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2階のユウの部屋の前に、ムツキとクーが突っ立っている。まずは中の様子を扉越しにそっと聞き耳を立てる。失礼なのは承知の上で、まずは寝起きで機嫌が悪くないかを確認していた。何の気なしに扉を開けて確認すると手痛い状況に陥る可能性があるためだ。
「ユウ? 起きているか?」
しばらくして、起きている気配がないことを確認し、ムツキがゆっくりと小さな声で扉越しに話しかける。この時にむくりと起き上がることがあり、この場合は起源の良い悪いは7割がた悪い方向である。何故か自分から起き上がる方がユウは機嫌が悪いのだった。
「返事がないな」
クーもまたこの時ばかりは慎重になる。自分で制御できないことに対して、非常に敏感であり、そのバランス感覚は申し分がない。
「クー、入って見てきてくれるか?」
「分かった」
クーが一緒に来た理由は3つある。1つ目はユウの機嫌が悪い時にムツキとクーで何とか対処することが多いから、2つ目はクーが起こすと機嫌が良い場合の方が多いから。そして、3つ目はムツキとユウの約束事で彼が彼女の部屋に入ることは許されていないからである。
部屋に入ることを許されていないのは、彼女のムツキグッズがたくさんあり、それを見られることを良しとしないためだった。つまり、単純に恥ずかしいからである。ちなみに、彼女の部屋にムツキグッズがひしめき合っているのを知るのは、ケット、クー、アルだけだ。
「ふぁー……おあよー……」
クーが入ってからしばらくして、ユウが起きたような欠伸混じりの声がする。クーが起こしに行った場合、機嫌が悪い確率は3割まで減る。最善を尽くして、3割なのである。
「えっ……ムツキ♪ おはよう! オールバックもかっこいいじゃん!」
クーにムツキのことを告げられたユウは【テレポーテーション】でムツキの目の前に突如現れて抱き着いた。
「おわっ。おはよう。ユウ、今日はご機嫌だな」
ムツキはユウをしっかりと抱き留めた後に、頭を撫で始める。すると、嬉しそうにデレデレとしたユウの顔が見られた。機嫌はとても良いようである。
「えへへ、いつも私はご機嫌だよ?」
「そうか」
ムツキは機嫌を損ねるわけにもいかず、嘘とも冗談とも本心とも取れるユウの発言にただただ相槌を打つだけだった。
「ちゅー」
「唇はダメだぞ?」
ユウがムツキにキスをしようとするが、唇どうしの接触は断られた。彼は彼女が幼い姿でいる時はそういった行為を禁じている。そのため、挨拶代わりのほっぺたにちゅーだけを許していた。
「ちぇ……いいもん。このかわいいほっぺたにちゅーするもん。んちゅー」
ユウは少し不満げにムツキのほっぺたへと唇を何度も当てた。発言そのものは、まるで子どもに嫌がられる親戚のおば―-
「んん?」
「え、急にどうした?」
「なんでもない♪」
虚空に向かってすごむユウにムツキはびっくりしたが、彼女がまた嬉しそうな顔に戻ったので気にしないことにした。
「ところで、今日はパーティーなんでしょ?」
「まあ、パーティーと言っても簡単な立食形式のガーデンパーティーだけどな」
そう返すムツキにユウは関係ないと言わんばかりに首を大きく縦に振った。
「もちろん! いつもフォーマルだと疲れちゃうから、インフォーマルなパーティーも好きだよ? でも、ナジュみんやリゥぱんは服装ちゃんとできてるかな?」
ユウはとかく、服装を気にする。オシャレというよりは、行事に対する服装への意識が神様らしい。
「あぁ、もちろん。2人とも素敵な服だよ」
「良かった。私も素敵に着飾らなくちゃ!」
ユウは嬉しそうに今日の服装を考え始める。そもそも、今の姿なのか、成人姿なのかで服装も変わるので、そこから考え始めているようだ。
「ユウは着飾らなくても素敵だよ」
「たまに歯の浮くようなことを言っていて気になっちゃうんだけど……」
ユウがじとっとした目でムツキを見ると、彼は少し小さな溜め息を吐いた。
「……嫌ならユウにだけやめるよ」
「嘘! 冗談! 嬉しいから! もっともーっと、女の子扱いしてね♪」
「はいはい。それじゃ、支度をして来てくれるかな?」
「はーい。先に行って、待っててね♪」
ユウは再び部屋に戻り、ムツキとクーは皆の元へと戻っていった。