俺たちは『不死身|稲荷《いなり》|大社《たいしゃ》』から、やっと帰れる状態になった。
それにしても……長い寄り道だったな……。
まあ、全員が無事だからいいか。
俺たちが例の巨大な鳥居《とりい》の前に来ると、なぜか大量の食糧《しょくりょう》が置いてあった。
「お参りの効果ありすぎだろ! というか、ここの神様誰だよ! こんなにたくさん……太っ腹すぎるだろ!」
「ナオト……せっかくだ、もらっておこう」
「しかしだな、名取《なとり》。こうもあっさり願いが叶うのはおかしいだろ? なんかあとで見返りを求められそうで怖いのだが……」
「そんなことはない……据え膳《ぜん》食わぬは?」
「お、男の|恥《はじ》」
「じゃあ、決定だな」
「こういうとこは、ちゃんとしてるというか……なんというか……まあ、このままここに置きっぱなしよりかはマシだから、ありがたくもらっておこう」
「我が|主《あるじ》よ、我の背中にそれら全てを乗せるといいぞ」
「えっ? ここにある荷物を全部、お前の背中に乗せるだって? 一人……いや、お前一匹だけじゃ、さすがに無理だろ」
「よし。では、こうしよう」
「えっ? いったい何を……」
俺が質問する前に『|黒影を操る狼《ダークウルフ》』は体毛を一瞬、ブワッと逆《さか》立てた。
その直後、複数のオオカミが出現した。
「な、何これ?」
「『|黒影を操る狼《ダークウルフ》』は自分の分身を作り出せる。我が|主《あるじ》と我《われ》が初めて会った時も、そうであったろう?」
「ん? ああ、そういえばそうだったな」
『さぁ、我が主《あるじ》よ。遠慮なく我らの背中にそれらを乗せるといいぞ』
「な、なんか、たくさんいると迫力が増すな。というか、まるでこうなることが分かっていたかのように、ちょうどいい長さのロープが置いてあるな……」
「細かいことは気にしなーい」
ルル(白魔女)は、そう言いながら俺の背中を押して、早く準備をさせようと誘導した。
「はいはい、やりますよー。か弱いお嬢さん方は少し休んでいてくださいな。名取《なとり》、手伝ってくれるか?」
「……分かった」
こうして俺と名取は大量の食糧をウーちゃん(オオカミ)たちの背中に乗せて、それと同時にロープで固定し始めた。
その間、ルルたちは誰がどのウーちゃん(シズクが名付けた)に乗るかを『ジャンケン』で決めていた。
何か決める時は『ジャンケン』で決めるというルールがあるわけではないが、なんとなくそうなりつつあることを知った。
*
____『五帝龍《ごていりゅう》』。
かつてこの『神獣世界《モンスターワールド》』の人間たちを恐怖のどん底に突き落とした五体の龍の総称である。
しかし、異世界からやってきた『アイ』という人の形をした化け物に追い払われてしまったため、今は魔力を回復するために天井が空洞になっている洞窟《どうくつ》のすみっこで、それぞれが体をできるだけ小さくして復活できる日を今か今かと心待ちにしている。
「なあ、俺たちは、いつまでこうしてればいいんだ?」
『|紅き炎を操る帝龍《バーニングドラゴン》』が何の前触れもなく、そんなことを言うと。
「頭を使え、バカ。我らはあと五百年ほどこうしていないと復活できないことぐらい分かるだろう」
『|蒼き水を操る帝龍《アクエリアスドラゴン》』が、応答した。その直後。
「おーい、その辺《へん》にしとかないと、また『アイ』に倒される夢を見るよー」
『|翠の風を操る帝龍《テンペストドラゴン》』が口を挟んできた。すると。
「お前ら、さっきからうるさいぞ! 少しは静かにしろ!」
『|金の光を操る帝龍《ライトニングドラゴン》』が、注意をした。そのあと。
「みんなが……もう少し静かにしたらいいと思うよ」
『|黒き闇を操る帝龍《ダークネスドラゴン》』が弱々しくそう言うと、全員が大人《おとな》しくなった。なぜなら、その龍が一番この中で強かったからだ。
それに、その龍を怒らせると兄弟たちでも手に負えない。
だから、彼の言うことを聞かざるを得なかったのである。
「僕は、みんなとこうしてゆっくりしている時間は好きだよ。異世界から来た『アイ』という人間がこの世界に来なければ、この世界は僕たちによって滅ぼされていただろうしね」
ダークネスがそう言うと、バーニングは。
「でもよー、俺たちはただ、人間たちと遊びたかっただけなんだぜ? なんで、撃退されたんだ?」
それを聞いたアクエリアスは。
「お前はバカなのか? よく考えてみろ。我らと人では力の差がありすぎる。故《ゆえ》に、我らにその気がなくとも人間にとっては脅威《きょうい》でしかない。だから、撃退されたのだ」
それを聞いたテンペストは。
「まあ、それもあるけど何百人か殺しちゃったからね。悪気がなくても人間を殺しちゃったら、それはもう……」
