した言葉を思い出していた。
『そこまでして手に入れたんだから、もう、迷うなよ』
由樹がその色素の薄い目を見つめながら頷くと、彼はその目を細めて笑った。
『篠崎さんは、お前みたいなやつがそばにいて、幸せもんだな』
「おい……」
明らかに自分以外の男のことを考えて呆けた顔を、篠崎は睨んだ。
「ちょっと来い」
腕をむんずと掴まれ、由樹はそのまま寝室に引きずられて行った。
篠崎は新谷をベッドの上に転がすと、その細い手首を抑え込んだ。
「な、なんですか?!」
「お前な」
見下ろすと、篠崎の髪の毛から垂れた雫が、新谷の頬に落ちた。
「俺の不在中に他の男を黙って入れるなんざ、いい度胸してるじゃねえか」
「他の男って―――。紫雨さんですよ?!」
「だから言ってんだ!馬鹿!」
間髪入れずに言うと、新谷はきょとんと目を丸くした。
以前あんな目に合っておきながら、その後の半年間で警戒感がゼロになっている平和な脳みそに脱力する。
「この際だから言っておくけど、お前さ、俺以外の男は全員狼だと思えよ!わかったか?」
「えー、それ突っ込んでいいんですか?」
新谷がヘラヘラと笑う。
「はあ?」
眉間に皺を寄せて睨むと、毒気のない笑顔で新谷は篠崎を見つめた。
「篠崎さんが、一番、狼なのに……」
「……言ってくれんじゃねぇか」
篠崎は新谷のTシャツを捲った。
その腹筋に指を這わせる。
「あ、あ…、ちょっと…!」
新谷が珍しく抵抗して身を捩った。
「俺、まだシャワー浴びてないんすよ!」
「だから?」
鎖骨まで捲り上げてから、その胸元に唇を落とす。
中心を走る縦のラインに舌を這わせると、かすかに汗の味がした。
「ダメですってば!」
抵抗しようとする手を、気を付けをさせるように腰の脇に押さえつけ、胸の突起まで嘗め上げる。
「んんっ」
新谷から色っぽい声が漏れる。
わざと音をさせながら、たちまち硬くなった先端を嘗めて吸って、弄ぶ。
「——し、のざきさん…っ」
新谷がこの後に及んでまだ抵抗する。
「お……れ、暮らしの体験会の復習、しない、と……」
篠崎はふっと笑った。
「じゃあ、県内ナンバーワンの篠崎マネージャーが、直々に問題を出してやるよ」
「んな、無茶な……」
新谷が苦しそうな声を出す。
「第一問。台風は北西太平洋または、南シナ海に存在する熱帯低気圧のうち、低気圧域内の最大風速が何メートル以上の物を言うでしょうか」
言いながらそれに軽く歯を立てる。
「——っ!……17メートル……」
「正解」
言いながら舌を滑らせ、腹筋をなぞる。
「第二問。セゾンの窓ガラスは風速何メートルまで耐えられるように作られているでしょうか」
手を抑えられたままの新谷の尻が浮き、腰がくねる。
「70メー……トル」
「正解」
優しく手を放し、イージーパンツに指をかける。
「篠崎……さ、ん!」
「第三問」
抵抗する隙を与えずに続ける。
「セゾンの暮らしの体験会では、お客様に風速何メートルの風を体感していただくでしょうか」
「————」
新谷が切なそうな顔で、篠崎を見つめる。
「30メートル…?」
「不正解。33メートルだよ、新谷君?」
「……………!」
「お仕置きが必要だな」
「っ!」
篠崎はにやりと笑うと、イージーパンツを一気に引き下ろした。
「……ん!……ああッ!」
前も後ろも十分に解した後、一気に突き入れると、新谷は腰をしならせながらひと際大きな声を出した。
そのまま激しく腰を動かすと、ものの数回で篠崎の手の中にあるそれは破裂寸前に痙攣を始めた。
「……俺、ホントに、暮らしの体験会、自信なくて…」
新谷が潤む瞳で篠崎を見つめた。
「練習……したい……!」
「……………」
さすがに胸の奥が切なくなる。
あれだけ練習すると張り切っていたのに、元上司に押しかけられ、現上司に強引に犯され、なんてかわいそうな新谷……。
そう考えると、どうしても笑えてきた。
「……ひどい。篠崎さん…」
篠崎のたくましい腕に細い指を絡ませながら、新谷が唇を噛んだ。
「大丈夫だよ」
新谷の柔らかい髪の毛を撫でる。
「お前は、いつも通りでいい―――」
「そんな……あっ!」
いきなり動きを再開した篠崎の腕を、新谷の手が握る。
腰の動きに合わせて、前の方も大きな手で擦り上げると、その動きに耐えられなくなったのか、腕から手を放し、自分の膝辺りを抑えた。
その膝裏に腕を滑らせると、尻を高く上げ、深く挿し入れた。
「は……あっ…!あぁッ……!!」
新谷が腰だけではなく、身体全身を痙攣させながら果てる。
潤んだ目から涙の筋が耳に向かって流れ落ちていった。
風船のように胸を大きく膨らませ萎ませながら、荒い呼吸を繰り返す恋人を愛おしく見下ろす。
(……今日はここまでにしとくか……)
体勢を整え、引き抜こうとすると、その細い脚が、篠崎の腰に巻き付いてきた。
「————!」
大きな目が開かれる。
「篠崎さん…。まだイッてないですよね……?」
「——ふっ」
篠崎は生意気な言葉を吐いた口に、唇を落とした。
「明日、バスで寝るなよ?寝たら、殺すからな?」
巻きつけられた足を優しく外すと、篠崎はにやりと笑い、再び強く突き入れた。