最終話・第20話:「田中蒼 ー告白ノ間ー」
マイクの前に立つ田中蒼。
照明の光が、かつての虚無に満ちた彼とは別人のような意志の強さを浮かび上がらせていた。
「これは三年前、僕の人生が壊れた夜の話です。
恋人だった美月が死に、僕は“殺人未遂の容疑者”として名前を伏せられながらも報道された。
世間は一斉に僕を裁いた。“地味な彼氏の嫉妬”とか、“DV男”とか――全部、憶測だけで」
「でも本当は違う。
あの夜、美月は僕を助けようとして、殺されたんだ。
真相を知っていたのに、誰も口を開かなかった。
それが、僕が地獄に堕ちた理由だった」
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「でも最近になってわかったんです。
“真相を話すこと”って、単に過去を暴くことじゃない。
“なぜ沈黙したか”を、自分自身に問い直すことなんだって」
蒼の目に、かつての友人・翔の姿が浮かんだ。
罪を背負ってきた男の苦しみ。
その“沈黙”の意味を知ったからこそ、蒼は今ここに立っている。
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「僕は、悠斗を許さない。
でも、ただ潰したいわけでもない。
彼にこの配信を見てほしい。
何千万人が見ているこの場で、
“あの夜のすべて”を、はっきりと言葉にするから」
「あの夜、美月は逃げようとした。
でもドアを塞いだのは、斎藤じゃない――
悠斗だった。
彼が“撮れ、撮れ!”って叫んでた。
“こいつ潰すネタになんだよ”って。
美月は怖がっていた。
泣きながら、僕に“助けて”と叫んでいたんだ」
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蒼は机にUSBメモリを置く。
中には、美月のスマホに残っていた録音、そして蓮が集めた内部通話記録。
警察、マスコミ、そして悠斗――すべてが繋がる“ひとつの証明”。
「これはもう、ネットの遊びじゃない。
リアルを動かす“告発”です。
僕が話した真相が、誰かの“生きる力”になるなら……
それが美月の望んだことだったはずだから」
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コメント欄が騒然とする。
【すごすぎて言葉出ない】
【真実、つながった……】
【これ、警察動くレベルじゃね?】
【蒼……お前……本物だったわ】
【告白ノ間、ありがとう】
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カメラがゆっくりと山本蓮を映す。
蓮はやさしく笑っていた。
「さて。これで“すべての真相”は出揃いました。
このチャンネルは、これにて――
幕を下ろします。
でも、あなた自身の“真相”は、これからです。
話していいんですよ。
誰にも届かないと思っていた、その物語を」
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