※須藤北斗視点
父さんが厳かな雰囲気を放ちながら机に肘をつき、俺を見る。
「北斗が会社に来るなんて珍しいな。なんだ? 金でも必要になったか?」
「違うよ! 金じゃない!」
「じゃあ女か? ったく……お前は俺に似て顔がいいんだから選び放題だろ?w上手いことヤってんのか?」
「そ、それはもちろん」
「そりゃよかったwそうだ、今度紹介してくれよ」
「何をだよ」
俺が聞き返すと、父さんがニヤリと微笑む。
「決まってるだろ? ――お前の同級生だよ」
「ッ!!!」
ぞくりと背筋が震える。
……さすがは父さんだぜェ。
欲しいモンはすべて手に入れてきた男の中の男の姿だ!!!
「こないだ言ってただろ? とんでもなく可愛い女の子が学校に四人もいるって。だから楽しみにしてたんだよ……やっぱり、若さはお金じゃ買えないからなwww」
「それは……まぁそうだけど」
って、こんな話してる場合じゃない!
「ってか父さん! 頼みがあるんだ!」
「ん? なんだ言ってみろ」
「実は……クソムカつく野郎が学校にいて。この俺に何度も歯向かってきやがったんだ」
「随分と身の程知らずな奴がいるもんだなw逆に興味が湧くよ。お前に盾突くなんてさwww」
「そうなんだよ! だから俺は……アイツを徹底的に叩き潰したい。再起不能になるまで、俺に盾突いたことを一生後悔させるくらいに!!!」
「それでこそ須藤家の長男だ。で、どうするんだ?」
九条の野郎の弱みを見つけることは、結局できなかった。
ほんとはもっと調査してェところだが……今の俺は我慢ができない。
だってこれまでに感じたことのない屈辱をこんなにも溜め込んでるんだからなァ……!!!
今すぐアイツの悲しむ顔が見たい!
アイツのすべてを奪い去ってやりたい!
そうしないと俺の怒りが収まらねェ!!!
アイツの家の一階には『スナックこずえ』という店があった。
それにクソ野郎の家から出てきたあの男と美女。
雰囲気から察するにそのスナックで働いてるに違いない!
つーことは九条家はその店を営んでいるということ!
……つまり。
俺様に反抗したムカつく野郎共を一気にドン底に突き落とす方法は――ただ一つ。
「アイツの家がやってる店をぶっ潰す」
俺が言うと、父さんはニっと口角を上げた。
「いいじゃないか」
やっぱり俺は父さんの子だ。
父さんの英才教育を受けてこんな天才になっちまったwww
早くアイツの悲しみに暮れる顔が見たい。
早く俺に屈辱を味あわせた男を叩き潰したい。
そしてあの美女を――手に入れたい。
俺がしたいと思ったことは絶対にする。
俺が欲しいと思ったものは絶対に手に入れる。
これが須藤家の家訓。
俺の生き様だ。
「色々と手は回しといてやる。任せておけwww」
「さすが父さんだよwww」
クックックッ……!
実行日が楽しみだぜェ……!!!
「ところで北斗、その店の名前はなんなんだ?」
「あァ、確か……スナック“こずえ”だよ。捻りもねぇ安直な名前だよなwwwもう少し工夫を――」
「な、なんだと?」
父さんの表情が一変する。
店の名前を言った瞬間、わなわなと震え始めた。
「いや、聞き間違いだ……絶対そうだ。北斗、もう一度言ってくれ。その店の名前は……」
「だから、スナックこずえだよ!」
「ッ!!!!!!!」
ガンッ! と強い音を立てて父さんが机を叩く。
額には尋常じゃないほどの量の汗が滲んでいて、明らかに普通じゃなかった。
「ほ、北斗。忠告しておく。――そのスナックこずえには“絶対に”近づくな」
「は? なんでだよ! 俺が潰したいのはその店なんだぞ!」
「ダメだ!!! その店は絶対にダメだ!!!!」
「だからなんでだよ!!!」
父さんがこんなになるなんて想定外だ。
したいことは必ずする。父さんに不可能はないはずなのに。
「スナックこずえはな、裏社会の“VIP”がこぞって集まってんだ。さすがの俺でも、敵には回せない……!!!」
「裏社会のVIPだとォッ⁉」
嘘だろ⁉
なんでアイツの家がそんな店やってんだ⁉
……いやでも、アイツの素性は調べても出てこなかった。
それにあの強さ、身体能力。
……いやまさか。あ、あんな覇気のねェ奴が⁉ 信じられねェ!!!
