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ハッと目を開く。
今度は自室のベッドの上。
そうだ、たしかあの後ここまで自力で帰ってきたけど、ベッドの上で力尽きたんだ。
「……寝れない」
いわゆる、不眠症。
でも俺はそこまで困ってない。だって、どうせ気絶している間に睡眠は取れている。
ただ、少しだけ夜が長くなるだけ。
「仕事…少しでも役に立たないと…」
取り憑かれたみたいに暗い館の中をフラフラと歩いて、サーバールームに閉じこもる。
こうすれば俺でも役に立てているんだって実感できる。俺の為にやっていること。
俺はどこまでも自分本位だ。
カタカタとタイピングの音が聞こえて、心が少し安らいだ。
ズキズキと痛む腕も、軋む骨も、何も気にならない。運営のみんなに否定されることに比べれば、こんなの大したことじゃないから。
そう思ってたのに。
「どりみー?ココ。数ちゃうで」
「ァ……ゴ、ゴメン…」
翌朝、データを受け取ったきょーさんがそう言ってタブレットに映る資料の一部をトントンと指差した瞬間、全身の血の気がサッと引いて手が震えた。
きょーさんの声はとても優しかったけど、今は優しい声音が余計に怖く感じる。
「…気にせんでええよ。あとは俺がやっとくから、どりみーは少し休んどき」
「……ウ、ン」
きょーさんの言葉にはなんとか頷いたけど、俺の頭は絶望でいっぱいだった。
あの間は何?
もしかして、俺に失望した?
“失望”の二文字が脳裏によぎった俺は、きょーさんが出て行った扉に体当たりする勢いで部屋を飛び出した。
しっぱいした…どうにかして信頼を取り返さないと……
ぐるぐると回る視界の中、やっときょーさんに追いついた。
「きょお、さっ!ごめ、ごめん。俺!俺もっかいやるから、次はちゃんとやるから、だからっ…!!」
「っ!?…落ち着けどりみー、大丈夫やから。ゆっくり、深呼吸して…」
縋り付いて必死に言い訳を連ねる俺を見たきょーさんが慌てたように背中を撫でる。
乱れていた呼吸を整えてからまた口を開こうとすると、唇に人差し指を当てたきょーさんがしー…と合図した。
「…?……?」
「あんな、どりみー。あんま寝れてへんやろ?そんなんで書類やったとこでいい結果は出てこん。それに体だって壊す。せやから、今は休憩しとき」
「デ、デモッ…!」
「どりみーが元気になったって分かったらまた手伝ってもらうから、安心しぃ」
幼子を宥めるような声音だったけど、俺はこれっぽっちも安心なんてできなかった。
またひとつ、存在が遠く離れた気がした。
ー ー ー ー ー
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