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テラーノベルの小説コンテスト 第3回テノコン 2024年7月1日〜9月30日まで
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※今回は日帝と日本のお話です。

地雷さんは自衛お願いします。

R-18表現は一切ございませんので

安心してご覧ください。







日本家は毎日賑やかである。

いや、この言い方には*語弊*がある。

他国から見れば驚くほど静かなのだが、

他者との間を大切にし、遠慮こそ美徳とする

日本家独特の価値観からすれば日本家は

毎日賑やかなのだ。


そして、これはそんなミステリアスな

日本家の中でも、更に謎めいた

お二人の…月の良く見える、ある晩の話。






僕の名前は日本。

日本国という国が、僕自身なのです。


「今日は良い夜ですね、日帝さん」

「嗚呼。晩酌するにぴったりだ」


縁側で僕の隣に座るのは、日帝さん…

もとい、大日本帝国さん。

ですが彼は国である私と違い、

“時代の象徴”とされています。

戦時中の大日本帝国時代を、

彼はそのまま体現しているのです。

その証拠に、かなり古いタイプの

軍服を着ていますしね。


「さて、今日は何を吞みますか?」

「無難に日本酒で良いだろう」

「わかりました。お注ぎします」

「日本は気が利くな」


トクトクとお猪口に注がれる、

無色透明の液体。

私たちは、この日本酒の色合いと

キリッと引き締まった味わいに

お酒を飲むたびにうっとりと

してしまうんです。


「…では、乾杯」

「乾杯」


僕も日帝さんにならってお猪口を

少し持ち上げ、乾杯の意を示します。

外国の方とお酒を飲む際は音を

鳴らして乾杯するのですが、私たちは

一応…家族?なので、音を鳴らして

乾杯は基本的にしません。

呑むだけなので、必要ありませんからね。


「ふむ、今日の日本酒はいつもと

味が少し違うな」

「あ、わかりました?実は今日、新潟さんから

良い日本酒を頂いたんですよ」

「新潟か…確かに、あいつは良い

日本酒を大量に作っているしな」


『久保田 萬壽(まんじゅ)』…

という新潟最高峰のとても良い日本酒。

キリッとした味わいの中に、ほんのりと

お米の甘さが感じられます。

今日みたいな、暑い夏にはキィンと

冷やして飲むのが最高ですね。


「…美味いか、日本」

「えぇ、すごく。日帝さんも

喜んでくれたようですね」

「嗚呼。今度新潟に会った時は

礼を言わねばな」


日帝さんは毎日こんな調子で、

僕よりも律義な性格をしている。

何かしてもらったら、相手が

とてつもなく遠かろうが敵だろうが

絶対にお礼を言う。

実際に、第二次世界大戦の時は

アメリカさんに一度助けていただいて

嫌々ながらお礼を言って頭を下げた

らしいですし。


「やっぱり、律義なのが日本の

良い所ですよね…」

「…これ、日本。あんまりそういうのは

言う物じゃないぞ」

「ふふ、すみません日帝さん。

無意識でした」


日帝さんにじっと見られ、私は

笑いながら謝った。

日帝さんも怒っているわけでは

なく、ただからかう程度の感覚で

そう言ったに過ぎないと私も

わかっていましたから。


「…おい、日本、日帝。

今から料理するのだが、ついでに

何かつまみでも作ろうか?」

「あ、室町さん…!

