静まり返った空間に、低いノイズ音が鳴る。
それは、護井会が特務指令を発する時にしか使われない“旧音源”によるアラートだった。
《灰階評議官》のミルゼ・ラウトは、グラスの紅茶に視線を落としたまま言う。
「……もう《クソ探偵》も使えない。面白くない駒ばかり残ったわね。でも……アレなら、まあ、駒というより“弾”かしら」
対面に座る老人──《黒帯役》ガラ・スーグは、痩せた指で机を軽く叩いた。
「……《ウィス》を、利用しろ。あの肉なら、無駄に思考しない。命じられたら、殺す。ただ、それだけだ。今回はそれでいい」
議題の中心に置かれたのは、忌まわしい“発生源”のデータだった。
「……魔物を生成する“発生者”がいる。中層から下層にかけて、断続的に確認されている異形の瘴気……あれは自然発生ではない。“誰かが”、意図的に生み出しているのだ」
「特定は……まだか?」
「ほぼ完了している。名前はまだ伏せておく。だが“人間”だ。そして、強い」
ミルゼが不快そうに笑う。
「やだわ……また人間相手? 魔物よりよっぽどタチが悪い。でもまあ──ウィスなら、いいか」
画面が切り替わる。
そこに表示されたのは、ウィスの“房”。
鉄板の壁、厚さ1m、空気すら数値管理されている最下層の“牢”。
しかし、そこにいるはずの人間は──座っていた。いや、「獣」が、呼吸していた。
ウィス。
護井会の“制圧担当”にして、現場の処刑人。
“肉体”だけで全てを破壊する、“呪いなき暴力”の体現。
その背中に、低く響く警告音が流れる。
【新任務発令──対象:“魔物を生み出す者”。殺害許可:有。交渉:不要。記録:不要。】
ウィスは、身体を起こした。
動きはゆっくりとしているが、その場の酸素が数パーセント下がるほどの重圧。
彼は言葉を喋らない。だが、首を“横”に振らない限り──それは“了承”と見なされる。
……数秒後、ウィスは立ち上がった。
鋼の床が軋む。
記録官がつぶやいた。
「……放たれました」
ミルゼは笑う。
「よかったじゃない。魔物も、人間も、街も──全部まとめて、肉で潰してもらいましょう」
ガラ・スーグが締めるように言った。
「ウィス、次なる標的。“魔を孕む者”を──殺せ。生存は不要。魂すら、踏み潰せ」
──この命令が、新たな惨劇の幕開けとなる。“暴力”が、再び階層を歩き出した。
コメント
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今回も神ってましたぁぁぁぁぁぁあ!!!!! あ、ウィスたん、居たのね!?←失礼 まあ、とりまウィスたんは最強だし?何事も余裕にこなしてくれることでしょう! ...とも限らないこともないワケだよね?(?) 次回もめっっっっさ楽しみいいいいいいいいいいぃ!!!!