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「台風がこちらに向かっていて、今夜から暴風域に入るらしいので、今日は図書室も施錠し、教室も閉めます。

各部活動も休みになるので、速やかに下校してください」


担任の教師が3年5組の生徒たちにプリントを配りながら言う。


「夏期講習の希望者は、さっそく明日から授業が始まります。これが予定表です。基本的に自分が受けたい授業だけ出席してもらえばOKです。ただし授業が始まったら終了までは出入り禁止とさせてもらいます。

基本的に講習は午前中のみ。午後は自主学習のために教室および図書室は開放しておきますのでご自由に使用してください。

ただし開放時間は夕方の4時までです」


右京はその予定表を見ながらも、先ほど響子が言った言葉の意味を考えていた。



『……そのこと、なんで俺に言うの』


右京の問いに響子は首を傾げた。


『なんでだろ……』


『――――?』


『――――ふっ』


見つめる右京に響子は諦めたように笑った。


『……最低な野郎だけど。好きだったから、かな?』



「過去形だけど!」と吐き捨てるように言った彼女の笑顔を思い出す。



―――いいよ。


―――別に殺しても。



自分が痛めつけたとき、彼は確かにそう言った。



―――どうせ、死ぬつもりだった。



「あ、それと、サッカー部とバスケット部とチアリーダー部、柔道部の生徒は、休み明け、とうとう全国大会です。それぞれの顧問から夏休み中の部活についての指示があるから、それぞれの部室に一旦集まってください。

以上ですが、夏休みの過ごし方について、何か質問のある人―?」


担任教師が見回すが、手を上げるものはいなかった。


「他のみなさんは、休み明け、三校合同模試バトルがあります。夏期講習に参加する人もしない人も、それぞれ自分の目標に向かって頑張ってください。

受験のため、将来のためにとても重要な夏休みです。充実した日々を過ごしてください!解散…!」


◇◇◇◇


右京が鞄を持って立ち上がると、永月が寄ってきた。


「一緒に帰ろう!右京!」


「……あのさあ」

右京はうんざりしながら見上げた。


「お前、サッカー部の集まりだろ」


「うん。だから終わるまで待ってて?」


「…………」

共に帰る気はさらさはないが、ここで断ったら面倒くさそうだ。


足止めを食うわけにはいかないのにーーー。


「わかった。じゃあ、さっさと終わらせて来いよ」


言いながらシッシと手で払うように言うと、


「絶対だよ!絶対待っててね!」

永月は満足したように微笑んでから教室を駆けだしていった。


―――あいつの思考回路がよくわからない……。


右京は呆れながらしばしその場に立ち尽くしていたが、


―――いや、俺もこんなことしてる場合じゃなかった!


