……… 絶対、ウラタロスが原因でしょ、そう思いながら、僕は見知らぬ女性にビンタをくらった頬を撫でる。
探偵事務所に戻るとボロボロになった僕の傷の手当てを亜樹子さんがしてくれた。
「知らない女性からビンタなんて事あるんだな、誰かに間違われたとかか?」
と言いながら翔太郎さんはコーヒーも淹れてくれている。
「いや、多分知ってる人……だと思います…。携帯の連絡先一覧にその人の名前があったので…」
最後にやり取りしていたのはもう3年ぐらい前だった。みんなと別れる前に、こういう人達と縁切っといてって言うべきだったかな。
「えっ、まじ?そんな事する風に見えないのにな」
と驚きながらコーヒーを出してくれた、
「うっそ〜!良太郎くん、真面目そうなのに!女の敵!」
亜樹子さんが驚きながらそう言う。なんだか、何処か元気がなさそうだ。
その後で表情を変えず立ってる人は照井さんと言うらしい。
照井さんとは初めましてだけれど、…何処かであったことあるかな?
知ってる気がする。
「いや、彼は悪くないよ」
とフィリップさんが庇ってくれた。
本に目線を落としながら此方へ歩いてくる。
「野上良太郎、君の事は全て閲覧済みさ。と言っても、君が未来に行ったり過去に行ったりしていたからか、正確には分からなかったけれどね。実に興味深い。」
自身の唇を人差し指で軽く触るのはフィリップさんの癖らしい。その癖を出しながら話を続ける。
「君は電王として活躍している時期に多重人格者のようになっていたんだろう、未来から来たイマジンが原因で。そのイマジンの一体が君に憑依して、女性を誑かしていた。」
違うかい?否、そうだろう?
と自慢げに翔太郎さんと亜樹子さんと話してくれた。二人とも「へぇ〜!」と驚くよりも納得のような表情で頷いた。
照井さんはただただ表情を変えず、亜樹子さんの後に立っていた。
けれどなんだかやっぱり知ってるような…
そんなことを思いながらコーヒーを飲む。
美味しいとも不味いとも言えない味に苦笑いを零すと、
「翔太郎くんの淹れるコーヒー微妙でしょ?うちの旦那が淹れるコーヒーの方が美味しいのよ〜」
僕の手当てをし終えた亜樹子さんが胸を張りながらふふんと自慢げに言う。
けれどすぐしょんぼりとしてしまった。
「でも竜くん、記憶喪失らしいの……」
亜樹子さんは照井さんの手をぎゅっと握る。
「えっ、ええっ!?」
まさか、そんな事になってるなんて……
驚いて思ったより大きな声が出た。
その声に驚いたようにこっちを見た照井さんとバッチリ目が合う。
照井さんは焦ったようにすぐ目を逸らした。
でもその一瞬で僕は分かった。青い目、隠しきれていない柔らかで軽そうな顔と仕草。青いメガネに青いメッシュ。
なるほどね、記憶喪失っていう設定なんだ。
でも僕以外の人に…しかも奥さんが居る人に憑依して迷惑をかけるようなら、許せないかな。
「そんな大変なことになっていたんですね……。早く照井さんが元に戻れるように、僕も手伝わせて下さい、」
「いや、依頼人にそんな事させれねぇよ」
翔太郎さんが大丈夫だ、と僕の申し出を断わる。けれどこれは多分僕が責任とらないといけないことだから、こっちも引く訳にはいかない。
「でも、僕、照井さんを元に戻す方法、分かるかもしれません、」
「まじ!?……なら、悪ぃけど教えてくれないか?」
「多分…ですけどね」
申し訳ないなんて言いながら僕にお願いする翔太郎さん。申し訳ないのは僕の方だよ……。
そう言う罪悪感を覚えながら、照井さんの前に行く。照井さんは少し冷や汗をかいてるように見えた。目を合わせてくれない。
「あの、元に戻す方法試す前に1つ質問させてください。『さゆみさん』『りんさん』『けいこさん』……今月、僕にビンタしてきた人なんですけど、この人達に心当たりあったりしますか?今教えてくれないと、………… 。」
にっこりと微笑みながらそう聞く。
今名乗り出るなら、まだ許してあげるよ。
なんて意味を込めながら。
探偵事務所の3人はなぜそんな事を聞くのか分からない様子だった。
しかし、しっかりと意味が伝わったであろう照井さんの体を借りてる彼は、少し顔を焦らせて、観念したようにゆっくり両手を挙げた。
「やっぱり、目を合わせた時?」
照井さんの真似をしていた時とは打って変わって、優しい顔つきになっていた。
その照井さんの行動に僕以外が驚く。
「何がどうなっているんだ?」という顔で。
「うん」
「そうだよねぇ、バレたって思ったもん。流石、良太郎。」
「褒めても『そのままでいいよ』って言うつもりはないからね、」
「釣れないなぁ、」
