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「ゔあーーー…暑いね、」
風鈴が似合う時期になった西の国。ジリジリという音を立て太陽は俺らを照りつける。蝉の声は最早生活音と化し、誰も文句を言う奴はいない。窓の外を見れば、小学生の帰りをパトロールするライゲツがいた。真昼間に見回りなんて、ライもカゲツも凄いものだ。それに比べ俺らは、床に座って時が経つのを待つだけ。暇だな。すっと星導を見れば暑そうにはしているものの、汗ひとつかかずに凛とそこにいる。「ん?」と喉を鳴らし、俺と見つめ合う。目、綺麗だな。不思議な色してる。このまま、本当に宇宙へ放り込まれてしまいそう。だんだんと焦点が合わず、ぐるぐるとしてきた。
「何じーっと見てんの、えっち」
あまりに無言で見すぎたせいか、星導はそんなことを言って俺を現実へ戻した。危ない、危ない。一生星導の目に鎖されるところだった。「なんでもねぇよ」と軽くあしらって、また外を見る。若干だが、日も落ちてきた。言ってももう2時半だ。あと3時間経てばもう活動できる時間になるだろう。今日見廻りないけど。熱帯夜で日が落ちても暑い日は多くあるが、まだ昼よりかはマシだ。ヒーローたるもの、そのくらいは我慢しないといけない。…だからと言っても暑すぎると思うがな。不意に「はぁ…」と大きめな溜め息をついてしまった。星導にも聞こえたようで、ふっと立っては洗面台へ向かった。なにすんだろ。ぱたぱたと戻ってきた星導は俺の首に冷たいタオルを被せてくる。
「……っひ、!?」
「ん、ごめん。暑そうだったから」
そんなことを言ってまたどこかへと行ってしまった。ありがとうを言わせる暇もくれない。意外と優しいんだよな、あいつ。首がじんわりと冷たくなる。タオルの冷たさもあるが、星導の優しい思いも相まって涼しくなっている。気がする。だいぶ楽になり、瞼がだんだんと重くなった。蝉の声が脳に響く。俺はそのまま、眠りについた。
「おい小柳くん、夜だよ」
ベンっとデコピンをされて飛び起きる。ヒリヒリと痛みが広がる額を抑え、外を見た。だいぶ暗くなり、ソファにはライゲツが寝ている。すやすやと子供のような寝息をたて、深い眠りについているようだ。もうそんな時間か。
「…ん?今日見廻り無くね?」
「一緒に行きたいところがあって」
こんな夜にどこへ行こうというのか。どこ行くのか聞いても、星導は「着いてからのお楽しみ」と濁した。なんか気味が悪い。でも好奇心が行きたいと叫んでいた。いつもならこんなことないのに。珍しく俺の中の俺が乗り気なので、思い切ってついて行くこととした。
「……、海?」
「そう、海。綺麗だよねぇココ、穴場なんだよ」
月が驚くほどデカイ。満月か?海の表面に反射されてキラキラと光っている。まるで宝石だ。蝉の声も、人の声も、何も聞こえない。波が押し寄せる音だけ。昼の暑さを感じさせない、肌寒さがあった。暗いから?潮風がふいてるから?水が近いから?どう頑張っても「儚いから」以外にしっくりくる理由が見つからなかった。
「ほら、こっちおいでよ。」
いつの間にか靴を脱いだ星導は、海に足を入れていた。ぱしゃと水が跳ね、星導の服に付着する。遊んでいるわけではないが、どこか子供みを感じる。波が俺の足元に押し寄せた。今日だけは、何故か星導に全てを任せてみたくなった。
「……珍しく乗り気ですね」
「はっ、まぁな」
昼の華やかさ、明るさ、元気さが全て静まり、月とべたつく暑さに覆われる。そして夜がくる。星は砂をばらまいたかのように点々とし、一つ一つがイキイキとして光っていた。水飛沫のようだった。海の表面にも、そこに、いた。
「おら、くらえっ」
「は、!?ちょ、小柳くん!やったな!?」
足が浸かるくらいだったのが、いつの間にかふくらはぎの半分まで流れていた。足で水を飛ばしたり、手で水を汲んでかけたり。水飛沫が星に見えた。その水飛沫に囲われる星導は、月に見えた。綺麗な髪に水が跳び、水滴として身に纏われた。まるでレースカーテンのような美しさだった。
「、お前は綺麗だよ」
「え、なに急に…きもっ、」
「おまっ…人が褒めてんのにキモはないだろ」
「あっはは!!ごめんって、水かけないで!!」
ふざけているうちに、俺は足を崩して星導を押し倒した。あっやばい。ふくらはぎを越す深さだ、このままだと星導が息できずに死ぬ。勢いよく星導の腕を掴み、空気へと引き上げる。水滴が纏まれていた髪は全て濡れ、より一層長くなった。ごめん、と言いかけたその瞬間、俺が星導に押し倒された。急だったから目も閉じれず、びりっと染みる感覚があった。力が強くて押し返せない、息ができない。美しかった海は瞬く間に俺の首を絞める狂気と化した。ごぽ、と息が漏れ、死を覚悟したそのとき、星導に引っ張られた。その勢いのまま、星導に抱かれる。息が苦しい、咳が止まらない。空気が周りにあったところで、急すぎると息すら吸えない。どんどん過呼吸を起こす。喉に膜が張ったような、シャボン玉が引っかかった感じがした。目の前が暗転する。チカチカと星導の顔が見え隠れする。星導は俺に口付けをして、酸素を送った。ゆっくり、俺の喉のシャボン玉を割るように、息を吹きかけた。星導に、キスされてる。息ができるようになると次は、じっくりと口内を犯された。海で、しかも同期に、深いキスをされている。傍から見ればとんでもないことをしていそうだ。でも嫌じゃなかった、何が働いたのか分からないが。ぷは、と口を離すと、星導は見たことの無い笑みを浮かべていた。
「…小柳くん、このまま独り占めさせて、」
俺は口を開いた。
「 」
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