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戦いが終わり、世界には平和が戻った――はずだった。
だが、アンパンマンにとって、それは違った。
アンパンマンが戦いの末に目を覚ましたとき、村人たちは遠巻きに彼を見ていた。
彼の身体はボロボロで、かつての輝きを失っていた。
しかし、それ以上に彼を苦しめたのは――村人たちの目だった。
「……こいつは、もう“アンパンマン”じゃない」
誰かが呟いた。
「だって、仲間を殺したんだろ?」
その言葉が広がると、村人たちは後ずさりし始めた。
「……違う、僕は……」
アンパンマンが口を開く。
「僕は……元に戻ったんだ……もう大丈夫なんだ……!」
必死に訴えかけるが、村人たちの目には恐怖が宿っていた。
「でも、カレーパンマンやしょくぱんまんを殺したのは事実だろ?」
「ばいきんまんが倒してくれなかったら、今ごろ私たちはどうなってたか……」
「ヒーローじゃなくなったアンパンマンなんて、ただの怪物じゃないか……」
村人たちは、アンパンマンを避けるようになった。
かつては「アンパンマン!助けて!」と頼っていた人々が、今は目を逸らし、道を譲る。
子どもたちは親に言われ、彼に近づかなくなった。
「お母さん、あの人……アンパンマンだよね?」
「見ちゃダメ。こっちにおいで」
村の壁には、いつの間にか書かれていた。
「元・アンパンマン」
「裏切り者」
「仲間殺し」
アンパンマンは、それを見ても何も言えなかった。
彼が最後に戻ったのは、かつてのパン工場だった。
しかし、そこにはもうジャムおじさんもバタコさんもいない。
誰もパンを焼く者はいなかった。
「……ただいま」
誰に言うでもなく、アンパンマンは呟いた。
静寂が彼を包む。
長い間、彼はそこで座り続けた。
朝日が昇り、夜が訪れ、また朝が来る。
それでも、アンパンマンは動かなかった。
もう、彼には何もなかった。
ある日、彼は立ち上がった。
ゆっくりと、パン工場をあとにする。
行くあてもない。
だが、ここにいる理由もなかった。
彼はただ、歩き続ける。
誰も呼ばない。
誰も振り向かない。
「……また、ヒーローになれるかな?」
彼の問いに、風が答えることはなかった。
アンパンマンは、消えるように森の中へと姿を消した。
そして、彼を見た者は――もう誰もいなかった。