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「みどり、俺と合理的に付き合おうか」
“合理的に付き合う”
初めて聞いた語句に驚いて「ハァ?」と聞き返してしまった。
「利害は一致すると思けど……どうよ」
いや……「どうよ」じゃないよ。
どうするもこうするも……
お前を本気で好きな俺に、果たして“YES”以外の選択肢があるのだろうか?
いや、“YES”以外の選択肢なんてあるはずがないのだ。
・・・
ことの発端は毎日のように起こる、ファンからの追っかけ騒動から。
「今日も……シツコイッッ!!」
俺の通う学校には、俺を含めた五人のアイドル……言わば“学園の王子様”がいる。
全員が生徒会であることから“運営”と称されるその五人には、それぞれ学年とわずのファンクラブが存在すると言われている。
「はぁっ…はぁっ……!」
俺は体力が無いので、朝の追っかけから逃げるのには命懸け。
普段通らないような裏道を通る事はもちろんのこと、一時期掃除ロッカーの中でホームルームまでの時間を潰したこともあった。
最近の穴場もっぱら体育倉庫の奥。
跳び箱の裏なんかはあまりバレなくて良い。
「フゥー……」
今日もなんとか人目を避けて体育倉庫の中まで逃げ込むことに成功した。
あとは時間ギリギリまでのんびりするだけ。
その…はずだったんだけど……
「いや〜!助かったぁー……」
跳び箱に座って俺を見下ろす男の名前はらだお。
生徒会長であり、人気ナンバーワンの人。
物腰柔らかな態度と人の良い笑顔が特徴。
俺としては、対応が面倒でただへらへらしてるようにしか見えないけどね。
「五分したら出てけ」
「えぇ?匿ってよー」
「ダルイ…」
外からは男女問わずファンによる捜査網が敷かれている。
この場所がバレるのも時間の問題だろうし、そろそろ別の穴場スポットを見つけないとなぁ……
「ハァ……」
「…みどり、俺イイコト思いついたわ」
「……信用ならない」
この男のいう“イイコト”は一般常識でいう“ヤバイコト”とニアリーイコールだから無警戒で賛同してしまうとこちらが痛手を喰らう。
しかも厄介というのか、ウザいというのか、言い出しっぺの張本人は無傷でケロリとしているからタチが悪いのだ。
とはいえこの男が拒否「されたから諦めます」なんて殊勝な心を持ち合わせていないのもまた事実。
「まぁまぁ、騙されたと思って聞いてみ?」
二番煎じどころじゃ済まされないほど聞かされたフレーズを耳に、今日の不運を呪った。
「みどり、俺と合理的に付き合おうか」
“合理的に付き合う”
生まれて初めて聞いた語句だった。
とてもじゃないが、情緒を持ち合わせた知的生命体の発する言葉ではないと思う。
「利害は一致すると思けど……どうよ」
いや……「どうよ」じゃないよ。
“どうかしてる”よ……この場合ってオススメするの内科であってる?
それとも脳の異常って事で脳外科?
はたまた精神に異常をきたしているってことで精神科?
「ゲイって事にすればファン減ってくれると思うんだよね、付き合ってるってなればさらに減るだろうし……朝から追っかけられることがなくなると思うんだわ」
わからないけど、目の前のヤツは俺の答えを今か今かと待ち構えている。
ここで返答しなくてはコイツは一生返事を求めて一日中ベッタリと張り付いてくるだろう。
「どう?付き合ってるってことにしない?」
「…………アー………ウン……イイヨ」
もうヤケクソだった。
時期的にそろそろ夏が近いからだろうか。
暑さで火照った体と、熱でぼんやりとしている頭ではマトモな考えなんてできなかったのかもしれない。
はたまた、一世一代の大チャンスを逃すまいと本能から“YES”と答えたのか……
俺じゃ答えが出せないことは確かだった。
「じゃあ、よろしくね!みどり!!」
「ウン……よろし、く…?」
こうして、俺とらだおくんの【実に合理的な擬似恋愛】がスタートした。
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コメント
2件
全てが良すぎる…😇😇