「あああああぁぁぁぁぁー!?」
そう。突然だった。前世の記憶を思い出すのは――――。
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―10分前―
「アデリーナ!これを見なさい!」
この女性は、私の姉、エミリア・フィリンティア。フィリンティア公爵家の長女で、今は、12歳だ。
「なんですの?お姉様。」
「この小説、読んで見てよ!」
そう言って、姉が差し出してきたのは、表紙に「貧乏田舎娘は、溺愛される!?」と書かれただけの本だった。
「はあ?何なんですの、この本?あらすじを読んだだけでも、寒気がしますわ。」
この本のあらすじには、「主人公は、こころ優しい、アリスという女の子。アリスは、貴族しか入れない、魔法学校に招待される。そして、アリスは、魔法学校で上級貴族たちに溺愛されるようになって―――!?」と書いてある。
「おかしいですわ。庶民があの、由緒正しき学校に入るなんて、夢のまた夢です。」
私は、バカにしたように鼻で笑った。
「でも、意外と面白い話だったわよ。」
「お姉様。よく考えてください。庶民は上級貴族を見れるだけでも、光栄なことなのに、庶民が上級貴族に溺愛される?バカバカしいですわ。 」
姉は、どうかしてしまったのか。
「おかしいのは、あなたの方よ、アデリーナ。本当に面白いんだから。読んだら、驚くわよ。」
「、、、、、、、、はあ、、、、考えておきます。」
そんな姉に、ついに折れた。
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「はあ、、約束したんだから、読むべきよね。馬鹿らしいけど、、、、、、、、」
私は、本のページをめくる。そして、、、、、
「あああああぁぁぁぁぁー!?」
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、、、、、、、、今に至る。
前世の私は、ホテル経営者の娘で裕福なくらしをしてきた。だが、18歳になった頃、契約結婚をさせられることになった。相手は、20歳以上は離れているおじさん。嫌だったけれど、両親には、それまで裕福なくらしをさせてもらっていた恩があるので、断れなかった。そして、結婚初日。すぐに「相手は、モラハラ男だ」ということに気づいた。毎日のように暴力を振られるのは、とても辛かった。
そんな時に、出会ったのが「貧乏田舎娘は溺愛される!?」というゲームだった。ろくに恋愛できず、結婚をさせられた私にとっては、癒しだった。
そんなある日。酒に酔い、機嫌が悪いモラハラ男にまた、暴力を振られた。その時だった。ゲームを隠していた、机に殴られた拍子にぶつかってしまったのだ。ゲームは、机から男の近くに落ちた。
「なんだこれは!俺がいながら、こんなゲームして、何様のつもりだ!」
何度も何度も殴られて蹴られた。そして、何度目かも分からない蹴りを受けた時、
ドスッ!
という鈍い音が机に頭をぶつけた瞬間、聞こえた。
男が真っ青な顔をして、オロオロしている。その様子から見て、自分が今、どうなっているかは、だいたい分かった。
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「あぁ、そうだったわ。あの時、私は、あの男に殺された―――」
今回は、運良く、転生したけど、転生したキャラが悪役令嬢だなんて、ついてない。
「あ、でも、主人公たちと関わらないようにすれば―――いや、ダメね。」
悪役令嬢は、主人公関係なしに死ぬルートがある。主人公達と関わらなかったからと言って、幸せになれるわけじゃない。
「うーん。訓練かしら?自分の身を守る為にも、必要よね。あ、、もし、断罪された時はどうしようかしら。前世の時の家事スキルがあるから、多少は、どうにかなるけど、、、、、、、、」
そんなことを呟いていると、ドアをノックする音が聞こえた。
「ん?何かしら?」
ドアを開けてみると、お姉様と、メイドが複数人、心配そうな顔をして立っていた。
「悲鳴がしたけど、どうかしたの?」
「えっと、、、、、、、、」
さすがに「お姉様の、おすすめの本を読んだら、前世の記憶を思い出しました!」とは、言えないので、言葉に詰まる。
「お、お姉様が勧めて下さった、本に感動して!感動しすぎて、悲鳴を上げてしまいました!ご心配をお掛けして、申し訳ございません。」
その、言葉を聞くと、お姉様はパッと顔を明るくさせて返事をしてくれた。
「でしょう、でしょう!?面白いわよね!」
「あはは、、、、そうですね。」
「後で、ファヴィオにも、見てもらいましょう。」
「ファ、ファヴィオお兄様にですか?」
ファヴィオお兄様とは、フィリンティア公爵家の嫡男、ファヴィオ・フィリンティアであり、私の兄で8歳だ。
「そうよ。きっと私の気持ちが分かるはずだわ。」
正直、私は兄が苦手だ。というか、姉も少し苦手だ。理由は――
「それに、ファヴィオは、アデリーナが、大好きだし、きっとアデリーナが好きな本って分かったら、どんな本でも好きってゆうはずよ。」
