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真っ赤なドレスに真っ赤な口紅。
目は派手なサングラスで見えないが、頭に被ったつばの大きなハットからは、赤いロングの髪が見えている。
確か、ウィキペディアを見た限り年齢は四十八歳だったはず。だが四十八どころかどう見ても三十代前半に見える程に若い。
まるで海外のセレブを絵に描いた様な姿の日比谷おとねは、不適な笑みを浮かべたまま、俺たち三人を黙って見つめていた。
「あんた達!本当に良くやったわ!ワタシのお客さんからも早速たーっくさんの連絡が届いていて、そのどれもが次のライブの問い合わせよ!」
ーーよしっ!
俺は皆んなに気づかれない様に、心の中でガッツポーズをした。
「あおいちゃんも、本当にありがとうね。誰か一人でも居なかったら今日の成功はなかったわ。これから歌いたくなった時は、いつでもワタシに言いなさいね」
MIUさんはそう言ってあおいにウインクをした。
「さあ、ワタシからはここまでよ。ここからは今日のメインディッシュ。日比谷おとねさんからお話しがあるわ」
珍しく少し真面目な口調で、MIUさんは彼女の方に視線を誘導する。
日比谷おとね、さすがに凄いオーラだ。
と言うよりは威圧感か……。
かなりのプレッシャーを感じながらあおいの方に目を向けると、相変わらずポケーっとした表情で日比谷おとねの方を見ている。
まぁ、プレッシャーなんて感じる訳ないよな。
なんてったって女神さまだし。
オーラにしても、見る人が見たらあおいの周りはスーパーサイヤ人の様になってるんじゃないだろうか。
そんなくだらない事を考えられたおかげで、少し気持ちが落ち着いた俺は、なんとなく目線をあおいの横にいるしらべの方へ向けた。
ーー!?
すると彼女は黙って立つおとねの方を、まるで親の仇でも見るかの様な目で睨みつけていた。
おいおい嘘だろ……?まさかアイツ、俺だけじゃなくて出会う人全員に噛みつくつもりなのか?
しらべの性格を考えたら、あながちあり得ない事じゃない。
変な事にならなければいいが……。
なんてことを考えていると、しらべが勢いよく立ち上がり声を張り上げた。
「ハッ、まさか本当に来るなんてね。MIUさん。悪いけど、私はこれで帰らせて貰います」
「ちょ、ちょっとしらべちゃん!?」
そう言ってギターを背負おうとする彼女と、それを慌てて止めようとするMIUさんを見て、ずっと沈黙を続けていたおとねが口を開いた。
「ーー座りなさい。しらべ」
一瞬で楽屋の空気が変わった。
なんと言うか、有無を言わさない圧がおとねの言葉にはあった。
あの人も女神様だとか言うオチだけはやめてくれよ。
俺がそんなくだらない事を考えていると、さすがのしらべも諦めたのか、舌打ちをしながらギターケースを元の場所に戻し、黙ってあおいの隣りに座った。
「ーーそうね、まずは私からも労いの言葉を贈らせて貰うわ。たかだか百人程度のライブだったけど、良くやったわ」
「は?」
思わず声を出してしまった。
たかだか百人だと?わざわざ時間を作って、仕事終わりの疲れた体で、三千円ものお金を払って足を運んでくれた人達に向かってたかだか、だと?
俺はじわじわと湧いてくる怒りをなんとか堪えようとしたが、次第に表情が険しくなっていく。
「あなたは確か……鳳てつや、だったかしら?なにか言いたい事でも?」
全く表情を変えずに聞き返すおとねとは対照的に、俺は険しいままの表情で言った。
「お言葉ですが、あなたの言った”たかだか百人”の方達がどういった気持ちで今日足を運んだのか分かっておられるんでしょうか?それに、例え今日のお客さんが一人だったとしても僕達三人のライブは変わりません。そういった言葉は、誤解を招く事もあるかと思います」
俺はせめて語気だけは荒げない様にと、出来るだけ気をつけながら言った。
しかしそんな俺の言葉を聞いたおとねは、楽屋に入って来た時から全く変わらない不適な笑みを浮かべたまま、こう言った。
「ああ、なら結構よ。気に入らないのならお引き取り下さい。そもそも、あなたには一切用がないもの」
ーーブチッ
ダメだ。大物アーティストだかなんだか知らないがこんな奴は無理だ。人として相容れない。お前にメジャーに上げて貰おうなんて思っていた今日の俺をぶん殴ってやりたいぐらいだ。
俺は返事もせず、鏡の前に置いてあった自分の鞄を勢いよく掴み、あおいの方を見て強い口調で言った。
「あおい!帰るぞ!!」
MIUさんには後できちんと謝らないとな。そんな事を考えながら、出来るだけおとねの顔を見ない様に楽屋の扉を出ようとした。その時ーー
「あら、ダメよ。あなたに用はないけど、その子には用があるもの。ふふふ」
おとねはサングラス越しに、あおいを真っ直ぐに見つめ、そう言った。