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「アクアワールドへようこそ」
「学生二人分お願いします」
俺達は、水族館へ到着早々にチケットを購入しに来ていた。学生証を見せれば、割引されるようなので、俺達は学生証を提示した。
「はい、確認いたしました。ひょっとすると、お二人はカップルさんですか?」
「はい、そうですが」
なぜそんなことを聞くのかと疑問に思ったが、その理由はすぐにわかった。
「やっぱりですか。じゃあこちらのカップル限定チケットのほうがお安くなってますよ」
「じゃあそちらでお願いします」
なるほど、カップル限定なんてものもあるのか。最近は色んな割引があるんんだなと感心していたのだが、次の一言に驚きを隠せなかった。
「では、カップルの証明をお願いします」
すごいニコニコした受付の女性。カップルの証明?一体何をすれば、と思い隣をみると目を瞑ってこちらを見る香織がいた。この流れはまさか、俺はもう一度受付の女性をみると、『どうぞどうぞ』と両手を前に出した。
人前で恥ずかしいが、香織に恥をかかせる訳にもいかないため、俺は意を決してキスをした。恥ずかしかったので、一瞬触れただけだったが、香織は満足そうだった。
「ご馳走様でした、こちらチケットです」
「あ、ありがとうこざいます」
入場早々にどっと疲労感を感じたが、無事入場できて一安心した。俺達はパンフレットを確認しながら、順番に水族館の中を見て回った。
「見て見て、小さいよー。可愛い〜」
ここは小魚のコーナーだ。小さな筒状の水槽が床から天井に向かって伸びており、全部で6本もあった。それぞれの水槽の中に、海で生きる小さな魚がたくさん泳いでいた。
目をキラキラさせる香織の姿をみると、連れてきてよかったと心からそう思えた。
「これは、あの映画のやつだよな?」
「そうだよ、カクレクマノミ。面白い魚でね、群れで一番大きい子がメスになって、二番目に大き子がオスになるの」
「へぇ、そうなんだ。本当に香織は詳しいな」
「えへへ」
香織は本当に魚が好きで、大体の魚は聞けば色々教えてくれる。しっかりした真面目な情報から、少しふざけたネタまで教えてくれるため、聞いていて全然飽きなかった。
その後、お昼までの間、俺達は色々なコーナーを見て回った。
「すごい、ここはサメだよ!」
「ねぇ、ウミガメがいる!」
「ハルくんこっち来て!」
テンションの上がる香織について行くのは結構大変で、なんであんなに元気なのか理解できない。それだけ好きなことに没頭しているということなのだろうか。結局、香織はお昼までの間ノンストップで回り続けた。
「やっぱり、水族館は楽しいなぁ」
「だいぶ満喫してるな」
「うん、ありがとね」
「いいえ。さて、そろそろお昼にしようか」
俺達は、水族館内のレストランへと向かった。
ーーーーーーーーーー
「香織、何食べる?」
「うーん、そんなにしっかり食べなくてもいいかな?」
「そうだね、じゃあこっちにするか」
お昼時のレストランはかなり混雑しており、席はほとんど埋まっていた。この状況でしっかりとしたご飯を食べようとすると、座席が空くのを待たなくてはならない。でも、ポテトやナゲットなどのファーストフードならばどこでも食べられて便利である。
「ハルくん見て見て、シャークナゲットだって、可愛いぃ!」
「へぇ面白いね。見た目がサメなんだ」
「そうなんだよ!面白そうだから、アレにしようよ」
結局、俺はポテトとフランクフルトを購入し、香織はポテトとナゲットを購入した。食べる前にそれぞれ写真をとるとSNSに投稿した。
『マリンワールドに来てます。これからご飯です』
それと同時に、ウミガメを眺める香織の後ろ姿の写真もアップした。
