レイチェルは横になると
静かに目を閉じた。
しかし
眠りに落ちるには
まだ時間が掛かりそうだった。
体は疲れ切っているはずなのに
頭の中は思考が止まらず
次々と浮かぶ顔が脳裏に映し出される。
ーアリアー
まるで人形のように無表情で
深紅の瞳だけが
感情を閉じ込めるように
静かに光っていた。
彼女が纏う冷たく孤独な空気は
想像を絶する
1000年の苦しみの証なのだろう。
ー時也ー
穏やかで
何処か父親のような
安心感を与える存在。
だが、その優しさの裏には
時折鋭く光る怒りが潜んでいた。
不死鳥への怒り⋯⋯
そして
アリアを救えない無力さに苛まれた
深い絶望があるのかもしれない。
店の中で転生者に傷付けられる彼女を
どんな気持ちで
彼は見守っているのだろうか⋯?
ーソーレンー
ぶっきらぼうで無愛想
まるで何もかも
投げやりのような態度。
だがその背中には
どこか影が差していた。
彼の横恋慕の話は
時也の口から語られたものだし
聞いた事が全て真実とは
限らないかもしれない。
ー青龍ー
年端もいかない幼い姿に似合わない
威厳に満ちた物腰。
包帯に包まれた体と
どこか遠くを見つめるような山吹色の瞳。
彼の幼さの奥に潜む
何か別の存在を感じずにはいられなかった。
(⋯⋯彼らの事
まだ末端部分しか
聞けていないんだろうな⋯⋯)
レイチェルは 重く感じる瞼の奥で
揺らめく彼らの姿を思い浮かべた。
不可思議な力を持つ者たち。
レイチェル自身も
そんな存在の一人だった。
姿を変える異能。
この能力で
今まで散々苦しんできた。
誰にも心を開けず
深く関われば
自分の輪郭が溶けるように
他人に染まっていく。
本当の自分はどんな顔だったのか
今となってはもう⋯ 思い出せない。
そんな自分にとって
「仲間」という言葉は
ずっと遠い存在だった。
けれど⋯⋯
(⋯⋯明日は
彼らの事をもっと理解しよう)
そう思えたのは
きっと 彼らがどこか
自分と同じ痛みを抱えていたから
かもしれない。
ー仲間は近くにいますー
あの紙に書かれていた言葉。
最初は
ただの迷信だと思っていた。
けれど今なら
その意味が分かる気がした。
ここは本当に
悩みを解決する喫茶店だった。
そして
たとえ異質な存在でも⋯
例え過去に
苦しみを背負っていたとしても
彼らは確かに
「仲間」になり得る人達
なのかもしれない。
(⋯⋯来て⋯良かった⋯⋯)
レイチェルはゆっくりと呼吸を整え
深く布団に潜り込んだ。
微かに残る胸の温もりと
時也がくれた鈴に移った彼の体温が
掌の中で静かに交わっていた。
今夜は少しだけ
穏やかに眠れそうだった。
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