通学鞄を肩に引っ掛けると、永月が出ていった扉とは逆の方から飛び出した。


数歩廊下を走ってから、6組の教室に飛び込む。


「―――――」


蜂谷の席はどこだろう。

黒板を消していた担任の女性教師が驚いたようにこちらを見つめている。


素早く目を走らせる。

しかし赤い頭はない。

代わりに、


「おい。右京。どうしたんだよ」

諏訪が寄ってきた。


「蜂谷は?」

眉間に皺が寄る。

「なんで?」

「話があるんだ」

右京はなおもキョロキョロと見回しながら続けた。


「―――あいつならホームルームが終わってすぐに教室を出て行ったけど?」

「マジか!」

言うなり右京は自分も教室を飛び出していこうとした。


「おい……待てよ!」

諏訪が右京の細い腕をグイと掴んだ。


「――何?」

「……お前」

「……?」

「やっぱり右腕、腫れてないか?」


腕を掴んだまま離そうとしない諏訪にイラつきながら、その手を振り払った。


「後にしてくれよ!急いでんだ!」

右京は駆けだした。


「なんでお前は…………、…………!」


諏訪の声は、夏休みを前にした生徒たちの喧騒にまみれて聞こえなかった。


◆◆◆◆


明日から夏休みだ。


蜂谷は台風が近づいているという生ぬるい風で赤い髪の毛を靡かせながら、軽い溜息をついた。


夏休みになっても家庭教師の予定は変わらない。

週3回の2時間ずつ、だ。


果たしてそれで足りるのだろうか。

三校合同模試バトルで20位に入るためには、少なくとも宮丘学園でも10位以内に入らないと難しい。

蜂谷の成績は60位~80位といったところだ。

いくら普段は本気を出していないといっても、たった1ヶ月で50番を上げるなんてできるだろうか。



でもやらなければ――。


反旗を翻すにはまだ早い。

最高のタイミングで、最適な手段で――。


あいつを。

あいつらを。


――奈落の底に突き落としてやる。



拳を握りしめたところで、後ろから腕を誰かに捕まれた。


「蜂谷…!!」


そこには久方ぶりに対峙する右京の姿があった。



「―――何だよ?」


蜂谷が目を見開くと、相当走ってきたらしく、右京は息を弾ませながら言った。


「あ、あのさ。俺、お前に話が―――」


―――話?

出納帳のことか?こいつも案外しつこいな……。


蜂谷は目を細めた。


「出納帳のことなら、少しずつ返してるよ。今年中に全額返す。それでいいだろ?」


「いや、そのことじゃなくて……!」

首を振った右京を、前を歩いていた女子たちが振り返る。


「――あれ?会長じゃない?」

「蜂谷先輩といるー」

「永月先輩の次は蜂谷先輩?」


羨望と嘲笑が入り混じったヤジが飛んでくる。

右京はそれをもろともせずに、再度蜂谷を見上げた。


「できれば二人で話がしたい」

「――――」


蜂谷は真っ直ぐな瞳でこちらを見上げてくる右京を見下ろした。


二人で話がしたいだと?

この期に及んで何を―――?


