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「なんだかまだ気分がしゃっきりしなくてな。
あれしきで、あんなにペースを崩すなんて、自分に自信がない証拠だな」
この間、祖母の家でもらってきた、かきもちをみんなで焼いているとき、冨樫がそう反省の弁を述べてきた。
「そうですねー。
でも、そのうち気持ちも切り替わって、いいことありますよ~」
と壱花が言うと、
「相変わらず、お前の物言いは根拠の薄い感じだな」
と慰めたのに、何故か、貶められる。
毒舌は絶好調じゃないですか、冨樫さん……と思いながら、壱花はカラフルなかきもちを菜箸で、ひっくり返していた。
「私、かきもち焼くのは初めてです。
いつもは揚げてるから」
高尾が、
「揚げたら、ふんわりサクサクで、食べ出したら止まらなくなる味と食感だよね。
でも、ふんわりはしないけど、焼いても、素朴な感じで美味しいよ。
七輪で焼くのもいいねえ」
と言って笑う。
「ほら、元気のない葉介に一番よく焼けたのをやろう」
と一緒に菜箸でひっくり返していた高尾が冨樫に淡いピンクのかきもちをひとつ放る。
あちち、と言いながらも冨樫はそれを受け止めていた。
それを見ながら倫太郎が言う。
「そういえば、化け狐。
お前結局、リアルに探してただけで、なんの託宣も出せてないじゃないか。
……ほんとうに狐なのか?」
いや、そこ、今更疑うか?
というようなことを倫太郎は言い出した。
「その辺の狸が化けたくらいなら、正体も見えるが。
こいつくらいになると、本体がどうなってるのかよくわからないからな」
「え、でも、あの狐の面をかぶったら、高尾さん、大きな狐に見えましたけど」
と壱花は言ったが、倫太郎は、
「いや、俺はあれがこいつの正体だとは思っていない。
なにかこう……、まやかしを見せられてるような気がするんだ」
そう高尾を凝視しながら言ってきた。
ははは、と笑った高尾は、
「僕の正体はみんなには見せられないよ。
きっと驚くからね」
と暗に倫太郎の言葉を肯定し、言ってくる。
……なんなんだ、高尾さんの正体、と壱花が思ったとき、高尾が言った。
「そんなことより、いまいち今回はいいとこ見せられなかったからさ。
僕のご利益を感じてもらうために、お賽銭はもらってないけど、葉介に素晴らしい託宣をあげよう」
高尾は丸椅子から立ち上がり、あさっての方向を指差し、言い出した。
「葉介、西南西をちょっと西に行くんだっ!
きっといいことがあるっ」
「……なんですか。
そのざっくり」
と冨樫が言い、倫太郎が、
「ピンバッジも見つけられなかった奴に言われても説得力がないな」
と言う。
「そうか。
じゃあ、説得力を持たせようか」
と言って、店の隅に行った高尾は例のガムをとってきた。
「倫太郎、これ買うよ」
「いや、今回の礼に、一ケース全部やろう」
なんだかんだ言ってはいるが、部下が迷惑をかけたと思っているようで、倫太郎はそう言った。