気がつくと、漣の身体は背の高い久次に抱きしめられていた。
ぐいと顎が肩に当たって顔が上を向いてしまう。
久次の形のいい耳をこめかみに感じる。
「………変な奴。これでいいのか……?」
久次の呼吸を全身で感じる。
捲った腕のたくましさが、背中を包む。
薄い漣の腹に、引き締まった久次の腹が押し付けられる。
気持ちいい。
漣は瞳を潤ませた。
獣たちに抱きしめらるのは死ぬほど気持ち悪いのに、相手が久次だとこんなに気持ちいい。
助けて。先生。
そのたった四文字が、言えない。
好きだよ。先生。
そのたった四文字も、言わない。
だから代わりに……。
「ありがと……先生」
その四文字を発し、全てを飲み込んだ漣は、きつく目を瞑った。
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