「よし!やるぞ!」
呼んでくれたMIUさんの為にも。
そして、あおい。
お前がどうして俺の前に現れたのかはわからないが、俺は絶対に自分の夢を掴む。
これが、本当にラストチャンスかもしれないんだからな……。
そう心に決意し、俺は楽屋からステージへと向かった。
♢
「どう?てつやちゃんは?」
「悪く、ないと思います。……悔しいですが」
「フフ、正直ね。あの子は自分の事を低く見積もる癖があるけれど、ワタシはしっかりとした実力のあるアーティストだと思うわ」
「……あれくらいの人は、沢山います」
「あら、厳しいのね。でも、その通り。上手い人、実力のある人は山のようにいる世界よ。でも、上手ければメジャーに行けるのかと言われたら、決してそうじゃないわ。コネ。運。そういうものが大きく絡んで来る」
「だったら、どうしてMIUさんはあいつを評価してるんですか?あいつにコネや運があるとは、私には思えません」
「フフ、コネはなかなか良い線いってると思うわよ。なんてったって、ワタシと出会ってるんだもの。運は、わからないわね。ワタシにも」
ーーだったら
「いい?しらべちゃん。確かに実力以上にコネや運が必要だと言ったわ。だけどね、それ以外は全て必要じゃないのかと言われたら、違うわ。てつやちゃんには心がある。誰かが困っていたら自分の事の様に悩んであげられる。誰かの不幸を自分の事の様に悲しんであげられる心があるわ。コネや運で一時的に上手くいったとしても、心がない人、信用がない人は長続きしないとワタシは思う」
「……わたしは……何としてでもメジャーに上がります。その為には……非情さも、時には必要だと思います」
「フフ、そうね。なにもワタシの言う事が正解って訳じゃないもの。自分が信じる道を進めばいいと思うわ。あなたはまだ若いもの。……良いライブだったわよ」
♢
はぁ…!はぁ…!はぁ…!
よし!手答えはあった……!
自分のステージを終え、誰もいない楽屋に戻って来た俺は、息を切らしながら確かな手答えを感じていた。
正直、日比谷おとねの顔なんて全くカケラも見えなかったが、それでもお客さんの反応は感じ取れた。
ーーそして何より
「てつやーっ!!お疲れ様あ!もうな!めっちゃめっちゃカッコ良かったで!!」
うおっと!
楽屋に全力で飛び込んできたあおいを受け止めながら、倒れないよう必死で踏ん張った。
「ライブ後だぜ、俺。もうへとへとだよ」
「へへー。なんかな、うちめっちゃ嬉しい」
正直に言うと、しらべのライブにプレッシャーを感じている自分がいた。
負けられないとか。歳上なんだからもっと盛り上げないと、とか。
でも、幕が上がって一番前であおいの顔が見えた瞬間、心がフッと軽くなった。
冗談じゃなく、今までで一番良い歌が歌えたんじゃないかと思う。
大袈裟かも知れないが、今日この日の為に、あおいは俺の前に現れてくれたんじゃないかとさえ思ったんだ。
「なんであおいが嬉しいんだよ。変なやつだな」
「へへー」
そんな緩みきった二人の空気に、勢いよく水をぶちまけるような一言が入った。
「どうでもいいけど。次、あんたの番よ。わかってんの?」
楽屋に入って来たしらべが、俺達の方を見る事もせずそう言った。
そうだ。自分のステージで精一杯だったが、この後は、と言うかこのライブのトリがあおいだ。
トリと言うのは、ライブに複数のアーティストが出る場合、そのラストを飾ると言う意味だ。
終わり良ければ全て良しではないが、やはりラストは印象が強く、そのライブが良いものだったか、そうでなかったかに影響する重要な役割なのである。
諸説あるが、トリの概念は紅白歌合戦から始まったとも言われている。
「あんた。私達が作ったライブをぶち壊したりしたら、タダじゃおかないからね」
静かな口調でそう言うしらべに、急遽歌う事になったあおいに対して少し言い方がキツすぎるんじゃないかと、立ち上がり口を挟もうとしたその時だった。
「うん。大丈夫」
それはいつもの笑顔だった。
いつもと同じ声のトーンだった。
でも、有無を言わさない説得力があおいの言葉にはあった。
「わ、わかってるならいいのよ。
……悪かったわね」
俺は立ち上がりかけたまま、思わず目をパチパチさせた。
あのしらべが謝るなんて、なんだかツチノコより珍しいものを見た気がする。
そんな若干失礼な事を考えていると
「しらべちゃーん!」
「ちょ、ちょっと!だから!抱きつくなって!」
あおいがまたしてもしらべに飛びかかった。
「えー!なんでなんー!うちしらべちゃん好きー!てつやと同じぐらい好きー!」
「だー!もー!おすわり!」
しらべがそう言うと、あおいが咄嗟に反応してちょこんと座った。
おすわりって犬だけじゃなくて女神にもきくんだな。
俺が一つ新しい知識を増やしていると、楽屋の扉が開き、MIUさんが呼びに来た。
「あおいちゃん。準備はいい?」
「うんっ!」
「じゃあ、ワタシがステージまで案内するわね。こっちよ」
そう言って、MIUさんとあおいはステージの方へと向かう。
「あおいー!一番前で見てるからなー!」
後ろ姿にそう叫ぶと、あおいは笑顔で手を振りながらステージの方へと歩いて行った。
よし、客席へ行くか。
それとーー
俺はその前にどうしても言っておかなければならない事があり、しらべの方を見た。
「しらべちゃん」
「……なに?」
「さっきは”私”じゃなくて”私達”が作ったライブって言ってくれたよな。あれ、どういう意味だったんだ?」
俺は少しいじわるかなと思いつつも、しらべの気持ちを確認する。
「あ、あれは別にたまたまよ!咄嗟に出ただけで、深い意味なんてないわよ!」
「そうか。まあ、俺はいいんだけどさ。あおいとは仲良くしてやってくれ。あいつ、お前の事好きみたいだからさ」
「……考えとく」
不器用なだけで、思ったより悪い子じゃないのかもな。
俺は笑顔で楽屋を後にし、客席へと向かった。
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