「……でも再会するなら、迷惑かけてる所じゃなくて活躍してる所が良かったな。」
「…………良太郎…」
僕の本心だからか、照井さんの体を借りてる彼は、罪悪感を感じたような表情をしていた。
その会話を聞いていた翔太郎さんが慌てた様子で割って入ってきた。
「ちょ、え、何が起こってるか説明してくれねぇか?」
「あ、そうですよね…すみません…。」
「まあまあ、僕から説明するから、良太郎はコーヒーでも飲んでてゆっくりしてて」
「……ほんとのこと話すんだよ?ウラタロス。」
「良太郎の目があるのに嘘話せるわけないよ。」
ウラタロス。その言葉を聞いてフィリップさんは目を輝かせた。
「君!君があのイマジンの一体!ウラタロスなのかい!?」
「え、?ま、まぁ。」
「成程。翔太郎!彼は良太郎に憑依するイマジンの一体だよ!それが今、照井に憑依しているだけのようだ!」
目をランランとさせながらフィリップさんが翔太郎さんに話す。
翔太郎さんにもイマジンの話をしていたから、すんなりと受け入れてくれた。
「ちょ、ちょっと待って!なら竜くんの記憶喪失って言うのは?」
「ああ、それね、それは僕のウソ。あ、でも頭が痛かったのはホントだよ。彼、すっごい暴れたからね。『所長に手を出すな』『所長に変な事を言うな』って。」
「ええ〜?竜くんってば〜、も〜♪」
さっきまでショックを受けたような顔をしていた亜樹子さんは、ウラタロスの言葉を聞くとすぐに機嫌を取り戻した。
「なぜ、緑髪の彼が僕の事を知ってるかは置いといて… 、僕の事話さないと 。」
そう言ってウラタロスは照井さんに取り憑いた経緯と記憶喪失と言った理由を話し始めた。
久しぶりにナンパしようと良太郎のいる時間に来たものの、良太郎がミルクディッパーに居なかった為、ふらふら顔がいい人を探して風に乗るようにさまよっていた所、風都に辿り着き、そこで照井さんを見掛けて取り憑いたらしい。
そして、彼の情報を引き出そうと質問したら「俺に質問するな」としか言わなかったので、記憶喪失という手を使ったんだそう。しかし、照井さんに妻が居ると知り、少しナンパを躊躇っていたら、探偵事務所に連れてこられ、そのタイミングで照井さんが「所長を悲しませるなら出ていけ」と暴れ始めた。とのこと。
「流石に浮気をさせちゃったら、悪いしね。それに、良太郎が許してくれないだろうなって。」
顎に手を当てて、ふふっと顔を緩ませる。まさにウラタロスって感じ。なんにも変わってないなぁ
「え、ちょっ、良太郎?なんで泣いてるの?」
「え…?」
ホッと安心すると同時に涙が零れ落ちてしまったようだ。恥ずかしいと思って急いで涙を拭う。ウラタロスはギョッとしていたけど、察したように笑うと、照井さんの中から青い光になって飛び出し、僕の体に入ってきた。僕に変わって僕の体を操り始める。この奥に押しやられる感じも少し懐かしい。
「もう、良太郎に涙なんか似合わないよ。」
と言いながら、僕の涙をウラタロスが代わりに僕の体を使って拭う。
その様子を外から見ていた翔太郎さんとフィリップさんと亜樹子さんは微笑んでくれていたけど、照井さんだけが怒った様子で此方に歩いてきて僕の胸ぐらを掴んだ。
「貴様ッ、よくも……!」
「おっと、いいの?この身体、良太郎のだけど。こんなボロボロなのに、さらに傷増やす?」
「ッ、」
ウラタロスの言葉に、バッと胸ぐらを離す。
『ねぇ、ウラタロス、ちゃんと照井さんに謝って。「勝手に体使ってすみません」って。』
「えぇ、ん〜…」
『ウラタロス、謝って。僕の体使っていいから。』
「…そこまで言われちゃ、謝らないとねぇ。照井くん、ごめんね?」
「……。」
『ダメだよウラタロス、もっとちゃんと謝らないと…!』
「えぇ?これダメ?」
『ダメ、もう体貸さないよ?』
「…、………。わかったよ、照井竜さん、この度は大変申し訳ありませんでした。」
「…次はない。」
『良かったね、ウラタロス。』
「良太郎も許してくれる?」
『照井さんが許したんだったら、僕も許すよ。』
そんな1人で会話してる僕達を見て、不思議そうに皆するかと思ったら、「嗚呼、ウラタロスと良太郎が会話してるんだな」とすぐ理解してくれた。
多分、翔太郎さんもフィリップさんも変身すると1人の体に2人入るから、かな?
「で、なんで良太郎が探偵事務所にいるの?また何か事件に巻き込まれた感じ?」
『えっとね……実は、姉さんと侑斗が一晩で消えちゃったんだ……。』
「えぇ!?」
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