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◆◆◆◆◆
「だからさ。せっかく来るって言ってんだから、一緒に楽しめばいいじゃん。
――――んなこと言ったって、どうせ半年後には別々の高校に行くんだしさ。恨みっこなしだよ……。
うん。そうしよ?大丈夫。僕、一緒に回るからさ。
―――はいはい。じゃあそう言うことで」
家に帰るとソファに寝転がった彩矢斗が電話を切るところだった。
「たく!……あ、お帰り、兄ちゃん!」
言いながら起き上がる。
「お前、本当に受験生かよ。ゴロゴロしやがって。そんなんで宮丘入れんのか?」
言うと彩矢斗は口を尖らせながらソファの上で膝を抱いて座った。
「違うよ。10分前まではちゃんと勉強してたのー。でもダチがめんどくせえ電話してくるから」
思わず笑ってしまう。大人ぶった言葉を使いたがる当たり、まだまだガキだ。
「んで?どんなめんどくせえ電話だったんだ?」
諏訪は冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出してキャップを開けた。
「なんかうちの学校の生徒会長、すごいワンマン野郎で嫌われてんだけど。修学旅行来ないってずっと言ってたのに、急に行くとか言い出してさ」
言いながら首を回している。
「俺は、せっかく来るなら楽しめばいいと思ってんだけど、クラスの奴らはどうやってハブるか相談してるみたいで。そういうことしてたら、誰も楽しくねえだろって思うんだよな…」
真剣に悩んでいる様子の弟を見てふっと笑うと、諏訪はゴクゴクと喉を鳴らして冷えた水を飲み込んだ。
「どう思う?兄ちゃん」
たちまち空になったペットボトルをごみ箱に投げ捨てると、弟を振り返った。
「お前が正しいと思うよ」
「だろー?」
言いながらソファの背面から寄ると、俯いたサラサラの頭を撫でた。
「生徒会ってのはさ、やれば大変だし、やったほど評価もされないし、割に合わないんだよ」
「うん」
「中でも会長なんて。俺は他の生徒より、何倍も何倍も、頑張り屋な奴しかなれないと思うんだ」
「そうだよね!」
こちらを見上げた彩矢斗の顔が曇る。
「兄ちゃん……?」
「だから、その生徒会長も楽しめるように、彩矢斗が一肌脱いでやれよ。な?お前は人を動かす力があるんだから」
「――――」
「1年前、あいつに助けてもらったお前ならできるだろ?」
「――あいつって。赤い悪魔のこと?」
「……………」
「……兄ちゃん……。なんで、泣いてるの……?」
彩矢斗は、ソファの背もたれに突っ伏し肩を震わせ続ける兄を、いつまでも見つめていた。