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一、はじまり
角砂糖を2つ…。
明日は、瑛大の命日だ。彼が他界して3年。突然だった。なんの前触れもなく、人が今までいた世界から姿を消す。残された者たちの気持ちを置き去りにしたまま。
甘い…やっぱり2つは、私には甘すぎる。
そう感じながらも、ミルクティーを飲み干した。
「すみませーん」
誰もいなくて、中に向かって声をかけた。
「ふぉーい」
厨房から何かを焼く音とマスターの声がきこえた。
遅れて、白いシャツの制服をきた男の子が慌てて会計にきた。
「お待たせしました」
「いえ…」
「あの…その…綺麗な花束ですね」
会計にでてきた男の子が、突然、話しかけてきた。
「えっ?」
「あ、ごめんなさい。えっと、お会計、1320円になります。」
「はい。」
「1320円、ちょうどいただきます。いつもありがとうございます。」
「どうも…」
変なの…
この花は、そういうものじゃないのに。綺麗、という表現はなにか合わない。
いまの若い子、なんにも知らないんだな…
そう思いながら、私は地下鉄の改札を抜けた。
ここは始発駅だから、いまの時間帯でも、なんとか座れる。発車を待っていると、JR線からの乗り換え客が流れ込んできた。
発車の音楽が流れる。
ん?
あれ?
そういえば、あの子、
いつも、ありがとうございます…って言わなかった?いつも?
花のことが気になっていたけど…
私が、あの店、よく利用すること知ってる?…
…まぁ、お客様に使う常套句か…。
ニ、コーヒー
クククククッ クククククッ
目覚ましがなった。
カーテンの隙間から、優しい光が差し込んでいる。
さぁ、起きよう。着替えて、瑛大の墓参り。
「おはよう、今日で終わりにするから…」
私は、自分に言いきかせるように、つぶやいた。
階段を降りていくと、母さんが洗濯かごをかかえて、階段前を通りかかった。
「あら、おはよう。瑛大くんのお墓参りだっけ。ちょっと待ってね。これ干したら、出すから。」
「いいよ。自分で適当にするから。」
母さんは全く聞いてた様子もなく、テラスに出ていった。
なにか、足元でフサフサとしてる。
「おはよ。ロッキー」
全身チョコレート色したロッキーは、私の大事な弟くんだ。
ロッキーは、生後3ヶ月で、姉が友人からもらってきた。オスワリ、オテ、マテ、フセ、ゴロン、色々覚えさせて、姉と2人で可愛がった。
散歩も交代で、雨がひどい日も部活で疲れていてもロッキーが行きたいと言えば、連れていった。おやつやオモチャは、2人でお小遣いから出しあって買っていた。
でも、姉はもうこの家にはいない…
瑛大がなくなってから、しばらくして出ていった。それから、帰ってきていない。母さんは時々会っているみたいだけれど、会ってきたことを私には話さない。私もなんとなく気づくけれど、聞かない。
ピーッ
お湯が沸いた。カップを2つ出してドリップをセットする。私は、コーヒーに特にこだわりはないけれど、お湯を注いで待つこの時間が好きだ。
「お待たせ~」
母がテラスから中に入ってきた。
「はい、コーヒー」
母はフフッと笑い、「ラッキー」と言った。
ロッキーはさっきからテーブルの下でガムを噛むのに夢中だ。
「おいしいね」
「そぉ?フツーにスーパーで売ってるやつじゃん。」
「そうじゃないよ。なんでか、昔から真優がいれるコーヒーは絶妙なんだよ。娘にさ、淹れてもらう、って美味しいんだよ。」
「ふーん」
「…3年だねぇ。」
「うん…」