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「ルカスさん……私のせいでご迷惑を~……グスン」
レグリースに先に向かったウルシュラがずっと泣き止まないでいる。留守をしていたミディヌとファルハン、ネコたちは何とも言えない表情のまま言葉を発さない。
「……ミディヌ。ここで何が?」
「変な冒険者パーティーが来て、少しだけ荒らしていった」
「少しだけ……って――」
近くに目をやると、入口近くに置かれていた椅子や机がひっくり返っている。だがカウンターを含め、奥の方は特に何もされていないようだ。
「ウルシュラが泣いてるのは……?」
「さぁね。あたしよりも、そこの暇そうな男に聞けばいいんじゃねえの?」
ミディヌはウルシュラのことを気にしているというより、自分が何もしなかったことを悔やんでいる感じか。
ミディヌが言う暇そうな彼を見てみると、
「ファルハン! あなたがいながら何をしていたというの?」
「うるせーよ。何もしなかったんじゃねえ。ここを荒らされたくなかっただけだ!」
「何もしてないのと同じだわ」
イーシャがファルハンに説教を始めていた。
彼に話を聞こうとするも、
「マスター、すまねえ。なるべくここで暴れさせたくねえと思って、おれは何もしなかった」
何ともばつの悪い表情をしている。
「怪我も何も無くて良かったよ。それより、その冒険者パーティーに何か変わったことは?」
「よく分からねえけど、聖女がウルシュラさんを探してる……とか」
「聖女が?」
妙だ。いくら俺と行動をともにしているとはいえ、ウルシュラは聖女と面識が無い。話づてにウルシュラのスキルを聞いたからと言ってエルセがそんなことを言うとは思えないんだが。
むしろ聖女という後ろ盾を利用してウルシュラをおびき寄せようとしている、そんな感じにしか思えない。
「ミューちゃん。キミたちは大丈夫だった?」
「大丈夫ニャ。ミューたち、ここで遊んでいただけなのニャ。でもあの人間たちからは嫌な感じしかしなかったニャ」
「そっか」
ネコたちの精神状態はそれほど悪くない。そうなるとまずは、ウルシュラを落ち着かせてやらないと。
「ウルシュラ。君のせいっていうのはどういう意味? ここを襲ったのはもしかして?」
ウルシュラを追い出しておいて前のパーティーがなぜまた彼女を探しに来たのか。しかもここを突き止めるなんて。それほど優れた者がいるようには思えないのに。
「……はい、おそらくあの人たちが私を探しに来たんだと思いますです。追い出されて自主的にパーティーを抜けたけど、魔道具を求めに来たとか、お金を稼ぎたいとかそんなことなのかなと……」
「いや、どうだろうな」
聖女はともかく、帝国の人間が絡んでいるのは間違いない。キーリジアでの話に出てきたのが何よりで、その冒険者パーティーが帝国と接触していた。その話で”聖女”が絡んでいるだけのことに過ぎない。
「ルカスさん~……ここがバレちゃってどうしましょう~……」
「うん……」
ロッホにクランを置いている。それだけでもリスクがあるのは承知していた。元々ここはウルシュラが冒険者ギルドを作ろうとしていた場所だ。俺が彼女を巻き込んだだけのことで、ウルシュラが悪いわけじゃない。
賢者とのことが終わってここを拠点にして、各地の冒険者パーティーから成るクランにしていく――そうやって着々と集めつつあっただけに、まさかここにきての襲撃だなんてあんまりだ。
「ルカス。移転は駄目?」
「え? レグリースを?」
「うん。ロッホは帝国に近すぎるから、ここにクランがある限りきっと大変」
ナビナが言うように、仮に帝国と離れていれば気にすることは無いと思っていた。
しかしここは近すぎる。帝国が静かでも聖女が勝手に動いているとなれば、面倒事は避けられない。
「ウルシュラはどうしたい?」
「えぇ? 移転……えーと、私よりもルカスさんさえ良ければ~……」
マスターは俺だけどここを大事にしてきたのはウルシュラだ。
どうしたものだろうか。