それをライトニングが付け加える。
「人にとっては憎むべき対象になってしまうわけだな」
「そう、それ!」
テンペストが納得すると、ダークネスが。
「じゃあ、何がいけなかったのかな?」
他の四体に問いかけた。
「僕たちは悪気《わるぎ》があって人間や動物、まちを襲ったわけじゃない。ただ、遊びたかっただけ。でも、人からしてみれば僕たちは災厄《さいやく》をもたらす五体の邪龍《じゃりゅう》でしかない。なら、僕たちの存在自体がこの世界にとっては不必要なのかな?」
それに対して、バーニング、アクエリアス、テンペスト、ライトニングがそれぞれ答えた。
「それは、さすがにねえよ! だってよ、俺たちは今までこの世界を守ってきた側なんだぜ?」
「バーニングの言う通りだ。我らはこの世界に必要不可欠な存在だ!」
「そうだ! そうだ! 俺たちがいないと、この世界は成り立たない!」
「ふん、たまにはいいことを言うではないか……。ダークネスよ、我ら『五帝龍《ごていりゅう》』はこの世界の象徴であり、要《かなめ》。ならば、我らなりに、この世界で生きていける方法があるはずだ。まずは、そこから検討《けんとう》してみないか?」
それを聞いたダークネスは、こう言った。
「みんな……よし、それなら僕にいい考えがあるよ」
『それはどんな方法だ?』
他の四体はそう言った。
「それはね……」
ダークネスの口から発せられた言葉は、四体のあらゆる器官をフル稼働させてしまうほどのものだった。
「そうか! その手があったな!」
バーニング。
「なるほど! それなら人に危害を加える確率も断然、低くなるな!」
アクエリアス。
「さんせーい! それでいこうよ!」
テンペスト。
「うむ、さすがはダークネスだ」
ライトニング。
「でしょ? なら早速《さっそく》、その姿で『アイ』のところに行こうよ! 僕たち……みんなで!」
最後にダークネスがそう言うと、四体は深く頷《うなず》いた。
その後、ダークネスを含めた全員で、こう言った。
『|小魔力擬人化《チェンジング》!!』
その魔法を発動すると同時に洞窟全体が白い光に包まれた。
数秒後、五体の龍は人の姿になっていた。
だが、少ない魔力での擬人化は自分が想像したものとは異なることが多い。
「な、なんだこれええええええええええええ!!」
バーニングは、洞窟全体に聞こえる声で叫《さけ》んだ。
「ふむ、やはりこうなるか」
アクエリアスは自分の体を見ながら、そう言った。
「まあ、そうだよねー。あはははははー」
テンペストは両腕を頭の後ろで組んだ状態で笑いながら、そう言った。
「まあ、しばらくはこれで我慢するとしよう」
ライトニングは両腕《うで》を胸《むね》の前で組んだ状態で、そう言った。
「でも、この方《ほう》が動きやすいから、僕は好きだなー」
ダークネスは、その場でピョンピョンと跳《は》ねたあと、屈伸《くっしん》をしながら、そう言った。
お分かりいただけただろうか? 彼らが擬人化した結果どうなったのかを……それでは、彼らのだいたいの容姿《ようし》を説明しよう。
まず、全員の身長は百三十センチに統一されており、それぞれが赤、青、緑、黄、黒の半袖《はんそで》Tシャツと短パンを身に纏《まと》っている。(靴《くつ》は、それぞれ赤、青、緑、黄、黒のスニーカーである)
髪の色も、赤、青、緑、黄、黒で、バーニングは髪が逆立っていて、アクエリアスは右目を隠している。テンペストは台風の形をした髪型で、ライトニングは『マギ』の『ア○ババ』みたいな髪型。
ダークネスは両目を前髪で隠している。
目の色も、赤、青、緑、黄、く……いや、ダークネスの目の色だけ、自分の体の色ではなく、赤である。ダークネスの両目は前髪で隠れているが、血をそこに垂らしたのでは? と思ってしまうほど紅《あか》く、そして美しい。
五体……いや五人は、早速『アイ』のところに行こうとした。
しかし、彼らは【モンスターチルドレン育成所】の場所を知らなかった。
だが、この姿になったおかげでここから外の世界に行けるようになった。
その後の話し合いの結果。近くのまちで情報収集をすることになった。
『自由をこの手に! 我ら【五帝龍《ごていりゅう》】に【帝龍王 エンペラードラゴン】の祝福あれ!』
五つの拳《こぶし》を天に掲《かか》げながら密着させ発《はっ》した言葉が何の誓《ちか》いなのかは分からなかった……。
その後、彼らは洞窟《どうくつ》の出口から外の世界へと飛び立った。
翼《つばさ》を広げる時は服の繊維《せんい》が自動的にいい感じの穴を開けてくれるため、あとで縫《ぬ》い合わせる必要はない。
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