「約束の教室」
それだけ聞くと凄く大事そうな響き。
しかし、たかが空き教室。
小学生の口約束みたいなもの。きっと。そう思えばいい。
そう、その小学生の口約束に本気で怖がっている私は馬鹿だ。
所詮あいつは__赤崎は女たらし。
どうせ髪色が派手ってだけで呼び出された。
ていうか、そもそも私がナンパなどされるはずがない。
陰キャがナンパされるなど冗談じゃない。
重い足取りで廊下を歩く。
廊下にはコツコツと規則的な足音が響く。
気になるような。でも怖いような。
そんなこんなで約束の教室(空き教室)に
ついてしまった。
耳を澄ませる。
「…ガタンッ」
物音がする__人がいる。
すぐ入ることを躊躇した私はドアの数センチの隙間から中を覗いてみる。
そこには_
「ジュゥ……チュ…ッ」
確かに赤崎の姿があった。
そして_
「ん”……//」
首筋にキスをされているクラスメイト。
どういう状況なのか。
理解が追いつかなかった。
そして私も今からこうなるのか。
想像するだけで鳥肌が立った。
もちろん良い意味の鳥肌ではない。
恐怖が私を襲った。
_赤崎は吸血鬼。
その事実を目の当たりにした。
この目で見てしまった。
信じられなかった。
けど信じるしか無かった。
ある意味女たらしなのだと思った。
誰でも所構わず血を吸うのだろう。
私はそんなに馬鹿じゃない。
私はそんなに簡単に血なんか吸われない。
馬鹿じゃない私は早々にこの場を立ち去ろうとした。
その時、聞こえてしまった。
丁度、吸血が終わったのであろう、クラスメイトの声が。
「…ん”…あれ…私、どうして…」
まさか記憶が__ない?
赤崎は何事もなかったかのように答える。
「気分が悪かったから保健室に行こうとしてたんだよ?」
そんなの嘘だ。そんな嘘どうするつもりだ。
「あぁ…そうだっけ…」
「じゃあ失礼します…」
よたよたとフラつきながら歩く彼女は私のいるドアから出ようとする。
早々に逃げなければ。
理解が追いつかないまま張り付いて動かない体にムチを打って立ち上がろうとした。
__ただ
人間は一つのコトに意識を向けると他のコトは見えなくなってしまうようだ。
私は油断していた。
「ガダンッ」
鈍い音が鳴った。
私の指がクラスメイトの開けたドアに挟まったようだ。
次の瞬間、私の指先の皮が剥がれ血が零れ落ちる。
「ッ…痛…」
声を出して、音を出して、出血して。
人の存在に気が付かない者はいないだろう。
もう戻れない。
私はドアの前で座り込み唖然としていた。
自分の気の利かなさに、絶望して。
そのまま、あのクラスメイトは出ていった。
私のことには触れずに。
寝ぼけているようだった。
ということは_
「…君!来てくれたの…!」
最悪。
逃げたい。今すぐ。
指先に激痛が走る。手に力が入らない。
立てない。体が動かない。
「…ッ」
痛い。
「…!」
「大丈夫…?」
大丈夫なわけない。そもそもお前のせいだ。
募る怒りで立ち上がり憎しみを込めて赤崎の目を見た。
彼は私と目を合わせなかった。
彼の目線の先は__指先。
彼の__
赤崎の目が変わったのを私は見た。
目の色が変わるとはまさにこのことだろう。
真っ赤な瞳にハイライトが入った。
人よりも縦長な瞳孔が濃く大きくなった。
なるほど、血に反応しているのだ。
まだ半信半疑だがこいつは吸血鬼だ。
となると…
「…パシッ」
彼は私の腕を掴む。力は強くて、痛い。
「っぁ…」
突然のことで情けない声を出してしまう。
嫌だ。嫌だ。やめてよ。離して。
自我を失っている彼にはこの思いは届かないだろう。
意味ない。分かっていても私は声を出すしか無かった。
「…やめてッッ!!」
自分が思っていたよりも大きな声が出た。
自分でも驚いた。
彼は驚愕の表情を見せる。当たり前だ。
彼の手の力が抜けた。私は解放された。
「…ポタッ」
滴る血の音だけが響く。
暫くの間沈黙が続いた。
彼の目を見る。今度はちゃんと私の目を捉えていた。ハイライトは消え、瞳孔は元通り。
とりあえず自我を取り戻したのだと思い、床を見て、ため息混じりに安堵する。
油断していたその時だった。
私は告げられた。
「あんた、__の血の持ち主だな…?」
彼はボソッと呟いた。
大事であろうところが聞こえない。
私は聞き返す。
「ごめん、聞こえ無かった。
もう一回言って?」
「…だから、あんたはっ…」
「運命の血の持ち主だって言ってんのっ…!」
彼は笑った。確かに笑った。
牙を見せて。少なからず苦しそうだった。
運命の血の持ち主__。
彼は確かにそう言った。
何故__?
何故__私なのか。
何故__私が運命の血の持ち主なのか。
何故__他の人ではないのか。
何故__君は笑ったのか。
何故__無理矢理にでも笑顔を作ったのか。
何故__取り繕おうとしたのか。
聞きたいことは沢山ある。
この場で質問しても良かった。
出来なかった。
「…運命」
思わず、口に出してしまう。
その言葉に反応して。うまく口が動かせない。
こいつと運命__?
意味がわからない。落ち着け。違う。
そんなわけない。そんなことあるわけない。
私は普通の親から生まれ普通に育てられ普通の学校に入った。ただそれだけの人。
変哲もない日々。
そして
運命。
2つの言葉が交差して。
混ざり合って。
分離して。
ごちゃごちゃになって。
何も考えられなくて。
事実を受け止めきれなくて。
気分が悪い。不快だ。赤崎、お前は。
私の_
何の変哲のない日々をかき混ぜるな。
感情的。本能的。直感的。
ただこいつと離れたかった。それだけ。
私は一言吐き捨てて教室を出た。
「二度と私と_関わるな」
最後に見た彼の顔は
哀しそうで
苦しそうで
辛くて
痛そうだった__。
すぐ謝れば良かった__
そんな後悔は押し殺して家に帰った。
_次の日から赤崎は学校に来なくなった。
コメント
4件
私も赤城に血吸われたy((( ん“ん続きが気になりすぎて今日寝れないかもしんない…終わった😱 明日文化祭あるのにぃぃぃ…! なんで土曜日なんだよ!文化祭め! 朝最低6時には起きなきゃなのに… 関係ない話になってすみません💦 ちーや様は悪くないですからね!?
え、なんというか...、なんか...、ね、 うん...、早く続きが見たいって頭が言ってる...😇💕✨