――もう俺にかかわるのなんてコリゴリなはずだろ。

永月の幻想も解けたんだし、練習する意味も、それどころか東京に留まる理由もないはずなのに。


蜂谷は黙って、視線を落とした。


と、1週間前よりも明らかに腫れあがった手首が目に入った。


「――――」

右京の顔に視線を戻す。


本当に、痛くないんだな……。


顔色一つ変えていない右京を見つめる。


彼の強さの理由を知った今、彼に攻撃されるわけにはいかない。

彼を誰かと戦わせるわけにもいかない。


このままではきっと彼は―――


正義の炎を胸に宿したまま、壊れてしまう。


そうさせないためにも――


自分は離れた方がいい。

父の関心が右京に向く前に。

強い奴を引き込もうとしている多川に目を付けられる前に。


「悪いけど、俺には話すことなんかねえよ。もし出納帳のことをチクったり通報したいってんなら、好きにすれば?」


「だから、そうじゃなくて……」


何か言おうとした右京の口を人差し指で塞ぎ、形のいい耳に唇を寄せる。


「―――まあ、セックスしたいっていうならヤッてやらないこともないけど?」


言うと右京は眉間に皺を寄せてこちらを睨み上げた。


「俺は真面目に―――」

「俺だって真面目だよ。セックスに1回耐えたら、お前の話ってやらを聞いてやるよ」

わざと息を多めに耳元で囁く。


その生温かさを感じて、右京が体を強張らせる。

と、彼の向こう側に金色に輝く頭が見えた。


「でも今日はお預けな?用事があるから」

蜂谷は笑いながら、右京の肩に両手を置いた。


「それでは生徒会長。よい夏休みを」

そう言うと、蜂谷は尾沢を追いかけ、並んで歩き始めた。


暫くしてから振り返ると、彼の姿はどこにもなかった。


◆◆◆◆


もしもし。


私です。


ついに右京賢吾が一人になりました。


はい。他の二人もスタンバイOKです。人目のつかないところで、行動に移ります。


車に乗せたら、真っ直ぐそちらにお連れします。


◆◆◆◆◆


――右京が最後に見たのは、宙に浮く自分の脚だった。


校門を出て坂道を下ったところで蜂谷に拒絶され、彼が尾沢と共に去ると、右京はため息をつきながら、なぜか駅とは反対側に歩いていく2人を目で見送った。


そして駅の方に一歩踏み入れたところで、いつの間にかすぐ近くまで寄せてきた大きなワゴン車と危うくぶつかりそうになった。


すんでのところで避けると、自分のすぐ隣に横づけしたワゴン車の、後部座席のスライドドアが開いた。


これから台風が近づいてくるから、心配した保護者が学生を迎えに来たのだろうか。

周りをきょろきょろと見回すも、ワゴンに近づいてくるものはいなかった。


と、ワゴンの中から、にょきにょきと6つの手が出てきた。


2つの手が右京の腰を掴み、もう2つが両腕をそれぞれ掴んで、体重の軽い右京はあっという間に持ち上げられてしまった。


「あ、ちょっ……!んんん……!!」


腕を思い切り引かれ、腰を持ち上げられ、唯一の自由なはずの脚が、空中を蹴る。


叫ぼうとした口を塞がれ、右京は黒い車の中に引きずり込まれた。


ガラガラガラガラバンッ!


右京は羽交い絞めにされたまま、分厚いスライドドアが閉まる音を聞いた。


◆◆◆◆◆


「……どうしたんだよ、お前の方から誘ってくるなんて珍しいな」


尾沢はどこか嬉しそうに不自然に上唇をヒクつかせながら言った。


「そう?今日は家庭教師もないから暇だっただけ」

蜂谷が言うと、


「うえ、カテキョーマジだったわけ?えげつねー」

尾沢は唇を左右に裂くように微笑んだ。


「久々にゲーセンにでも行こうぜ」

蜂谷が大型商業施設に歩いていこうとすると、


「あ、ちょい待ち!俺、多川さんに呼ばれてたんだったわ…」

と尾沢は足を止めた。


「またあのブタガワか」

蜂谷はため息をつきながら首を回した。


「まあさすがに学園に来た時の多川さんはヤリすぎだったけどさー。元来悪い人じゃないんだって」

尾沢は言いながら携帯電話を取り出した。


「ガキの頃お世話になったとかで、奈良崎さんのこと慕ってたりさ。いいとこもあんだよ、ああ見えて」


「―――いいとこ、ね」


尾沢は、蜂谷が拉致られて一升瓶を丸々飲ませられたことを知らない。

自分の吐瀉物にまみれた口に、多川の汚いモノを突っ込まれたことも知らない。


―――しかし言えば単細胞のこいつのことだ。露骨にビビって多川を避けるようになるだろう。そうすれば向こうも面白くない。思わぬ報復に会いかねない。


言うべきか。言わざるべきか……。


蜂谷が携帯電話を耳に当てる。


「あ、お疲れ様です!俺っす!もうすぐ着きます!――――あ、ええと」


言いながら窺いを立てるようにこちらを見つめる尾沢に蜂谷が首を振る。


「あ、いえ。一人っす」


蜂谷はすっかりチンピラの下っ端のような話し方になった尾沢に幻滅しつつ、踵を返そうとした。


「え。ああ、そうなんすか。あ、いいですよ、俺はいつでも暇なんで。また呼んでください。―――はい。――――はい、わかりました。それじゃ」


言い終わると、通話を切り携帯電話を見つめ、動きを止めた。。


「どーした。フリーズして」

言うと尾沢はこちらを見つめ首を傾げた。


「今日は急に客が来ることになったから、俺は来なくていいって」


蜂谷は露骨にため息をついた。


「また男娼まがいの少年じゃねえの?」

「さあ、わかんね」

尾沢はまだ納得のいかないような顔で、それでもスラックスに携帯電話を収めた。


「―――じゃあ、行く?ゲーセン」


言いながら大型商業施設の方向へ足を向ける。


「ああ」


蜂谷も一歩踏み出す。


「俺、最近のゲームわかんねぇわ」


「俺も」


2人はだるそうに、生ぬるい風が強くなってきた坂道を歩き出した。



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