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三人称視点のれんしゅー! 他作品は投稿頻度おちまふ…(;^;`)
prologue.
この、人と人でない者が混在する世界を隅から隅まで歩き回るには、相当な時間と労力を必要とする。
そんな中、とある男は誰しもが一度は夢見るであろう世界一周を目前にしていた。
彼が今まで渡り歩いてきた国は百を軽く超える。残すところ、あと一国となった今、男は二つの別れ道を前に逡巡していた。
下手くそな字で書かれた看板では、鬱蒼とした山道の方を遠回りと示していた。
「えぇ〜…どっち行こう……」
(近道がこっちで…遠回りがこっち…)
急がば回れ。
そう心に言い聞かせて、男は遠回りの矢印が書かれた山道へと向かった。
しばらくして、別れ道に先程とは違う男がやって来た。
髪の赤いその男は、看板と別れ道を繰り返し見つめては、首を捻っている。
男の後ろからやってきた、金髪の男は髪の赤い男の様子に呆れながら看板をクルリと回して裏返した。
「えっ!?あ、えぇー…またイタズラ?」
「レウはアホやなぁ…こんなヘッタクソな字ぃ見りゃあ、誰だってわかるやろ」
「ゔ…た、たしかに……」
「どりみのとこ、さっさと行こーぜ〜」
こんな幼稚なイタズラに騙されるのはお前くらいだ、と言いながら山道へと向かう金髪の男の背中を追って髪の赤い男は走った。
彼らの前に、幼稚なイタズラに騙されたアホな男がいたなんてことも知らずに。
「はぁぁあ…道険しすぎない?」
ぜぇぜぇと肩で息をしながら、男は額に浮かび上がった汗を拭った。
夏の日差しが木々の隙間から、じりじりと容赦なく肌を焼く。
男が選んだ山道は狭い、湿っぽい、すごく暗いを兼ね備えたハイブリッド山道だった。
当然地図なんかに道の詳細が載っているわけもなく…
「迷子すぎるんだけど…」
途方に暮れた男は、夏空に溜息をこぼした。
足元が疎かになったその時。
昨夜の雨で地面がまだ緩かったせいか、足を滑らせて険しい山道の斜面に放り出された。
(あ…俺、死んだわ……)
死ぬ瞬間はスローモーションのよう、なんて物語ではよく言われているが、今の自分はまさにそれだとぼんやり考えていた。
山の斜面はのっぺりとしていて、引っかかれる可能性は無いに等しい。
最後の足掻きとして指を立ててみても、スピードが衰えるわけでもなく、ただ自分の指を痛めるだけだった。
(あーあ…惨めだなぁ、誰に見届けられるでもなく独りで死ぬのか……)
男は諦めと共にゆっくりと目を閉じた。
数十秒、もしかしたらほんの数秒だったかもしれない。
兎にも角にも、そんな長くも短くも感じられる時間の経過の後、男の全身に衝撃が伝わり、男は意識を手放した。
「……」
男が滑落する数秒前。
とある少年が川を訪れていた。
「…水、多イナ」
少年はザブザブと川に入り、川水の冷たさに身を震わせる。
そのまま水浴びをして夏の日差しで火照った身体を冷やし始めた。
少年がそろそろ帰ろうかと思い立った頃、突然背後で肉のひしゃげるような音が聞こえて、少年は背後の光景を想像して恐る恐る振り返った。
「エッ!?」
「ゔ…ぅ……」
想像していた残酷な姿ではないものの、男の足はひどく腫れていて、素人目で見ても落下してきた男が足を痛めているのは確かにわかった。
「……ハァ、ショウガナイ…」
濡れたローブを脱いで、袖を男の胸元で輪にする。
しっかりと結んでから服の裾を引っ張り、男を引きずるようにして運んだ。
傷を抱えた二人の出会いだった。