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静まり返った第2理科室では、誰もいないかのように思われたが、1人の小さなうめき声が微かに聞こえる。
「…ああっ…あああ〜…。」
いつまでもギュッと自らの体を抱え込み、ひとりで静かに泣いている。
「あー、あーっ!」
心のストレスは溜まりに溜まって、体は助けを求めている。
翔は…一体なんだったのか。さっき起こった出来事は全て夢であり、明日になれば何事もないのではないか。そうであったら、どんなに嬉しいだろう。
(健…。)
無自覚のうちに髙橋健のことを考える。
(なんで…私の髪を触ったって…。翔の言ったことは本当なの…?)
もしも。…もしも、翔があの誰もいないと思っていた電車に乗っていたとしたら、その時なのだろうか。あの時、紗奈は健の肩にうっかり寄りかかってしまったと思っていた。だが…。
(確かに、よく考えたら不自然だ…。 )
電車内は空っぽと言ってもいいほど人は居なかったのに、嫌いである紗奈の隣にわざわざ座るわけもない。
(寄りかかっていたのも、嫌いなら起こしてくれる可能性が高い。もしかしたら健がわざと…。)
紗奈の息は段々と乱れていく。
(本も持ってくれたりしたのは、親切心からじゃない?)
パチンっ
紗奈は自分の頬を思いっきり叩いた。
(健はそんな事しないと思う…。駄目だ、勝手に自分のストレスに巻き込むなんて…!)
「きっと翔が言ったことは嘘だ。私と健を離れさせるための嘘。そうだ、そうに違いない…。」
紗奈はボソボソと呟き、誰が悪かったのか、何も分からなくなっていた。予想もしていなかった事が、今日起こったのだ。頭が混乱して思考が回らないのも無理は無い。
(駄目だよ…巻き込んじゃいけない。私の世界なんだから、責任は私が取らなきゃ。
翔があんなに必死だったのも、私のせい…。私が不安にさせたんだ。)
かつての瑠璃の言葉が蘇る。
『うん、まぁ…そうやって人の事考えるのが紗奈らしいけどさ。』
(違う違うっ。人のことを考えているんじゃなくて、私の保険のためなのに…っ。)
頭の中は常にぐるぐると嫌な思考がめぐり、精神を追い詰めていく。
スカートのポケットに入っているスマホを取り出し、画面をそっと触った。ぽうっと画面が光る。
(もう7時…。早く帰んなきゃ…お母さんが心配しちゃう…。)
けれど到底帰る気にはならない。
(1人だけの世界なら、ここまで考えることもないのに。)
ズッと足を引きずり、近くにある机などを頼りに、暗闇の理科室から出ようとする。自分以外はいつもと変わらない日常であること。それが苦しくてたまらない。
紗奈だけが、こんなに苦しいのか?
途端、ぼろぼろと涙は零れ落ち、溜まっていた感情は爆発しそうになる。
「ぁぁぁああ!!」
誰もいない廊下に紗奈の声だけが響き渡る。
「お願い…誰か…助けて…。」