そうですね…僕は室町さん

おすすめの一品を

頂きましょうかね。日帝さんは

どうします?」

「…そうだな…じゃあ、俺も

日本と同じやつを。

あと、冷蔵庫にきゅうりの

酢の物を冷やしてあるから、

それも一緒に持ってきてもらえるだろうか」

「はいはい、了解。んじゃあちょっと

待っててくれ」


茶色の着物を着て割烹着を羽織った

室町さんがそんな会話をしてから

さっと台所に引っ込んでしまった。

室町さんの料理は絶品で、国や

日帝さんの様な”時代の象徴”も

そうですし、都道府県の皆さんも

室町さんの料理がすっごく好きなんですよね。

なんでしょう、素朴な味付けで日本人の

味覚に良く合っていると言いますか。

なんにせよ、皆大好きなのです。


「……」

「………月が綺麗ですね」

「嗚呼、そうだな…今にも

手が届きそうだ」


日帝さんがぽつりとそんなことを

言ったので、私は月に手を

伸ばしてみます。

やっぱり届くことはありませんでしたが。


「そういえば、たしか

『月が綺麗ですね』って言うのは

告白の言葉なんだったか」

「そうみたいですね。まぁ、日帝さんたちは

どうかわかりませんが…僕みたいな

国そのものの存在は恋愛はまず

許されてませんから。恋愛なんかしたら

国連さんに怒られちゃいます」


『世界平和のため、どこかの国に

一定以上の感情を持っては

ならない』。

この言葉は国連さんから直接

語られたわけではありませんが、国連創設

当時から暗黙のルールとしてずっと

定まってきた言葉です。

日帝さんは少し考えるような

仕草をした後、フッと笑いました。


「大変だな、国というのも」

「…どういう意味です?」


日帝さんは下ろしていた片足を

上げ、左足の膝の上に右足の

足首を乗せて…その姿勢のまま

日本酒の入ったお猪口を煽りました。


「…私は、一時期”時代の象徴”と

呼ばれるのが嫌いだった時期が

あったんだ」

「…え、そうなんですか?」


嗚呼、と日帝さんは頷きました。


「俺には『大日本帝国』…と、

名前の中に『国』が入っているのに、

どうして父上や爺様と同じ様な

“時代の象徴”として扱われるのかが

全く理解できなかった。

勿論、心の奥底では

『俺が居るのは日本が居てくれたからだ』

とは、しっかりわかっていたんだがな」


珍しく、日帝さんがよく話しています。

日本家の中ではトップ3に君臨するほど

無口な人なのに。

日本酒でかなり酔ってきているんでしょうか…?


「…だから、俺は一度だけ

第二次世界大戦中にオマエを

幽閉したのを覚えているか?」

「嗚呼、そんなこともありましたね…

あの時はびっくりしましたよ」

「それは本当に…すまなかった」


日帝さんが頭を下げたので、私は

慌てて頭を上げるように促しました。

日帝さんは顔を上げて頷いてから、

また話の続きを語り始めました。


「…あの時、俺は戦争に夢中で

無謀な願いを抱いていた。

『このまま日本が表舞台に

出てこなければ、俺が本当の

日本国として認められるのでは

ないか』…と」


「でも、それは大変に愚かな

願いだった。

ただ、父上の時代の鎖国という

名の孤独を引き継いだ私の心が

ナチス先輩やイタ王が傍に居た

ことで満たされ、そのまま調子に

乗って身の丈に合わない夢を

見ていたにすぎないのだと…

アメリカに原爆を落とされて

敗戦するまで気づかなかった」


「そのあと、オマエは

救出されたよな?」

「えぇ、連合国の方々に…

すごく良くして頂けました」


懐かしいですね、そんなことも。

もう79年も前の話です。


「でも、お前は俺が捕まって

いた間に『日本国』として

沢山の尋問や裁判を受けて

くれたらしいな」

「えぇ…確か、日帝さんの考えた

作戦書とかについてすっごい

問い詰められた思い出が…」


そう言うと、日帝さんは表情を

曇らせました。


「…俺がその話を聞いた時、なぜ

『国になりたい』という愚かな

願いをしたんだろうと…

…後悔した」


「俺には、国は務まらないと。

オマエにしか出来ない事なのだと

その時初めてわかった」

「そんなことありませんよ、きっと

日帝さんも国としての務めは

しっかり果たせると思いますよ?」

「…いや、俺には無理だ」


日帝さんは首を振って、

とっくりからまたお猪口に

日本酒を注ぎました。


「俺は、自分以外がしでかした

事件を戦後のオマエの様に

解決してやろうとは思わない。

俺は、他者の事をあまり思いやって

やることが出来ない。

誰かの一挙手一投足にまで

目を配り、その時々の最適な

行動を瞬時に導き出せるオマエだから

こそ、『国』という重責は務まるのだと…

俺は思うのだ」


こんな長文をすらすらと言うのは、

普段の日帝さんじゃ考えられません。

…相当酔って、今まで思っていた

ことを全部話す勢いでいるんでしょうか。


「…私も、たまに『国』ではなく

“時代の象徴”として生まれられたら

良かったのにな、と思うことが

ありますよ」

「……?