『ウミガメを見る彼女。すごく可愛いです』
投稿し終わり、携帯をポケットにしまうと、俺は早速ポテトを食べ始めた。やっぱりポテトに当たり外れは少ないね。想像通りの味で安心した。
食べ始めた俺とは違い、何やら携帯を見ながら照れている香織。
「ふふふ、ハルくんはもう。可愛いなんて、事実だけど」
あぁ、これは時間がかかりそうだな。香織がモジモジしている間に、俺は食べ終わってしまった。トイレに行きたくなった俺は、香織に声をかける。
「香織」
「はにゃ?」
「しっかりしろ、ちょっとトイレ行ってくる」
「わかった、ってもう食べちゃったの!?」
「香織も早く食べな」
俺は、香織を残してトイレへと向かう。レストランのトイレは大行列だったので、レストランの外のトイレへと向かった。流石に大きな施設だけあって、近くにトイレがあって助かった。
トイレから戻ると、香織はまだナゲットを食べていた。サメ型のナゲットが気に入ったのか、すごいニコニコしながら食べている。そんな香織を見ているのは俺だけではなく、周りに座っていた人達も香織のことを見ていた。普通に見ているだけならなんとも思わないが、明らかに香織を狙っている奴も見てとれる。
気が気じゃない俺は、急いで香織の元へと戻ると、すぐさま周りの男共を睨みつけた。俺に睨まれて、ビビったのかみんな一斉に顔を逸らし、そそくさとレストランから出て行った。
「まだ食べてたのか?」
「だって、可愛いんだもん」
「まぁ否定はしないが。それより午後はどうする?」
「イルカショーみたい!」
「あぁ、イルカショーか。昔はやってなかったもんな」
俺達は、ここの水族館によく来ていたが、その頃にはイルカショーはやっておらず、見るのは今回が初めてになる。そのためか、柄にもなくワクワクしていた。
「でも、ショーまで時間ありそうだぞ?」
「えっと、次は14時半からかぁ」
今の時刻は13時を回ったところだ。まだまだ、1時間以上ある。それまで時間が潰せそうなところは、あそこしかないか。
「先にお土産見ちゃわないか?」
「あぁ、それもいいかも!」
「よし、じゃあ行くか」
俺は、香織の手を引きお土産コーナーへと向かった。
水族館のお土産コーナーは、グッズが多種多様で面白い。ぬいぐるみから筆記用具、食器や洋服、アクセサリーなどなど。見てるだけでも楽しい。
「みんなにもお土産買っておくか」
「私もみんなに買おうかな。ちょっと見てくるね」
一人になると、じっくりとお土産を吟味した。しかし、『みんな』と言ったものの、俺があげる人なんて両親と香織、綾乃、恵美さんくらいか。みんな女子ならぬいぐるみでいいかな?
俺は、それぞれのイメージでぬいぐるみを選んでいく。買い物かごが、ぬいぐるみでいっぱいになる頃、香織が戻ってきた。香織のカゴには、ぬいぐるみだけでなく、お菓子やタオル、マグカップなど色々入っていた。
「ハルくんはぬいぐるみばっかりだねぇ」
「まぁね。そういう香織は色々入ってるな」
「うん、すっごい可愛くて絞れなかった」
「そうだ、香織」
「なに?」
俺は、買い物の途中であるものを見つけていた。イルカのストラップなのだが、ピンクと青のイルカのストラップで、それぞれで使うことができるが、くっつけることもできる。くっつけた時にイルカがハートを作ってくれるのだ。
「結構可愛くない?」
「可愛い!」
「だろ。一緒に付けない?」
「うん、つける!」
相当嬉しかったのか、さっきまでは手を繋ぐ程度だったが、今では俺の腕にしがみついている香織。なんだか恋人って感じで嬉しかったが、結構周りから見られていて恥ずかしかった。
買い物を終える頃には、いい時間になっており、俺達はイルカショーが行われるエリアへと移動した。席は最前列のど真ん中。濡れてもいいように雨ガッパを着込んで、ショーが始まるのを待った。