アリシアの体は、術式による焼けつくような痛みの中で、限界を迎えていた。しかし、彼女には後悔もなければ恐れもなかった。
ただ、宿儺の術式が焼き切られようとする瞬間、彼女は静かに微笑んだ。
「…これで終わりか。」
アリシアの声は弱々しくも、確かな決意を感じさせるものだった。宿儺の力に引き寄せられるように、彼女の体が崩れていく。
「私はもう、何もできない。」
アリシアは自嘲気味に吐息を漏らす。その目の奥に、彼女がこれまで抱えてきた過去がゆっくりと流れ出していった。
アリシアの記憶が、まるで絵画のように広がっていく。目の前に浮かび上がるのは、彼女がまだ幼かった頃の景色。
穏やかな日差しの下で笑いながら駆け回っていた自分。手をつないだ母親との思い出。
「母さん…。」
呟くように、アリシアは心の中で母親に語りかける。その声が、過去の記憶と現実の痛みに重なり合い、彼女を包み込む。
その瞬間、アリシアの目には見たこともない光景が広がった。
彼女が最も大切に思っていた人々、仲間たちの姿が次々と浮かび上がる。笑顔、誓いが、まるで時の中で交錯するように見えた。
「私は…まだ、できることがあったんじゃないか…?」
しかしその問いに対する答えは、すでに埋もれていた。アリシアの心は、やがてその痛みを受け入れるように静まり返った。
アリシアの体が、宿儺の術式によって焼き切られる。体が崩れ、灰と化して消えていく様子は、一瞬で終わったようだった。
「これで、終わりか。」
アリシアの最期の言葉は、決して大きくはなかったが、全てが詰まっていた。苦しみも、後悔も、一言に凝縮されていた。
「さよなら…。」
彼女は静かに、最後の力を振り絞り、完全に消え去った。
その場に残されたのは、彼女の消えた後の静寂のみ。しかし、アリシアの意志は、確かに誰かの中で生き続けるだろう。
そして、アリシアの死が、まだ終わりではなかった。その瞬間、遥か遠くから伝わる気配が、戦場にまで届いた。
「…山本。」
伏黒が気配に気づいたとき、空が一変した。スカイツリーから山本麹が跳躍してくる。空気が震え、彼が戦場を包み込んだ。
その姿はまるで伝説のように、遥か遠くから迫りくる。その目には、誰にも負けない覚悟と冷徹な意志が宿っていた。
「遅いじゃねぇか、山本…。」
伏黒は唇をかみしめながら呟いた。しかし、その表情には一筋の希望が見えた。
アリシアの死を乗り越えるために、今、この瞬間に新たな戦いが始まる。
山本麹の降臨と共に、戦局は再び動き出した。
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