※19歳時空
偉大なる航路に入った途中に資材調達の為に寄った小さな島の市場を闊歩するサンジは、浮き立ったような足取りでで商品を吟味していた。
広場の脇には露天商が並び、和気藹々とした空気が漂う中一角の屋台に足を止める。積み上げられた籠いっぱいに積まれたソフトボール状の大きさを伴った艶のあるもので、さっきから甘酸っぱい香りが漂っており惹きつけられる様にサンジはその屋台に近づく。
「ここって、何の実を取り扱ってるんだ?」
「ああ、いらっしゃいお客さん。こいつは食用の『ポームの実』っていう果実です」
「果実? 実なのにか?」
サンジは訝し気に店主に問うと、店主は快活に笑いながら説明を続ける。
「ええ、そうです。こいつは熟すと固くなるんで実を潰して、そこに砂糖や果汁を加えて煮詰めて作るんですよ」
「……なるほど。それをこの大きさまで育てりゃあ、さぞかし重労働だったろうな。ご苦労なこった」
そう言って屋台に積まれた実を一つ取って眺めれば、表面はコーティングされたかの様に艶が輝き、屋台の照明を浴びて光り輝いていて宝石と見まごう美しさがあった。
店主はサンジの言葉を聞いて、自分の事のように嬉し気な表情を浮かべる。 料理人であるサンジにとって、食材には並々ならぬ敬意を持っている事は伺えるからだ。そんな態度を見せる客に商品を売りつけるのはコック冥利に尽きるのだろうとサンジは思った。
「それと、この赤い熟れたポームの実にはちょっとしたジンクスってものがありましてね。この島で信じられてる言い伝えが有りまして… …」
「ほう、そんなおまじないみたいなものが有るのか?」
「ええ。ポームの実には恋愛成就のご利益が有るって話です。赤い実を意中の相手に贈ると恋が実るとか」
「へ~、それはまた可愛らしい話だな」
サンジは感心したように相槌を打つと、店主は更に説明を続ける。
「その赤い実を意中の相手に贈って、見事結ばれたカップルは末永く生涯を共にするってジンクスが有るんですよ」
「え? 生涯を共に?」
「ええ、そうですよ。この実は一つの実から二つの実に分かれますから。ですから意中の相手には二つの実を贈らないといけないんですよ」
「二つに……分かれるのか?」
「ええ。赤い実が二つにね。だから、この実は恋愛成就の縁起物なんですよ」
「……そうか」
サンジは店主の説明を聞いて、少し考え込むように沈黙すると、店主はその様子に首を傾げる。 すると、サンジは屋台から二つの実を手に取り、
「じゃあ、貰おうかな」
そう言って、代金を払ってポームの実を二つ手に入れると、懐から札束を取り出して店主に手渡した。
「はい、これ代金ね。それと……もう一つ頼む」
サンジは屋台の店主にそう言うと、屋台には並べられていないもう一つの実を指差すと店主は嬉々として答えた。
「え? ああ! 二つがセットですもんね! 良いですよ!」
「……ああ、ありがとう」
サンジはそう言って、二つの実を受け取ると店主に礼を言って他の市場の方に足を向けに行った。その足取りがどこか浮ついているのは気のせいだろうか? サンジの後姿を見送っていた店主は、その後ろ姿が見えなくなるとふと屋台の隅に置かれた二つの実の入った籠に目が行く。
(あのお兄さんの恋が叶うといいけどなァ)
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