『始まり』
昔々、人とあやかしが共に生きていた時代。山の奥深くに「千年桜」と呼ばれる一本の桜の木があった。そこには、人の姿をした白狐のあやかしが住んでいた。名はユウ。
彼はある春の日、迷い込んできた少女「サナ」と出会う。
ふたりは種族の壁を越え、淡い恋を育む。しかし人の村ではあやかしとの関わりは“穢れ”とされ、ユウは村人たちによって封印されてしまう。
封印される直前、ユウはサナにこう言った。
「千年後の春、この桜の下でまた君を待つ」
そして現代——
桜舞う春の町に越してきた高校生・咲奈(さな)は、ある日、不思議な夢を見る。
白い狐、千本の桜、誰かを待ち続ける声——
導かれるように、彼女は山奥に眠る“千年桜”を訪れる。
そこに現れたのは、千年の時を超えて彼女を待ち続けたユウだった——。
『プロローグ』
――その桜は、千年の時を越えて咲き続ける。
けれど、それはただの伝説でも、神話でもない。
一匹の白狐が、たった一人の少女を待ち続けた、ほんとうの話。
春の風が、街をふわりと撫でた。
電車の窓から眺める景色は、見知らぬ土地に染まっていく。咲奈は、制服の胸元をそっと握った。転校先のこの町には、何も縁もゆかりもない――はずだった。
けれど、昨日から何度も同じ夢を見る。
薄紅の花びらが空から降りしきる中、白い着物をまとった少年が、桜の木の下で笑っていた。彼の声は、どこか懐かしいのに、思い出せない。
そしていつも、夢の終わりにこう囁かれるのだ。
「やっと、君に会える――」
*
「この町にはな、昔“千年桜”って呼ばれる桜の木があったらしいぞ」
転校初日、クラスメイトの男子が教えてくれた。
「そこに住んでた白い狐のあやかしが、人間の女の子に恋して、でも千年前に別れて……千年後の春にまた会おう、って言ったんだって」
クラスメイトの誰かが笑う。
「そんなのただの作り話だろ」
けれど咲奈は、胸の奥がきゅっと締めつけられるような気がした。
その桜を、私は――知っているような気がする
春の風が、またそっと吹き抜けた。
過去と未来、夢と現が交わるこの季節。
千年の時を越えた約束が、静かに動き出そうとしていた
どうでした?
多分この話は短めに終わると思います。