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廊下から戻ってきた王妃達は、固い決意を胸に目の前の料理を睨みつけていた。
(このバカ王妃の猛攻に耐えなければ。我が国に未来は無いわ……)
たった今、再度廊下に連れ出される王女達には目もくれず、失礼な感情をフレアに向けている。
その様子を見ているネフテリアが、自分まで何か悪い事でもしたのかと心配になる程である。
「あの、大丈夫ですか? 先程から何度も連れ出されていますけど、一体何が起こっているのでしょう?」
「いえ、何でもございません」
決して額に野菜の欠片をくっつけたフレアの方を見ようとせずに、色々と耐える為に鋭くなった視線をネフテリアに向け、当たり障りのない返事をする。
色々な方面に興味が向く子供達とは違い、大人なので『見ない』という行動を取る事も難しくない。
そう、子供さえいなければ。
「あの~、フレア王妃、さま? おでこに何かくっついてますよ?」
『んふっ!』
ニオが純粋な善意でそれを指摘してしまい、なんとか目を逸らしていた現実が耳から入ってきてしまった。こうして王妃達は、王女達と入れ違いで外に連れ出された。
「お母様。食事中にお行儀が悪いですよ」
(そうだそうだ!)
(もっと言ってやってくださいネフテリア様!)
真面目を装って接客しているネフテリアを、来賓達は密かに全力で応援した。頭に花が生えているが、それさえ気にしなければ、今最も頼るべき存在なのだ。
「皆様方も、今何をしているのかは存じませんが、人の顔を見て笑わないようにするのは大事な事だと思いますので……」
『……っ! ……っ………ぐっ!!』
来賓達は肩を震わせながら、全力で「お前が言うな!」と言いたかった。本日最も人を笑わせているのは、頭の上でキレッキレなダンスを披露する花を頭に咲かせているネフテリアなのだ。ただその事を自覚出来ないだけで。
そんな無自覚笑わせ苗床王女を、真面目な顔で見つめる2人の少女がいた。
(コイツ、ぜったいにマジメになってはいけないノロイにでも、かかっているのか? せっかくオウジョらしいシゴトをしているというのに、だれよりもふざけているカンジになってるんだよなぁ……)
気持ちが落ち着いたのか、冷静にネフテリアを分析するピアーニャ。そしてもう1人は……
(今日はテリアとフレアサマが面白い事する日なのか? これがお仕事なら、僕も頑張らないとな)
冷静に勘違いするアリエッタだった。そんな暴走女神っ娘が、すぐに行動を開始した。
「フレアサマ!」
「ひっ」
「あらなぁに? アリエッタちゃん」
アリエッタが叫んだせいで、横でニオが小さく悲鳴を上げたが、それを気にするのはサンクエット王子だけだった。他はフレアが何をしでかすのか気が気でなく、緊張している。
ちなみにアリエッタの中では、「フレア」様ではなく「フレアサマ」までが名前となっている。この世界の敬称など、まだ分からないのだ。
(さてやるぞっ)
胸元に手を当て、気合を入れたアリエッタ。すると、アリエッタの頭に生えていた丸い耳と、お尻に生えていた大きな尻尾が、消滅した。
『えっ?』
いきなりの事に驚く王族一同。
そしてもう一度気合を入れるアリエッタ。すると、
「んっ」
ばさっ
アリエッタの顔の周囲から、大きな花びらが生えてきた。さらに首元からは大きな葉っぱ。
全員が絶句した。女の子が1人、突然花になったのだから。
「………………んふっ」
『ブーーーーッ!』
真正面からその姿を見たフレアがまず笑い、釣られて他の全員が噴き出してしまった。さらに冷静さも完全に壊れてしまったのか、テーブルに突っ伏して顔を料理に埋めてしまう王子や王女もいる。
廊下に連れ出されていく間にも、「なんだそれええええ!」「なんで花に変わったんですか!?」「おかしいだろ絶対!」「いや私じゃなくて、あの子を躾けてあげてくださいよおおおお!!」などと、必死に絶叫していた。
ピアーニャは「もういやだ」とメソメソしているし、ネフテリアは目が点になっていて、ニオはなぜか無表情で震えている。
そんな様々な感情を向けられている本人は、ドヤ顔でフレアを見つめていた。
「んふー」
「くっ、やるわねアリエッタちゃん。その可愛さの前では、常識なんて通じないという事ね」
「何言ってるんですかお母様」
アリエッタにノリを合わせて、悔しそうにするフレア。それがアリエッタの機嫌をよくしていた。
来賓達がゾロゾロと戻ってきたところで、さらにフレアが畳みかける。
「アリエッタちゃんとテリアとわたくし。誰が「花の乙女」にふさわしいでしょうか」
「ふはっ、ちょっ」
「あーあ……」
ユオーラ王女が1人、色々ツッコミたくなるフレアの発言に、うっかり笑いを零してしまった。1人しか引っかからなかったという結果に不満げなフレアは、次なる作戦を──
「ちょっとフレア様! このままでは食事が進みません!」
考える前に、サンクエット王妃が止めた。
いい加減辛いという事もあったが、食事が終わらない事にはフラウリージェで残りのオーダーも、服選びも出来ない。時間が限られている中で、いつまでも笑っては叩かれ続ける訳にはいかないのだ。
「そうですね。アリエッタちゃんは丁度食べ終わってるみたいですし、おかしな事をしないように抱きしめておきましょう」
(おかしな事をしてるのはアンタだよっ!)
