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痺れるような甘い恋を 君としてみたいから
このハートのチョコに 熱い想いを込めて――
「不三家のハートチョコ、バレンタインに彼にあげてみてね♪」
絶賛放映中の俺のCM。バレンタインに向けて一月下旬から、ばんばん流れているけれど。
「肝心の克巳さんからは、なぁんも反応ないとか、すっげぇ寂しいんですけど……」
基本マメな人で俺が出てる番組を、くまなくチェックしてくれている。それがわかっているから、どうだったと感想を訊ねてみるんだ。
「そうだね。この間のバラエティは、稜が一段と目立っていたよ」
それ、いつも通りのことなんですけど。もっとこう具体的に、克巳さんならではの感想が聞きたいというのに。
「どうしたんだい、そんな顔して。稜が一番ステキだと言ってるのに」
「……毎度毎度、同じ言葉は聞き飽きた」
「そうか。それは困ったな。他に思いつく言葉……。テレビの中の君に、視線は釘付けだったよ」
『それ、前にも言ってた』。なぁんてワガママは言えないか。とにかく褒めてくれてるんだから。
――そう、彼の視線を俺だけに集めたい――
その一身で仕事をしているけれど、クリスマスやバレンタインなど恋人にとって大切なイベントは、必ずといっていいほど仕事が入って、お流れになってしまう。
現在は関西方面の地方ロケで、離れ離れな状態。
ばんばんCMが流れてるお蔭で、克巳さんはテレビの中の俺に逢えるけど、俺は逢えずに、指をくわえてるだけとか、超絶悲しすぎる!
気がつけば二月十四日、深夜の午前一時過ぎ。寝てるかもしれないけど、サプライズ好きな俺としては、なんとしてでも外せない! 迷わず克巳さんのスマホに、コールしちゃうもんね♪
「もしもし」
かけた途端に直ぐ繋がるラインに、ちょっとビビった。起きていたんだ――。
「あっ、もしも~し! 克巳さんハッピーバレンタイン♪」
「まったく……。こんな深夜に電話をかけてくる高いテンションは、さては呑んでいるのか?」
「呑んでないない。浮気もしてないから」
こんな説明しなくてもいいことくらい、わかってるけどね。とりあえず、疑いは自ら晴らしておく。
「浮気してないのはわかってる。あのさ稜……」
「なぁに、克巳さん?」
「俺と電話してないで、早く寝なさい。次の仕事に響くだろ」
(ゲッ、それって酷くない? 俺としては、恋人の声が聞きたかったのに)
「んもぅ、つれないなぁ。離れ離れのバレンタインが、寂しかったんだよ。もっとこう――」
「いつもよりテンションが高い。それに、声もどこか疲れているよ。スケジュール、詰め込みすぎてるんじゃないのか?」
「克巳さん……」
こうやって体を労わってくれるの、何気に嬉しいんだ。顔が見えなくても伝わってしまうことに、胸の奥がじんと熱くなる。
「わかった、もう寝るからさ。克巳さんはバレンタインのチョコ、どこのが食べたいかなって、聞いてみたかったんだ」
「ああ、それなら稜がCMで宣伝してるヤツ」
「あんなチープなチョコでいいの?」
「勿論。CMで流れてるあの言葉を俺に向かって、直接言ってほしい」
耳元で囁かれる克巳さんのセリフに、口元が緩んでしまった。
『痺れるような甘い恋を君としてみたいから、このハートのチョコに、熱い想いを込めて――』
「わかったよ、何回でも言ってあげる♪ チョコに愛という名の毒をこめてね」
電話の向こうで無邪気に笑う声を聞きながら、おやすみなさいを言って、静かに通話を終えた。
「これで今日の仕事も、張り切って頑張れちゃうんだよなぁ。恋人の存在って、やっぱりすげぇ!!」
ばふんとベッドに横になり、ゆっくりと目を閉じる。早く克巳さんの傍に行って、あの言葉を告げてあげたいなと思いながら。