どういうことだ?」


私の発言に首を傾げる日帝さんに、

私は笑みを浮かべながらぽつぽつと

語り始めてみました。


「私も国という存在ですから、勿論

どの”時代の象徴”よりも一番長く

この日本という国の歴史を見ています。

何か起こるたびに、事件の後処理や

仲介は”時代の象徴”さんたちが

やってくれたりもするのですが、最終的に

全ての片づけを頼まれるのはいつも私でした」


「戦後、私は右も左もわからないような

状況のまま裁判に出ました。

その時、私は思ったんですよ」


「『なんで自分以外がやったことの

後処理をいつも私がやらなければ

いけないのだろうか』…と」


私の隣で日帝さんが驚いて目を

見開きました。


「だから、私は…言い方は少々

悪くなりますが、ほとんど何の

責任を負わなくても良かった

“時代の象徴”に多少なれども

憧れていたんです。

だって、”時代の象徴”さんたちが何を

やっても、結局責任が行きつくのは

国である私でしたから」


はは、と乾いた笑い声が

庭に広がりました。


「…でもですね、私も同じように…

私に”時代の象徴”は務まらないと

実感したときがあったんです」

「国である日本が出来ない事…?」


えぇ、と私は頷きました。

心の中で思っていた事を、

いっそお酒に任せて一度全て

吐露してみようと思ったのです。


「それは、『民衆に寄り添う心』の

有無です」

「民衆に、寄り添う心…?」

「はい。

例えば、日帝さんなら軍服を着て

いますよね?」

「嗚呼、これは…俺の制服のような

ものだからな」

「じゃあ、室町さんはどうでしょう?」

「…いつも、いうなれば質素な着物だな」

「なら、私は?」


そう尋ねると、日帝さんは少し

口ごもってしまいました。

でも、大丈夫です。

日帝さんが困るようにするのが、

私のこの質問の狙いでしたから。


「…ですよね?すぐに浮かばないのが

正解なんです」

「…どういうことだ?」

「簡単なことですよ」


私はふっと微笑みました。


「日帝さんは戦時中を生きていました。

だから、その文化に合わせた服装を

しています。

室町さんは、質素で和が重んじられた

文化の時代に生きていました。

だから、いつも質素な着物を

着ているんです」


つまりですね、と私は言葉を

続けました。


「私みたいな良くわからない国

自身より、より民衆に近い姿かたちを

している”時代の象徴”の人の方が、

国よりも支持を集めるんです。

私には、そういう風にその時代の

文化に合わせて動くということが

なかなか難しい様ですから」


私はお猪口の中の日本酒を、

一気に飲み干しました。


「だから、私は”時代の象徴”ではなく、

このまま『国』として生きることを

決めたんです。

私には私の、あなた方にはあなた方にしか

出来ない使命があるとわかりましたから」


空になったお猪口に、日帝さんが

注いでくれました。


「…そう、だったのか」

「えぇ。なんだかんだ言って、私が

こういう個人的な話をするのは

結構珍しいんじゃないですか?」

「珍しいどころじゃない。初めてだ」


日帝さんは、安心したように

微笑んだ。


「…俺たちは…

ずっと、自分と違う存在に

なりたがっていたんだな」

「そうですね…

でも、私は今こうして『国』として

生きていることに誇りを持っていますよ」

「…理由を聞いても良いか?」

「…そうですね、」


「こうしてあなた方と月の綺麗な

夜に一献(いっこん)傾けられる。

それだけで、私は幸せなんですよ」











「ほい、つまみ出来たぞ……

って、日帝…寝てるのか?」

「えぇ、話してる間に日本酒を

結構飲んじゃったみたいで…

すっかり寝ちゃいました」


私は、膝の上に乗せている

日帝さんの頭をそっと撫でました。

室町さんは、私の隣におもむろに

座り込んで夜空を見上げていました。


「………なぁ、日本」

「なんでしょう、室町さん」


「俺たち”時代の象徴”だって、

オマエと同じ日本の一部だ。

だから、何でもかんでも一人で

抱え込みすぎるな。

最終的な責任はお前に行くことは

決して変わらないけど、

それでも…相談相手位には

なれるだろうからな」


室町さんは、笑顔を浮かべていました。


私はそれに同じく笑顔を浮かべて

頷きました。


そして、室町さんが持ってきてくれた

きゅうりの酢の物に楊枝を刺して

頬張ると、広がる酢の風味としゃくしゃくと

したきゅうりの砕ける涼し気な音。


長いこと漬けていたので結構

酸っぱいとは感じましたが、それでも

どこか野菜の優しい甘さが口の中に

広がりました。



end











どこが短編だよ!!!

ばっちり長編じゃねぇか!!!!

と突っ込みたい視聴者の皆さま。


その通りなのでぜひぜひ

叫んでくださいませ!!!


いや、あのですね?

書いてたらつい楽しくなってしまって…


だって日帝さんと日本さんの絡みって

最高じゃないですか!!!(圧)

思わず書いちゃいましたよ~……


そして!

初登場の室町さん!

私の中では猫耳着物のイメージが

強いです(とある絵師様の影響)



気が付いたら5000文字超えてて

ビビりました。

長文お疲れさまでした……(


今回伝えたかったのは、

「人にはそれぞれできる・できないが

ある」

ということです。

人間みな平等とは言いますが、

やっぱり考え方が違う限りは

得意不得意は出てきます。

それを無理矢理にでも習得しようと

するのではなく、時には他人に頼って

解決することも大切なのです。

日帝と日本の様な関係を

なされることは、きっとこれから先

生きていくことで多いと思います。


その時、相手をねたまず…ただ、

それもその人の個性なのだと

感じて心穏やかに過ごすことが

大切なのだと思っていただければ

幸いです。



危なーい、6000文字行きそうでした…


では、このあたりで

〆させていただきます!

さようなら!

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