何でこの王妃は、いちいちツッコミどころのある事ばかり言うのか。部屋の隅に佇んでいる宰相が、表情を変えないままイラッとしていた。
その事に気づいていたが、さらりと無視するフレアは、アリエッタを呼んだ。
「フレアサマー、なーに?」
「まずは元に戻りましょうねー。ええっと、このおはな、めっ」
花を指定し、手でバッテンを作り「めっ」と言えば、今のアリエッタにはしっかりと意味が通じる。
アリエッタは一旦元の姿に戻り、再度ノシュワールの耳と尻尾を出した。
「あ、それは必要なのね……」
可愛いからヨシと、これ以上は深く考えない事にしたフレアは、アリエッタを持ち上げ、膝の上に乗せた。
「本当に可愛らしいですね……」
「でしょう? 大人しいし、言葉が分からなかっただけで、とても賢いのですよ」
言いながら、アリエッタの頭を撫でる。
アリエッタの顔はふにゃりと崩れ、フレアに甘えるように身を任せた。
『かわっ……!』
その場の全員がその顔を見て赤面。ピアーニャですら顔を赤くして、目を逸らしきれていない。動物の耳と今着ている服も相まって、破壊力が増していたようだ。
中でもアリエッタの事が気になっていたミデア王子が、全身真っ赤にして鼻血を出しながら安らかに気絶していた。
影の中でも大惨事が起こっていた。下からアリエッタを覗いていたミューゼとパフィが、鼻と口から血を噴き出して、倒れてしまったのだ。オスルェンシスも一瞬だけ赤面していたが、それどころではなくなり、泣きながら処理をするのだった。
我慢できなくなったユオーラ王女の1人が、立ち上がって声を張り上げる。
「おかしいです! なんでそんなに可愛いんですか! ドロドロに甘やかしたくなるじゃないですか! ちょっと分けてください!」
「落ち着いて! おかしいのは貴女の言動だから!」
『ぶっ』
ユオーラ王妃がツッコミを入れたせいで、数名が噴き出していた。冷静さを欠いて、フレンドリーファイアが起こってしまった。
笑った者はユオーラ王妃に文句を言いながら連れ出されていった。ここでミデア王子の惨状に全員が気づく。
「し、死んでる?」
「むくぅっ! ちょっと変な所で笑わせないでっ」
「すみません、あまりにも安らかに見えたので……」
「だからそーゆー事言わないで……っ」
戻ってきた来賓達は、なんとか落ち着いて食事を再開。何が起こっているのか分かっていないまま、その様子を見ていたニオが口を開いた。
「あのぅ……何があったか分かりませんけど、大丈夫ですか?」
流石に変な事が起こり過ぎて慣れたのか、少しだけビクビクしながらも、心配そうに王族達に話しかけた。
真っ先に反応したのは、当然というか、サンクエット王子である。
「はいっ、ご心配かけて申し訳ございませんっ。あの、今日もお美しいですねっ」
「いや貴方、初対面でしょう。大人じゃないんだから、可愛いって言ってあげなさい」
ずっと気にしていたニオに対して緊張しながら話しかけるが、母親からツッコミを食らってしまった。
こちらはアリエッタとは違い言葉が完全に通じるので、サンクエット王妃も目を付けていた。気が弱そうでネフテリアに流されてはいるが、この年にしては礼儀正しく、こちらを心配してくれる優しさを持っている。ちゃんと教育してやれば、優しい王妃になるに違いない。
しかしネフテリアから待ったがかかる。
「えっと、ニオは借金があるので、今はまだそういう話は早いかと……」
確かにエルトフェリアを壊した時の借金はあるが、どちらかというとアリエッタを怖がっているという事実の方が気になって、今はニオを手放す気は全く無い。
そんな事はつゆ知らず、ニオに対して熱い想いを抱いた王子は、ここで引き下がる訳にはいかないと考え、正面から堂々とぶつかる事にした。
「ネフテリア様。いえ、魔王女ネフテリア様! ニオ殿と話がしたい!」
「魔王女って言わないで!?」
「ひえええええごめんなさいぃぃ!」
何故かニオが半泣きで謝り倒した。その様子を見た王子の顔が、だらしなく崩れている。
(泣き顔もかわいい……)
いきなり泣き出したニオに驚いて、アリエッタがフレアの膝から降りた。そのまま走ってニオの下にたどり着き、泣き止ませようと抱きしめる。
「きゃあああおたすけええええ!!」
アリエッタに抱き着かれ、恐怖のあまり絶叫するニオ。
「ご無事ですかっ!」
「いやあああ大惨事いいい!」
突如影の中から、血まみれのオスルェンシスが生えてきた。同時に影に頭部を包まれたミューゼとパフィが、オスルェンシスの背中から伸びた影にぶら下げられている。そんな恐ろしい光景に、女性陣が悲鳴を上げた。
ここでアリエッタが何かしたのか、ニオの姿が元に戻った……と思いきや、突然キノコの姿になった。
「魔王になんてもうなりませんからああああ! だから許して下さいぃ」
『えっ?』
ニオが何を言っているのか理解出来ず、なぜキノコになったのかも理解できず、王族達は全員硬直するのだった。
「まとめてイロイロおこりすぎだ……」
少し身を引いて全てを眺めていたピアーニャが、何から手を付けていいのか迷っていた。