「ニーナちゃん。どうしたの?」
「……あれ?」
イツキに手をひかれて、私はふっと気を取りなおした。
「見つけたよ、ニーナちゃん。どこ行ってたの?」
「どこって……」
イツキに言われて考える。
そもそも、私はどこにいるのかしら?
そう思ってまわりを見ると、私は遊園地ゆーえんちにいるみたいだった。
ぐるりと園内をまわっている大きなジェットコースター。
風船をもって歩く私より小さなこどもたち。
どこからか流れてくる甘いにおいに思わず、おなか空いちゃった……と思った。
「ニーナちゃんが急にいなくなって、心配したんだよ」
「……ごめんなさい」
イツキに心配をかけちゃったのが悲しくて、思わずあやまる。
ふっと太陽の光がつよくなって、目を細めた。
「どうしていなくなっちゃったの?」
「いなくなった……。ううん、イツキ。あのね」
私はイツキの手をにぎって、問い返す。
どうして私は……ちがう。私たちは遊園地にいるんだろう。
だって、さっきまで私たちがいたのは……。
「イツキ。学校は?」
「学校? ニーナちゃん。今日は日曜日だよ」
「日曜日……」
イツキにそう言われると、なんだかそうだった気がしてくる。
……うん。まちがっていたのは私だ。
たしかに今日は日曜日。
だからイツキといっしょに遊びにきたはずで。
「ママは?」
「イレーナさんはお仕事じゃないの? 途中から来るって行ってなかったっけ。エドモンドさんが」
「……え?」
「うん? ほら、エ・ド・モ・ン・ド・さ・ん・が・言ってたでしょ? イレーナさんは遅れてくるって」
イツキが「何を言ってるの?」といいたげに首をかしげて、私も思わず首をかしげたくなった。どこかで聞いたことある名前なのに、どうしてか分からないけれど思い出せない。
ぐっと喉元まで引っかかっていて、今にも思い出せそうなのにまるで頭に蓋シールされているみたいにでてこないのだ。
どうしてだろう。
その名前は、わすれたらダメなはずなのに。
そう思っていたら、イツキが私の手を引いた。
「行こっか、ニーナちゃん。エドモンドさんが待ってるよ」
「う、うん。そうね」
名前を聞くとふしぎな気もちになる。
だれなのか分からないのに、なつかしくなる。きゅーっと胸がしめつけられて、泣きたくなる。
なんだか私の中から抜けていく感じ。
砂におとした宝ものを見つけようとするのに、すくってもすくってもひろえなくて泣いてしまいたくなるあの感じ。
ああ、どうして忘れてしまっていたんだろう。
いつのまにかそこに立っていた背の高い男の人がわしゃわしゃとイツキの頭をなでる。
「イツキ。ありがとうな、ニーナを見つけてくれて」
「ううん。すぐだったから」
声が聞こえた瞬間、足が止まった。
すごく高い身長。イツキのパパみたいな大きな身体。
それに私とそっくりのあおい目。ううん。違う。私にそっくりなんじゃない。
私がそっくりなの。
だって、そこにいるのは。
「パパ!」
思わずわたしは走った。
どうして忘れてしまっていたの。なんで忘れちゃってたの。
でも、顔を見たらすぐに分かった。
すぐに思い出せた。
そ・こ・に・い・た・の・は・パ・パ・な・ん・だ・か・ら・……!
――――――――――――――
「……あれ?」
俺が目を覚ますと、自分の部屋にいた。
部屋の中にはニーナちゃんとアヤちゃんがいて、目の前にはトランプがある。
……トランプ?
俺が眼の前の光景に疑問を抱いているとニーナちゃんにつつかれた。
「次イツキの番でしょ。早くカードだして」
「え、う、うん」
言われて手元を見ると、俺の手元にも同じようにトランプがある。
被りもあるし、場に捨てられているカードからしてやってるのは大富豪だろうか。
よく分かんないが場には「6」が出ていたので「9」を出す。
するとアヤちゃんがすぐに「J」を出して、ニーナちゃんが「イレブンバックね……」と呟いた。
本当に大富豪っぽい。
なんで三人そろって俺の部屋で大富豪なんてやってんだ……?
その光景があまりにも非現実的すぎて、思わずニーナちゃんに尋ねた。
「ねぇ、さっきまで僕たちって学校にいなかったっけ?」
「さっきまで……? 確かに1時間前までいたわね。」
そう言いながらカードを切る。
時計を見る。時間は16時45分。確かに今は放課後だから、1時間前までは学校にいてもおかしくない。
おかしくないのだが……。
「どうして、トランプ?」
「何よ。イツキがやりたいって言ったんでしょ」
「……あれ? そうだっけ」
え、俺が言ったの?
トランプやるって??
……そんなこと言ったのかな。
いや、もしかしたらアレか。ニーナちゃんとアヤちゃんが喧嘩してたから、仲良くなれるように一緒に遊ぼうと提案したのかも。
……いや、そんな記憶は無いんだよな。
だから俺はなんとも言えない気持ちのまま、二人を見て尋ねた。
「アヤちゃんもニーナちゃんもいるんだから魔法の練習はしないの?」
しかし、俺の問いかけにアヤちゃんもニーナちゃんも物凄くきょとんとした顔を浮かべていた。まるで俺が意味の分からないことを言ったみたいに。
なんか変なこと言ったかな……と思ってると、ニーナちゃんが首を傾げて聞いてきた。
「魔法……? 魔法って、何の魔法?」
「え……。ほら、影を使った魔法とか一緒に練習したでしょ?」
「か、影? 魔法? 漫画の話?」
……んん?
「あのね、イツキ。魔法ってのは想像フィクションのものなの。現実には無いのよ」
そして、挙句の果てにはニーナちゃんに諭されてしまった。
いやいや、そんなことないって……と思ったのもつかの間、確かに言われてみれば魔法なんて無かったような気がしてくる。
俺がふと冷静になりつつある中で、アヤちゃんがふと口を開いた。
「わ、私はあると思うよ。魔法」
「アヤ。どうして嘘をつくの」
「嘘じゃないもん! だって、ほら……サンタさんもいるかもだし……」
「サンタクロースと魔法は全然違うでしょ……」
アヤちゃんがかばってくれたことで、何とか心の傷が浅くてすんだ。
いや、そうだよな。
魔法なんてあるわけないよな……。
我に返るとなんだかとんでもない発言をしたんじゃないかと思って、急に顔が熱くなってきた。冷静になってみると魔法の練習ってなんだよ。意味が分からなすぎる。
なんで急にそんなこと言っちゃったんだろ……。
でも、さっきまではあると思ってたんだよな……魔法……。
まるで眠りから覚めてすぐ話しかけられ、見ていた夢と混同した話をしてしまったかのような感覚。喋ってる時はそれが現実だと思ってるのに、冷静になると急に恥ずかしくなってくるあれだ。
俺が失言を誤魔化すべく、次の手札を出そうとした瞬間ニーナちゃんが振り向いた。
その先にいるのは、小・さ・な・熊・の・ぬ・い・ぐ・る・み・。
「あなたもそう思うでしょ。劇団員アクター」
『うん! うん! 全く持ってその通り! 魔法なんて無いけどさ。サンタクロースはいるんだよ!』
そのぬいぐるみは身体を揺らしてけたけた笑った。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!