レイス・ワイルが足を踏み出すたびに、地面がじわりと赤黒く染まっていく。
森の霧が彼の意志に呼応し、血の匂いが立ち込めた。
ヴァレン・クローヴィスは即座に構える。
聖血騎士団の一人が銀の短剣を投げた。
「──化け物が!」
しかし、レイスは微動だにしない。
シュン──
短剣は空中で止まる。
まるで見えない壁に阻まれたかのように。
「……!? 何が起こった?」
「貴様らは知らないのか?」
レイスの赤黒い瞳が妖しく光る。
「森は俺の血でできている。」
次の瞬間、短剣が逆方向に飛び、投げた騎士の喉を貫いた。
「──がっ……!」
騎士は声にならない悲鳴を上げて倒れる。
「……なるほどな。」
ヴァレンは眉をひそめた。
「この霧……《血》なのか。」
「理解が早いな。」
レイスは微笑む。
「貴様らが踏み入った瞬間から、俺の血はお前たちの心臓の鼓動を感じ取っている。」
「つまり、お前はこの森そのもの……か。」
「その通り。だが、それがわかったところで──」
レイスは手をゆっくりと上げた。
「……遅い。」
その瞬間、霧が蠢き始める。
地面から赤黒い触手のようなものが伸び、騎士たちに絡みついた。
「な、なんだこれは……!? くそっ!」
「血が……血が体に食い込んでくる……!」
騎士たちの皮膚に赤い線が浮かび上がる。
まるで血管の中に何かが流れ込むように。
「貴様らは血の味を知ることになるだろう……。」
レイスの口元がわずかに歪んだ。
「──俺が80年間培った《血を操る術》の味をな。」
次の瞬間──
赤霧の森は、絶叫で満たされた。
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