「いや、でも、そもそも斗和さんたちは先輩ですから、やっぱり呼び捨てはちょっと……。それじゃあ、恵那さんって呼ばせてもらいますね!」
「うん。それじゃあ私は……忍くんって呼んでも、いいのかな?」
「勿論!! 好きに呼んでください!!」
忍は人懐っこく、笑顔も爽やかで可愛らしい。爽やかイケメン……という言葉が似合いそうな男の子で、そんな彼の笑顔に恵那の心は癒されていく。
「それじゃあ俺の事も名前で呼べよ。俺もお前の事は恵那って呼ぶから」
「う、うん、分かった……斗和……くん」
流れで自分の事も名前で呼ぶよう言った斗和は、恵那が『斗和くん』と呼んだ事に難色を示す。
「斗和でいい。呼び捨てにしてくれ、頼むから」
どうやら『くん』付けで呼ばれる事は慣れていないのかお気に召さないようで、呼び捨てで呼ぶよう訂正する。
「分かった。それじゃあ、斗和って呼ぶね」
今まで異性を呼び捨てにした事が無かった恵那はちょっと戸惑いながらも、本人がそうして欲しいならと『斗和』呼びを承諾した。
「それはそうと忍、お前俺に何か用があったんじゃねぇの?」
そもそも、忍が自分を探していた目的は何なのかを斗和が確認する。
「用っていうか、斗和さん全然連絡つかないからみんなで探してたんですよ! 【BLACK CROSS】の連中に健太が捕まった上に、助けたいなら斗和さん一人だけだと名指して呼ばれたってメッセが来て、その後健太が助かった事は本人からのメッセで分かったけど、途中で別れたっていう斗和さんに呼び掛けても音沙汰無いし、電話も出ないし……心配したんすよ?」
「悪ぃ、連絡しようと思ってたんだけど、ちょっと疲れて休憩してたんだよ……」
「まあ、無事で良かったですけどね。ひとまず俺の方からみんなに連絡しますよ」
「ああ、頼むわ」
そんな忍と斗和のやり取りを黙って見守っていた恵那は、話が一区切りつきそうなタイミングを見計らって声を掛けた。
「あの、その話って、もしかして昼間用事があるって帰った事と、関係があるの?」
「あー、まぁな」
「……誰かと喧嘩してたって、事でしょ?」
「色々あんだよ。こっちにも事情が」
「でも……そんな怪我する程の喧嘩なんて……良くないよ。しかも、一人で何人も相手にしたって事でしょ?」
二人の会話から推測した恵那は斗和が一人で危険なグループの人間相手に喧嘩をしたと解釈し、その事を問いただす中、
「恵那さん、今日は仲間の一人が捕らえられてしまって、それを助ける為の喧嘩だったから斗和さんがここまで怪我を負っただけ。普段の斗和さんなら、怪我なんて負わないくらい強いんですよ!」
忍が、どこか勘違いをしている恵那に補足して斗和がここまでの怪我を負った経緯を説明をした。
「おい忍、あんまし余計な事喋るんじゃねぇよ」
「あ、すんません」
「とにかく、俺はもう帰るから、忍から連絡頼むよ。俺はコイツ送ってくから」
あまり詳しく聞かれたくないのか、忍に余計な事を話すなと釘を刺した斗和は、心配しているという仲間への連絡を任せ、自分は恵那を送っていくと口にする。
「え? いいよ、送ってもらわなくても……それより早く病院に行って傷、診てもらってよ」
「そんな怪我して送るのは大変だろうし、恵那さんは俺が送っていきますから、斗和さんは早く帰ってください」
斗和の言葉に、恵那は自分を送るくらいなら病院に行けと言い、忍は自分が恵那を送ると言い出した。
けれど、
「いや、送るのは俺が適任だから忍は気にすんな。お前も帰り、気をつけろよ。恵那、帰るぞ」
斗和が恵那を送るのには何か理由があるようで忍の申し出を断ると、恵那には有無を言わさず共に帰るよう声を掛け、忍も恵那もそれ以上何も言う事をせず、素直に従った。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!