イラ。
「あのこの線超えちゃいけないんですけど?ちゃんと書いてあるじゃないですか?」
イライラ。
「ショー待ちしてたら子どもが割り込んでくるんですよ。スタッフならちゃんと注意してくれますか?」
イライライラ。
「荷物で場所取りしたまま、お見送りに行っちゃだめなんですよ?」
イライライライラ。
「カメラを目の高さまで下げてもらえますか?ダンサーさんが見えなくなっちゃうし、公式で禁止されてるので。」
イライライライライライライラ!全くもってなってない。ほんとうに憤りを感じる。どうしてこんなにわからないやつばっかなんだろう。最近パークに増えたオタク達は治安が悪い。ほんとうに。オタクだけならまだしもスタッフも経験のないやる気のないやつらばかり。嫌になる。私はほんとうは注意なんかせず、ただショーを楽しみたいだけなのに。
「りゅうじん君出てくるかなあ〜」
「これまでのシフトだと今日来そうだよ!」
なんだよ。さっきから無駄にデカいカメラのレンズが邪魔な女だと思ったら、ネットのシフトで情報を得てる新参か。こっちは朝早くから駅前のカフェで出勤するダンサーを把握してるんだよ。こっちはそこまでやってるんだ。そう、そうだ。シフトをまとめる承認欲求の塊のようなアカウントも増えた。ここ最近のことだ。あー、いらいら。ほんとうにいらいらする。ショーは素晴らしいけど、その周りがてんでだめ。なんでこんなに私がイライラしなきゃいけないのか。
「あっ!ショー始まる!」
近くのデカレンズ女がしゃべった。ショーが始まるなんてこと、わざわざ言わなくても誰でもわかるのにうるさいなあ。そもそも、そのデカいレンズを使いこなせるの?あなたに。無駄にデカいレンズを買って。さぞかし綺麗な写真を撮るんでしょうね。こいつのインスタのアカウントはさっきスマホの画面をのぞいたので特定済みである。さっきパッと見た限り、宝の持ち腐れとしか言いようがない写真ばかりだった。こういうやつは無駄に長いレンズが人の邪魔になることを知らずにパシャリパシャリと無駄な写真をメモリーに残していく。長いレンズの分、線をはみ出すんだから、下がらなければ邪魔になる。案の定さきほどから、情けないパシャリパシャリという音と共に私の視界に無駄デカレンズが入ってくる。イライラ。これはもう注意しないといけない。
「あの、さっきからレンズが入ってきてて次邪魔なんですが?」
「えっ。あ、ごめんなさい。ちょっと下がりますね。」
素直なやつ。次から気をつけるなら許してやろう。折角のりゅうじん君の出るショーなのに数秒無駄にした。それにしても、りゅうじん君は今日も素敵。あの日からずっと変わらず。キレのあるダンスを踊るりゅうじん君からキラリと汗が滴り落ちる。キレイだ。初めて見たあの日もこんな暑い日だったなぁ。
〜〜〜
「推し」のアイドルが熱愛報道された。ベッドの写真がデカデカと週刊誌に載っていた。清楚な子が好きだとデビュー時の会報誌のインタビューで言っていたのに、相手は品のないグラビアアイドルだった。その後、彼は釈明のインスタライブを行ったが必死に言い訳する様が滑稽だった。週刊誌に突撃された時の挙動不審さでニヤついてるのが気持ち悪かった。インスタライブで言葉に詰まりニヤニヤしている様がその時によく似ていた。冷めた。彼のために面白くのない青春胸キュン映画を見に行った。興行収入が上がるほど、彼は喜んでいた。色んな人に薦めるためにレビューも書いた。アカウントで感想を書いた。彼のグループのMVが一億再生されるようにハッシュタグで拡散した。毎日MVも見てた。でも時間の無駄だったんだなあ。虚しい気持ちになった。もうアイドルなんて推すのはやめようかな。必死に追いかけても、プロ意識のない行動でこっちが悲しい気持ちにさせられてしまう。
恋じゃない。決して私はガチ恋勢ではない。異性として好きなわけじゃない。多分。単に「推し」なんだ。
その少し後友人とカフェで談笑している時のことだった。
「アイドルとしてプロ意識ないっていうのもちょっとね。」
「ふーん。たしかにねぇ。わかるかも。」
彼女とカフェで話しているのには理由がある。推しだった「彼」のいるグループが今年夏フェスに出る予定だったのだ。そのため、夏フェスに慣れているという彼女を誘い、夏フェスデビューを計画していたのだが、、
「あの騒動で出演キャンセルになるとはね。」
「まぁ出演してても行かなかったけど。」
夏フェスデビューのための買い物会は私の傷心慰め会へと変わった。いや傷心してないし←
「でも折角だから2人で遊びに行きたいよね。日程も合わせたんだし。」
「そうだねー。でも音楽もあまり興味ないし、どこか行きたい場所あるかなー。」
「私に一つ良い案があるよ!」
ニコニコした彼女がスマホの画面を私に見せてきた。
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