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「それはそうと、どうしてこんな事に? 喧嘩?」
「……まあ、そんなとこ」
「……良くある事って言うけど、こんな怪我をいつも?」
「今日はちょっとヘマしただけだって。相手が予想より多かったからやられた、それだけだ」
「……どうして、そんな危ない事するの? この怪我だって、大した事ないって言うけど、痛いでしょ?」
「痛くねぇって」
「嘘! さっき私が触ったら痛がったじゃん」
「あれはお前の力が強かったんだよ」
「……それは、ごめん……」
「だから別に気にしてねぇよ。つーか、本当、その顔止めろって。そういう顔されると、俺が何かしたみてぇに見えるだろうが」
またしても恵那が悲しげな表情を浮かべた事を斗和が指摘すると、非難されたように感じたのか更に落ち込んでいく。
「……ごめん」
「――だから、別に怒ってるわけじゃねぇよ。ただ、そういう顔されると、どうすればいいか分らねぇんだよ。とにかく、いちいち落ち込むな」
「……うん」
何だか気まずい空気が流れてしまい、どちらもそのまま黙り込んでしまった、そんな時、
「斗和さーん!」
どこからか斗和を呼ぶ声が聞こえて来て、その声の方に恵那が視線を向けると、
「斗和さんこんな所に……って! え? ええ!? もしかして、キミ、えなりん!?」
二人の元へやって来たのは、明るい茶髪でナチュラルマッシュスタイルの人懐っこそうな男の子で、恵那たちと同じ学校の制服を身に纏っていた。
そんな彼は恵那の姿を見るなり目を見開いてそう叫んでいた。
「えっと……そう、です……」
「マジっすか!? え? ってか何でえなりんが斗和さんと!?」
彼のような反応には慣れている恵那だけど、あまりの気迫に押され気味で戸惑っていると、
「おい忍、何なんだよ、その『えなりん』ってのは」
茶髪の少年――針ヶ谷 忍に向かって一体何事かと問い掛ける斗和。
「え? 斗和さんもしかして、えなりん知らないんですか!?」
「え!?」
そんな斗和に忍は勿論、恵那も驚き二人揃って斗和を見た。
「な、何なんだよ?」
「えなりんは【CANDY POP】の人気ナンバー1で常にセンターポジションの超人気アイドルですよ!?」
「アイドル!? 海老原、お前、アイドルなのかよ?」
「……うん、一応……」
「どうりでお前をどこかで見たと思ったわ」
忍と恵那の言葉で、初対面に感じた既視感の正体が分かった斗和は一人納得する。
「うわー、嬉しいなぁ、まさかこんな所でえなりんに会えるなんて!」
喜ぶ忍をよそに、若干引き攣った表情を浮かべる恵那を前にした斗和は、
「おい忍、テメェはそういうキャラじゃねぇだろうが。つーか、コイツは今日俺のクラスに転校して来た海老原 恵那だ。その、えなりん? とかいうのはあくまでもアイドル活動してる時の呼ばれ方だろ? そいつもその呼び方は気に入って無さそうだし、止めてやれよ」
半ば呆れ顔で浮かれている忍を一喝した。
斗和のその言葉に、思わず恵那は泣きそうになってしまった。そんな風に言ってくれた人は初めてだったから。
「あ、そうですよね、すいません!! 俺、芸能人に会った事とか無かったからつい浮かれちゃって!!」
「ううん、その……知っててくれてありがとう。ただ、江橋くんの言う通り、その愛称はあまり好きじゃないから、普通に恵那って呼んでもらえると嬉しいな」
「ええ!? そそそ、そんな! 呼び捨てとか絶対無理っす!!」
「本人が良いって言ってんだから遠慮すんなよ。なあ、恵那」
「あ、う、うん。呼び捨てで全然構わないよ」
恵那と呼んでくれと言ったのは自分で、それは忍に限らず勿論斗和にもそう呼んでもらえたらと口にしたものの、実際斗和に『恵那』と呼ばれると胸の奥が何だかむず痒いような、何とも言えない感覚に陥った恵那は一瞬反応が遅れつつも、斗和の言葉に相槌を打った。