「とにかくこの話はなかったことにしてくれ。お前も! 絶対にこずえには近づくな!!!」
「でも……!」
「いいなッ!!!!!!」
「……わ、わかった」
父さんにここまで言われたら頷くことしかできない。
でも一体どういうことだよ。
あの父さんがここまで怯えるなんて……。
九条良介。
アイツは一体……何モンなんだ……?
♦ ♦ ♦
――チュンチュン。
小鳥のさえずりが聞こえてくる。
「……ふはぁ」
あくびをし、大きく伸びをしてから体を起こす。
どうやら目覚まし時計が鳴る前に起きてしまったらしい。
だが別に眠気はないので、早めに起きて余裕を持って支度を……。
「んぅ……りょうちゃーん……うへへ」
一瞬目を疑う。
だってすぐ隣に、相変わらず無防備な格好をした瞳さんが寝ていたから。
……ったく、またこの人は。
「瞳さん、起きて」
「やだぁ……まだ寝るぅ」
「寝るなら自分のベッドで寝てくれ」
「りょうちゃぁん」
「だから」
「りょうちゃぁん」
「なんだよ」
「えへ、結婚しようねー」
ふにゃりと頬を緩ませ、寝ぼけながら瞳さんが言う。
「脈絡がなさすぎるよ」
俺がツッコむと、瞳さんはニヤニヤしたまま再び寝息を立てるのだった。
「行ってきまーす」
いつも通りの時間に家を出る。
路地裏は昨晩の盛り上がりが余韻としてかすかに残っていて、朝ならではの雰囲気が漂っていた。
この雰囲気が俺は嫌いじゃない。
「あ、良介くんだ!」
「おはよう、良介」
「おはよう、二人とも」
二人が俺の下に駆け寄ってくる。
そして自分の物だと言わんばかりに俺の腕に抱き着いてきた。
「ってか、もう朝に待ち伏せてるのはデフォルトなんだな」
「ま、待ち伏せじゃないよ!!!」
「待ち合わせよ? そこ、勘違いしないでくれる?」
俺はいつ一緒に登校する約束をしたんだろう。
というかよくよく考えたら、いつの間にか二人に家の前で待たれているこの状況は一体どういうことなんだろう。
……いや、考えるのはやめよう。
考えてはいけない気がする。
「じゃ、行こうか」
「うん!!!」
「そうね」
三人並んで歩き始める。
すると俺の家のドアがガチャリと開き、中から無防備すぎる格好の瞳さんが出てきた。
一ノ瀬と花野井がものすごい速度で瞳さんの方に振り向く。
……あ、これは。
「りょうちゃーん? お弁当忘れてるよー」
――ピキッ。
……なんだろう。
今ものすごくよくない音が鳴った気が……。
「良介、くん?」
「良介? これはどういうこと?」
空気が一変する。
殺意に近いような、身の危険を感じるオーラ。
それが目の前の二人からこれでもかというくらいに発せられていた。
「えっと……」
逃げるように瞳さんを見る。
瞳さんは二人に迫られる俺を見て、にへらと笑った。
「りょうちゃん人気者だね~」
な、なんて呑気な……。
♦ ♦ ♦
※壇上瞳視点
りょうちゃん、あんなに可愛い女の子二人に迫られるくらい大人になったんだなぁ。
私は素直に嬉しくなる。
ふと思い出すのはりょうちゃんと初めて出会ったときのこと。
私の人生が確かに変わったときのこと……。
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