『過去?急になんだ』
「うん…」
抱き締めてた兄から少し離れた。
伝えてしまったらもう後には引き返せない。
今更この気持ちを曝け出すのが怖いなんて…
我ながら呆れてくる。
そもそも兄さんは僕の事なんて眼中に無いはず。彼女が居るんだから当たり前だ
その気持ちが僕に向いてくれたらなって常に思うよ、兄さん。
それか僕が兄さんを奪いに行こうか。
最初から気に食わなかったんだよね、何もかも。
彼女作って浮かれてデート?学校生活も楽しそうで……僕を除け者にして楽しい?
でもこんなひねくれた事考える僕の事なんか嫌いだよね。
そんなの僕が1番理解してるはずなのに…
あ〜あ 僕ってホント無意味の無だな。
『最近特に元気が無いように見えたが、
やっぱり何かあったのか?』
兄さんは自分の事になると異常な程鈍感なのに、僕の事とか周りの事には鋭い。
こう言う時の兄さんには嘘は付けない。
多分見透かされる…が、どうしようか。
「今ね凄く苦しいんだ」
『…具体的に何処が?』
「うぅん……心が痛いよ」
『お前を苦しめてるのは何だ?』
苦しめられてる…
勝手に好きになって勝手に失望してるだけ。
こんなの兄さんのせいでは無い…結局は全部行き過ぎた僕の想いのせいなんだ。
それでも僕は現実を受け入れたくなくて
兄さんのせいにしてた。今も
どうしたら苦しくなくなる?
僕は兄さん以外愛せないのに
他の人に心を許すなんて無理なんだよ?
全て正直に話したらこの想いは伝わるのだろうか。
否…伝えた所で何も変わらないのが事実か
兄さんはあの子を愛す。僕はただの‘’弟”
これからもその先もずっとそんな関係だろう。
『無一郎』
「伝わってないの?僕の気持ちは…全く」
『気付いてない……と言えば嘘になる』
という事はとっくにバレていたのだろう
今までの思考は無駄だったようだ。
『お前はどうしたい、、俺とどうなりたい?』
…?
僕が望んでるのは…なんなのだろう。
僕はずっと何を望んでたのだろう?
僕が兄さんを想い続けたのは…
「好きだから 有一郎の特別になりたかった」
多分これが本音なんだと思う。
既に僕は‘’特別”な存在であるのに
それ以上を求めてしまう。
双子で男同士…きっと誰が考えても可笑しいと思われる。そんなの当たり前で
この世の中には通用しないんだ。
腐りきったこの世の中で、唯一兄さんだけが僕の希望だった。
普段から口厳しい 頑固な性格なのに、人を思いやる気持ちは凄く優しくて…。
不器用な僕をいつもグチグチ言うけど、何かと手伝ってくれるし 僕を見放したりしない。
だから僕もその優しさに甘えてしまうんだ
『特別か。 特別…』
兄さんは僕から目を逸らしながら何かを考えていた。
‘’特別”…何度も言うが僕は兄さんの弟。ただそれだけで他とは違う特別な存在であるのに
それ以上を望んでしまっている。
『俺は…』
しばらくして兄さんは口を開いた
『俺は正直‘’愛”と言うものが良く分からない』
この人は何を言ってるのだろう
愛する人を持ちながら、何故そんなこと言うのだろうか。
眉間に皺が寄りすぎて痛くなってきた…。
でも兄さんは言葉を続ける
『好きって感情はあるけど、なんかしっくりこない』
僕はいよいよイラついてきた。
「なにそれ…どういう事なの。」
『なんか俺、お前と居る時は素でいられるけど、彼女と同じ時間を過ごしてると気を使ってばっかりで疲れるんだ。』
本当に何を言いたいのだろう
それを僕に言ってどうしたいの…
『それに、お前が傍に居ると…安心するって言うか。俺も何言ってるか分からないけど…
多分無一郎の事が好きなんだと思う。』
「…は?
い…いやいや、兄さん何、なにいって…」
好きってなに?
兄さんが僕に向ける愛情は‘’兄弟”として
でしょ?
なんで、僕を期待させるの…
『ずっと気付いてたけど、世間体とか周りの目を気にし過ぎてこの感情を押し殺してた』
うそ…
僕の胸がドクドクいってるのが分かる…。
何となくこの先の言葉を予想出来てしまう自分が居るし、でも聞いてはいけない気がした。
『俺はさ』
聞いちゃだめだ……駄目…なのか?
兄さんは僕を愛してくれるの?
こんな醜い感情を抱いていながら僕を傍に置いてくれるの?
貴方には恋人がいるのに。
でも酷く興奮してる自分が居る…だって最愛の人に愛されてるって思っただけで
自分の存在意義が感じられるし
今までのどす黒い感情が無くなっていく気がしたんだ。
あぁ…兄さん、僕に堕ちて欲しい…。
他の誰も要らない。貴方だけが僕の全てだよ。
だから貴方の本音を聞かせて?
『多分じゃない
無一郎の事が好きだ』
……To be continued【続く】