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1人取り残されたヴィオラは、戸惑っていた。降ろして貰えたのは良かったが、1人にされるのは不安だ。
周囲からの視線も痛い。取り敢えず、壁際に避難しようと急いで足を踏み出したら、ドレスの裾を踏んだ。
「へ……」
倒れるっ‼︎
と目を瞑ったが、一向に衝撃はこない。代わりに目の前にあるのは、男性の腕と胸元だった。
「も、申し訳、ございませんっ」
ヴィオラは、慌てて離れようとするが、もつれてしまい上手く足が動かない。
「大丈夫?怪我してない?」
この声は……。
「テオドール、様?」
聞き覚えのある声に、ヴィオラは安堵した。
「君が1人になるのを伺っていたんだけど……驚いたな。まさか、お姫様だっこされて入場してくるし。その後も、ずっとそのままで……王太子殿下は、やはり只者じゃないね」
真剣な表情で、そう話すテオドールにヴィオラは苦笑いを浮かべた。
それよりも、未だテオドールの腕の中に収まっていて、恥ずかしい……。
「ヴィオラ……嬉しいよ。その髪飾り、つけてくれたんだね」
今朝目を覚ました時、枕元にこの髪飾りと、君が自由を望むなら今宵、それをつけて。とメモが添えられていた。
「髪飾りを頂くのは、2回目ですね。わざわざ用意して頂かなくても」
「……いや、以前贈ったものは、気に入らなかったと思って。もしかしたら、捨てられているかも知れないと、思ったしね」
テオドールは、そう言うと力なく笑う。以前贈った時、ヴィオラは1度も身に付けてくれていなかった。故にもう手元にあるとは思えず、新しいものを用意した。
「へ?いえ、捨ててなどいませんよ?見て下さい」
ヴィオラは、テオドールに見えるように頭を傾けた。すると、今朝の髪飾りの隣に隠れてはいるが、確りとつけられていた。
「その、デラがこの髪飾りに付いている宝石は、太陽の光に弱いからって言っていて、それが嫌で中々つけられなくて……テオドール様から折角頂いたのに、大事にしなくちゃって……ですから、あの」
口籠るヴィオラを見て、テオドールは恥ずかしくなったのか口元を押さえ頬を染めた。
「どうしよう……」
「へ」
「嬉し過ぎて、やばい」
ヴィオラの意外な言葉に、テオドールは顔がニヤけてしまう。ヴィオラに他意はないだろう。そのままの意味で、別にテオドールからの贈り物だから、という訳ではないのは事は分かっている。
だが、普通はこんな風に言われたら勘違いしてしまう。
「テオドール様?」
ヴィオラが、不思議そうな顔でテオドールを上目遣いで見遣る。これは、トドメか⁈テオドールは、まるで、弓で心臓を撃ち抜かれたようだ……と感じた。
「ヴィオラ、僕は」
ヴィオラを王太子から救い出したら……彼女が望んでくれるなら。
「僕は」
「ヴィオラ、何しているの」
テオドールが、そう言いかけた時、冷たい声が響いた。2人が振り返ると、そこには無表情のレナードが立っていた。