コメント
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うぉぉ…!私がアホみたいにプレゼントを欲しがるイベントをこんな感動的にするなんて…!🥹💕
注意 (微)死ネタ、旧国(ソ連)、この話はロシア目線です。
戦争賛美、政治的意図等はございません。
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クリスマス。街は溢れんばかりの輝かしいイルミネーションで夜なのに明るかった。また、子供ならワクワクしてしまいそうな巨大なクリスマスツリー、プレゼントをもらって喜び駆け回る子供たち、とクリスマス1色に染まりこんでいた。クリスマスらしい鈴の音。優しく奏でられる何処かの楽団のクリスマスソング。そんな風にクリスマスは聴覚的にも伝わってくる。そんな光景は俺にクリスマスが来る度サンタを待ちわびていた幼少期を思い出させる。ただ俺にとってはクリスマスはただ楽しいイベントというだけでは無い。クリスマス以外にも大切な意味がある日だ。俺は優しい音色のクリスマスソングを聞き流しながら物思いにふける。
33年。あれから…1991年12月25日からちょうど33年だ。
「父さん…」
その年の俺のクリスマスは毎年のワクワクとは違い、不安に満ちていた。
俺の父…ソビエト連邦ことソ連の様子がおかしかったからだ。明らかに体調がとても悪い。
俺の呼びかけに父は暫く黙っていたがにっこりと微笑み俺の頭を大きな手で優しく撫でて包み込んだ。
とてつもなく寒い日だったけど、父の手は暖かかった。
『ごめんな。』
それだけ伝えて父は俺の頭から手を離し、俺に寂しげに背を向け、歩き始めた。怖かった。嫌な予感がしたんだ。何故だか引き留めなければもう父と会えない気がして。
「待ってよ!!!行かないで!!俺も一緒に行きたい…!弟たちも一緒に…!」
父に抱きついて必死に引き留めた。恥ずかしいとか、そういう気持ちはその時は一切無かった。ただ、足を止めて欲しかっただけ。
『… 』
父は何も言わずに振り返り俺の事をぎゅっと優しく抱きしめた。暖かい。親の温もりなんて感じたのはいつぶりだろう。無性に涙がぐっと込み上げてきて息が詰まる。
『きっと…いつか戻るよ…。ベラルーシ達の事任せてもいいか?』
その時の父はいつもの酒に酔った適当な喋り方では無かった。優しくて、家族思いの暖かい父の姿がそこにあった。ただ少しいつもより声がかすれているような気がした。幼ながらにも分かった。父はもう戻って来れないのだと。もう会うことは出来ないのだと。だから父は弟達を長男の俺に託そうとしているんだと。泣いてどうなるんだ。俺が父を失って折れてしまえば弟達はどうなるんだ。俺がしっかりしなきゃいけない。俺が弟達を守らないといけない。なら、父への答えは1つだ。
「うんっ…!!俺が皆のこと…守るから…!!安心して!」
悲しいし、辛い。二度と会えないなんて正直耐えられない程苦しい。声が震えあがった。ただ、今から何処か行ってしまう父を安心させたかった。父がどうなるかなんて分からなかったけど不安にさせたまま行って欲しくなくて、にやっといつものように明るく笑って見せた。
『…大人になったな…』
父はそう小さく呟き後は頼んだぞ、ともう一度俺の頭を撫でて、またどこかへと歩み出した。もう止める気は無かった。涙で父の後ろ姿が滲んで、気づいた時には父は居なかった。でも俺は見えなくなっても、長いことそこで父が進んだ方向を見つめていた。
クリスマスソングが終わりを迎え、一帯が一瞬しん、と静まり返った。そしてまた雑音が少しずつ響き出し始める。父にはあの後会えていない。そりゃそうだ。父、ソ連はあの日崩壊してしまったのだから。俺たちの見えない所に隠れて死んでしまったのだから。あの年のクリスマスは辛い日ではあったが俺が成長した日でもある。だからあの日は大切なんだ。
ぱらぱらと白い丸が降り始める。雪だ。粉雪は優しくクリスマスの雰囲気に同化する。雪は冷たいが、そんな光景はその冷たさをかき消すくらい暖かい光景に感じた。
「…父さんが見ててくれてんのかな」
暖かい粉雪から父を感じた。きっと父は見守ってくれているのだろう。クリスマスプレゼントなんてもう欲しいとは思わない歳になってしまったが、このプレゼントは心が温まって嬉しく感じる。
「弟達にケーキでも買って帰るか…!」
そういって俺は大切な弟達、家族のためにケーキ屋に向かう。
見てろよ、父さんの分俺が皆のこと守るから、愛情を注ぐから。
もうクリスマスの夜だけど、大切な父さんへ。
メリークリスマス。