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放課後。
無人の保健室に呼び出された蜂谷は、眉間に皺を寄せながら右京を見下ろした。
「あんたって特別教室のカギ、自由自在なのね…」
言うが、右京はなぜか不在の養護教諭の席に座り目を伏せたまま、こちらを見ようとしない。
閉められた薄いカーテンから、初夏の日差しが漏れる。
それもそのはず、来週にはもう7月に入る。
そして入った途端に文化祭だ。
今はまだ屋内の日陰にいれば涼しいが、季節は確実に夏に近づいている。
「どーしたの。なんか話があるから呼んだんでしょ?」
目の前の丸椅子に座る。
「…………」
「ちょうどよかった。俺も話があっ――――」
「もう……」
右京は、彼にしては信じられないほどの小さな声で言った。
「もう、やめる」
「何を?」
聞き返すと、右京は初めて顔を上げていった。
「お前とこういうことをするの、もうやめる」
「どうして」
言うと彼は視線を逸らしたあと、膝に乗せた拳を握った。
「お前の彼女に、失礼だからだ」
「―――――」
何を言い出すかと思えば―――。
昨日の女か?
文具店の?
「ぷっ」
吹き出した蜂谷を右京は睨んだ。
「おいおい。マジかよ。あのアバズレが本当に俺の彼女に見えたか?」
右京の大きな目が見開かれる。
「―――違うのか?」
「……あんなのどう考えても―――」
一回きりだろ。
ワンナイトだろ。
ワリキリだろ。
いろんな言葉は浮かんだが、どれを選んでも握った拳に殴られる気がして、蜂谷は鼻から言葉を抜いた。
「……とにかく違いますから。もう会うこともない女ですから」
言いながらその拳を包むように手を握り、丸椅子のキャスターを滑らせ、右京に膝をつき合わす。
「ドゥーユーアンダースタンド?」
「――Did you understand?だ…」
右京はふっと笑いながら、やっと蜂谷に視線を戻した。
「お前って、本当に英語ダメだな」
その顔を両手で包み唇を合わせた。
「……んんッ」
両手が軽く蜂谷の胸を押し返してくる。
これから蜂谷がする話で、おそらく傷つくであろう彼を、その心を、包み込むように抱きしめる。
―――何だこの感情………。
こちらの執拗な舌の動きに、遠慮がちに絡めてくる細い舌を吸いこむ。
俺、こいつのことを陥落させてやろうと思ったのに。
崩してやろうと思ったのに。
今、確かに俺は―――。
こいつが崩れるのを怖がっている。
自分が発する言葉で―――。
おそらく簡単に崩れてしまうだろう高い塔を……。
「……やめ…ろよ」
今度は先ほどよりも強く蜂谷を押し返しながら右京は言った。
「だから、こういうことはやめたいって…!」
「……あの女が俺の彼女じゃなかったらいいんだろ?」
「―――それだけじゃなくて」
右京は再び蜂谷から目を逸らすと、一度大きく息をついてから言った。
「……永月に言われたんだ…。好きだって」
「は?」
「文化祭の日に返事を聞かせてほしいって」
「―――――」
「だから俺も、もうやめようと思う」
―――何だそれ。
あいつ、何を考えてやがる……。
でもあいつより―――。
今、こいつは……何を考えている?
蜂谷は、想い人に気持ちが通じた顔にはとても見えない悲痛な表情を浮かべている右京の顔を覗き込んだ。
「―――やめてどうする?」
言うと、彼は目を伏せた。
「あいつの気持ちに、ちゃんと向き合おうと思う」
「――――」
胸を押し返してくる力が強くて、近づくことができず、蜂谷はその腕を見つめた。
―――ほっそい手。
体格差だって、体重差だってあるのに。
なんで俺はこいつに―――。
「なんであんなやつ、好きなんだよ」
考えていることと、口から出てくる言葉はまるでちぐはぐだった。
「―――――」
右京は答えない。
「顔か?サッカー上手いからか?」
「……そんなんじゃない」
あいつに顔とサッカー以外の何があるんだよ―――。
「じゃあ、なんで?」
「――――」
「…………」
保健室の窓一枚隔てた昇降口からは、放課後の生徒たちの笑い声が聞こえてくる。
文化祭に向けて練習を重ねる吹奏楽部の練習する音も聞こえてくる。
ここだけだ。音がないのは。
蜂谷はいつまで経っても話しだそうとしない右京が、沈黙を破るのを待った。
「………俺にとってあいつは」
やっと右京は薄い唇を開き、話し始めた。
「ヒーローなんだ」
「ヒーロー?」
そんな単語がこの男から出たことがおかしくて、蜂谷はふっと笑った。
「”赤い悪魔”じゃあるまいし。そんなの何人もいて溜まるかよ」
言うと、今度は右京がふっと笑った。
「そんなんじゃない。正真正銘、本物のヒーローだ」
そして伏せていた目を上げ、こちらを見つめた。
「それは、何があってもずっと変わらない…」
―――何があっても……?