「そ、そうですか?」
兄に、めちゃくちゃ溺愛されるからだ。姉だって、兄に負けず、劣らず、なかなか私のことを溺愛していると思う。
全く、困ったもんだ――と、思った時、突然部屋の扉が開いた。
「お、お兄様!?」
「よう!俺を呼ぶ、声が聞こえたが――どうかしたか?」
扉を開けた、人物は兄だった。
「もう、ノックぐらいしなさいよ、馬鹿ファヴィオ!」
姉がどなる。兄は、そんな姉を無視して、ニコッと私に笑いかけ、歩み寄ってきた。
「ア〜デ〜リ〜ナ〜♡」
と、突然私にハグをする。
「お、お兄様!?//」
「ファヴィオ〜!離れなさい!」
兄のハグは、優しいし、落ち着く。でも、照れくさくて、自然にハグを受け入れることが素直に出来ない。
「分かった、分かった、鬼婆さん♡」
「なんでスってぇ〜!?」
あぁ、、、、、、、、始まった、、、、、、、、こうなれば、部屋から追い出すしかないわね。
「お姉様、お兄様。今日は、アデリーナ、とても眠いので、静かにして、頂きたいのです。」
そう言うと、2人は言い争いをやめ、
「あら。なら、お部屋の外でこいつをしばいてくるわね。」
「アデリーナ♡ちゃんと眠るんだぞ♡」
「あ、はい!、、、、、、、、わぁっ!」
兄は、私を抱きかかけて、ベッドに寝かせてくれる。
「おやすみ。」
次に、姉がニコッと笑い、私の頭を撫でてくれた。
「おやすみなさい、、、、、、、、」
最後に2人は、私に笑いかけると、静かに部屋を後にした。
「、、、、、、、、ふふっ、なんでかしら。急に眠くなっちゃった、、、、、、、、」
私は、スっと目を閉じる。そうしただけで、何故か深い眠りに落ちていった。
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「ん、、、、、、、、、あれ?ここは、、、、、、、?」
何だかふわふわする。周りは、真っ黒で何も見えなかった。もしかして、まだ夢の中なのだろうか。
しばらく、暗闇の中をさまよっていると、あの本が目の前にスっと現れた。
「この本、、、、、、、、なんで夢の中に?」
自然に、本のページをめくる。
「何よこれ、、、この本、あの乙女ゲームとほとんどシナリオが同じ、、、、あ、、、、、、、」
本に「アデリーナ・フィリンティア」と、ハッキリ書いてあった。
「嘘でしょ、、、、、、、、アデリーナがやった悪巧みも乙女ゲームと同じ。」
その時。頭に衝撃が走ったと思うと、意識が遠いていった。
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「キャアアアァァァァァァー!」
「なんなのよ、今の夢は!」
私は、本を探す。
「あった!本の内容は、、、、、、、、あれ? 」
表紙のタイトルと主人公の名前、などは変わらないが、他のキャラの名前や、内容が変わっていた。
「さっきの夢は、なんだったの、、、、、、?」
その時、ガチャっと部屋の扉が開いた。
「「アデリーナ!?」」
「お、お姉様にお兄様?どうされたのですか?」
まあ、悲鳴をあげたので、どうしたも、こうしたもないのだが、一応聞いておく。
「悲鳴が聞こえたが、、、、どうしたんだ?」
「また、悲鳴をあげて、、、、、やっぱり調子が悪いんじゃ、、、、、、、、」
二人共、心配そうな顔をしていたが、私が元気そうなのを見ると、少しだけ、表情を緩めたように見える。
「なんでもありませんよ。怖い悪夢を見ただけです。」
これは、本当。怖かったかどうかは、知らないが、悪夢を見たことは、確かだ。
「あ、悪夢!?大丈夫か!?」
「ストレスが溜まっているのかも!医師を呼びましょう!」
いやいや、ストレスだけで貴重な医師を呼べるか。
「ほ、本当に大丈夫ですから。」
「そうか?」
「なら、いいけど、、、、、、、、」
2人は、いまだに、医師を呼びたそうな顔をしていたが、素直に私の気持ちを尊重してくれる。
「何かあるなら、すぐに呼ぶんだぞ?」
「お父様に、相談してみるからね。」
そう言って、2人は、名残惜しそうに私の部屋から出ていく。
「はあ、、、、疲れた、、、、、、、、」
よし、本題に戻ろう。まず、私は夢の中で例の本の内容が乙女ゲームのシナリオと同じだとゆうことを知った、、、、、、、、んだけど、、、、、、、、
「何度見ても、夢の中の本の内容と違うわ、、、、、、、、、」
それなら、もうこの本は役には立たない。
「うーん。あ、そうだ。乙女ゲームって、選択によって、色んなシナリオが出来るから、もしかしたら、今の私にとっては、重要なことを夢の中で伝えようとしてくれてるんじゃ、、、、、、、、」
いや、ちょっとしか読んでないのに分かるか、そんなこと。
「とりあえず、上級魔法を取得することかしら?」
そう、この乙女ゲーム「貧乏田舎娘は溺愛される!?」には、魔法が存在する。
それに、魔法が使える人の方が優遇されやすい。
「よしっ!明日から、特訓よー!」
私は、エイエイオー!とばかりに手を上へ振り上げた。