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「何だい何だい、さっきから何をもたもたしてんだい? しかもウルシュラが泣いてるじゃないか! まさかルカス……お前がウルシュラを泣かせたのかい?」
「ええ? い、いや、俺じゃないですよ」
「じゃあ何でお前を見ながら泣いてんだい!!」
「アルシノエ姉さま、違うんですよ~! ルカスさんには色々と親身になって頂いてまして~」
俺たちの様子を黙って眺めていたかと思いきや、アルシノエが今頃になって中に入って来た。遠目から見れば泣かせているように見えたかもだけど、またややこしくなるしどうしたものか。
ウルシュラも慌ててアルシノエをなだめているとはいえ、このままだとまとまりがつかなくなりそう。
「ルカス。少し屈んで耳を近付けて」
そう思っていたら、ナビナが俺に耳打ちしてきた。
何かいい案でも浮かんだかな?
「――? えっ? 冴眼を使って? そんなことまで出来るの?」
「ルカスの力なら出来るはず。何度もあの場所に行ってるなら、思い浮かべるのは簡単。人間を転移する要領でやるだけ。その気になるだけでいいから」
「その気に……って」
「そうすればウルシュラの姉も静かになる。ナビナ、教会の扉を閉めて来る。合図したらやって!」
やることは確定なのか。成功すれば誰もが度肝を抜かれるだろうけど。
「マスター? 何かをされるおつもりです?」
「ウルシュラさんと彼女のアネさんとで揉めてるみたいだが、大丈夫なのか?」
「あぁ、うん。ファルハンとイーシャは、そのままこの場に留まっててくれるかな?」
「え、ええ。それは構いませんけれど」
「あん? どこかに転移でもすんのか?」
この二人ならうるさく追求して来ないからいいとして、他の彼女たちには後で説明するか。
ナビナが扉を固く閉ざし、俺に合図を送ってきた。この中にはアルシノエの他について来た戦士たちの姿もある。ネコたちは隅の方でまとまって大人しくしているから、そのままにしておく。
こうなれば、イチかバチかでナビナに言われた通りにやるしかない。
深呼吸をした後、俺は何度も訪れたあの場所――セルド村を頭に浮かべ……そして、アーテルの雑貨屋の隣に行くようなイメージを脳裏に焼き付ける。
「おい、ルカス。ルカスの目って、そんなに光ってたか?」
「…………」
ミディヌの声が聞こえていたが、俺の意識はすでにあの場所にあった。その直後、俺は目を閉じる。
そしてすぐに目を大きく見開き、
「よし――」
ナビナから囁かれた時は非常識かつ、突拍子のないことだと思った。だが、俺の瞳に映し出された鮮明な景色がすぐに浮かび上がり、そして建物ごとどこかに移動したような感覚を覚えた。
力を使った反動なのか、俺は少しだけふらついてその場に座り込んだ。
「……うん、大丈夫。成功。ルカス、少しだけ寝てていい」
「……」
ナビナの言葉に甘えるようにしてもたれかかり、俺は眠ってしまった。
「――ふぅ~。ったく、このまま中にいても埒が明かないね。ウルシュラ、あんたも外に出て気分を落ち着かせな!」
「はい、姉さま」
「な、何だい!? どこだい、ここは!? 周り中オークだらけじゃないか!!」
「えっ?」
「ちいっ! お前たち、剣を抜きな!! オークどもを一掃するよっ!」