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我ながら呆れてしまう。
今更気づいたのかと。
こんなにも好きだと、愛を持っていたのだと今になって思い知る。
失ってからその有り難みや、大切さを知るとはこの事かと、知らしめられてしまった。
知りたくなんてなかった。
俺、北見 柚(きたみ ゆず)は昨年再就職した広告系の会社に勤めているただの20代の男だ。ただのといっても、性的指向は男性でその点は珍しがられるところだろう。
ただ、それを除いてしまえば普通の人生。他人から見れば、俺の人生はつまらない物に見えるだろう。
同じように毎日暮らしている。寝て起きて出社して…。それの繰り返し。自分自身もつまらなく思う事もあるが、そんなのは関係のない物だ。生きていければそれでいい。
しかしある日、それが少しずつ変わっていくことになる。
退勤後、いつも通りに電車に乗り、最寄駅で降りる。帰り道には懐かしい雰囲気を感じる商店街があって、そこで夕飯を調達する。
昔ながらの肉屋さんには、美味しそうなコロッケがあって、今日はいつもよりも早く退勤できたから、それを帰りがけに食べようと購入した。公園のベンチで座って食べようかと、そう思って公園に向かった。
早く退勤できた時は、これを自分へのちょっとしたご褒美としている。
今日は公園に殆ど人はいなくて、適当に空いていたベンチに腰掛けた。
コロッケを食べながら辺りを見回すと、少し先の斜め前あたりのベンチに、俺より若い大学生くらいの青年が座って絵を描いていた。
あまりにも横顔が美しくて見惚れてしまった。
心臓が少しばかり跳ねた。こんな思いをしたのはいつぶりだろうか。
青年は、鼻がスンとしていて高く、いかにもモテていそうな雰囲気だ。我ながらこの言い方はいいものかは分からないが。
だがモテていそうとは言っても、その雰囲気は柔らかくて、何か愛しいものを見るように絵を描いているのだ。思わず目が惹きつけられてしまう。
思わず声をかけたくなったが、不審者だとも思われたくないなと、そう思いやめた。おじさんは厳しいだろうし、なんだかよく分からんが申し訳ない。あと、あの青年はきっと男は相手にしないだろう。
そんなことを考え、コロッケを早々に食べ終わりベンチを立った。
公園を出ようとすると、誰からか肩を叩かれた。
「あの、」
振り返ると、そこに居たのはあの青年だった。
「あの、俺、ここらの美大の3年なんですが、お時間あれば描かせてくれませんか」
確かに彼はそう言った。