「―――右京。お前もしかして……」
「とにかく」
右京は蜂谷の言葉を遮ると、
「もうやめる。お前とこういうことしても。誰も幸せにならない―――」
立ち上がった。
「幸せにって―――」
呆れてながらその腕を掴む。
「そもそも幸せになるためにやってたんじゃないでしょ」
「―――」
簡単に振りほどけるだろうに、右京は大人しく腕を掴まれたまま、顔を逸らした。
「………お前とこういうことすると……」
「すると―――?」
「なんかおかしくなるんだよ……」
「何が」
蜂谷はもう一つの手で口元を覆った右京を覗き込んだ。
「もういいだろ……!身体も感情も、なんかいろいろ持ってかれるみたいで、怖くなるんだって!」
―――怖い?
無敵なこいつが?
悔しいことに歯が立たない俺を?
怖い……?
「だめだよ。逃がさない」
背中に腕を回し抱きしめた。
身体を硬直させてはいるが、抵抗はしない。
「約束しただろ?じゃないと俺、文化祭出ないぞ?」
「…………」
「文化祭終わったらあいつと付き合うんだろ?じゃあ、今はいいって言うことだよな?」
畳み掛ける。
「これで最後にするから」
「でも……」
「ちょっと……黙れよ」
傍らにあった診察台に座らせながらもう一度唇を奪う。
「蜂……んッ、………あ……」
聞きたいことはたくさんあった。
永月のことをヒーローと呼ぶ理由も、こいつが実際どこまで勘づいているのかも。
でももし……。
自分が言った通り、これで最後なら―――。
ここであいつの名前を出したくない。
「嫌だったら、殴ってとめろ。得意だろ?」
言いながら右京のベルトを緩める。
「―――っ!」
「そうしたら、俺たちはこれっきりだ」
「――――」
右京は戸惑いながらも、緩められていく自分のベルトを見ている。
蜂谷は診察台から足を垂らした右京を座らせたまま、自分はその前に跪いた。
「おい……何を……」
目を見開いている右京の膝を大きく左右に開かせる。
ズボンのボタンを外し、チャックを下ろす。
ワイシャツのボタンをした半分だけ外し左右に割る。
インナーを引き上げると、やっと濃いグレーのボクサーパンツが見えた。
―――勃ってる…。
触らなくても右京のソレが硬くなっているのはわかった。
さっきの軽いキスで。
いや、もしかしたら服を脱がされる過程を見て。
こんな風になってしまった右京を思う。
殴られながら。
気を失いながらも。
ここまで開発してきたのに。
あんな男に横から奪われるのか。
自嘲的な笑いがこみ上げてくる。
―――させるかよ。
蜂谷はそれを手に包んだ。
やはり硬くなっている。
少し上下に擦ると、頭上にある右京の唇から息が漏れる。
グレーのパンツに形どられたソレの先端が濡れて、色が濃くなってくる。
そこに親指を宛がい、スリスリと撫でると、たちまちぬめりを帯びてくる。
「んん……ッ」
右京の泣きそうな声が降ってきた。
―――ああ。もう我慢できない。
とろとろに甘やかして。
抵抗する気力を根こそぎ奪って。
ここで―――
最後まで全部、
奪ってやる……!
「蜂谷……?」
右京の戸惑いと迷いを払拭するように、蜂谷はソレを一気にパンツから引き出した。