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「関羽殿、張飛殿!」
武田四郎勝頼が槍をしごいて霜の巨人へ猛然と突きかかった。
だが勝頼の烈火の如き威力の刺突を霜の巨人はその巨大な爪を振るって弾き返した。
「こ奴!」
予想だにしていなかった霜の巨人の俊敏さ、その恐るべき膂力に勝頼は思わず唸る。
言うまでも無く人ならざる者との戦いはこれが初めての経験である。勝頼の磨き上げられた武技は鎧武者が相手なら無双出来るであろう。
現に北条家、徳川家、織田家の武者を馬上での一騎打ちや組討ちで幾人も屠って来たのである。
(このような化物をどのように戦えば……)
一瞬混乱した勝頼であったが、すぐに強靭な意志力を振るって己の迷いを断ち切った。
(いや、敵は知能は獣で体が大きいだけの人間に過ぎぬと思えばよい。何も恐れるな)
勝頼は気を取り直してさらに槍先に力を込めて刺突を放った。
その槍先は暗黒の力が宿り、勝頼が意図した以上の威力が宿り、恐ろしい速さで走って霜の巨人の頸部を貫いた。
「おう、やるではないか、勝頼殿!」
張飛が会心の笑みを浮かべて賞賛の言葉を発したが、関羽は鼻で笑ったようである。
勝頼が率いる死者の兵は主将の勇猛さが乗り移ったように猛然と霜の巨人へと襲い掛かる。
一方、武田信玄が率いる死者の動きは慎重で堅実であった。
霜の巨人からは距離を取りながら包囲し、弓矢を放ち、槍衾で一歩一歩霜の巨人を追い詰める。
武田の親子が率いる死者の兵の勇猛さ、武技の威力は明らかに関羽、張飛が率いる蜀漢の死者の兵を上回っていた。
それは信玄の側で氷雪をものともせず雄々しく翻る風林火山の旗の力であることは明白であった。
「やっぱ、あの旗の力か、兵共の質ならあっちの方が上だな」
「だが将の質ではこちらが上よ!」
張飛の言葉に関羽は傲然と答え、いよいよ苛烈に青龍偃月刀を振るう。その視線は振るわれた刃の下にある霜の巨人にではなく武田信玄にあるのは明白であった。
あくまで後方に大磐石のように構え、決して最前線にて得物を振るって自ら戦おうとはしない信玄を司令官とは認めないという強烈な対抗心が雷火となってその鳳眼に耀いていた。
(必ず貴様を死者の軍勢の総大将の座から引きずり下ろす!)
その思いが暗黒の雷となって刃に宿り、強化されたはずの霜の巨人をなぎ倒していった。
強大な暗黒の武神と化しつつある関羽を張飛は惚れ惚れしたように見つめ、勝頼は息をのんで凝視している。
しかし風林火山の旗の下、戦国最強の武田軍にあって最も武芸に秀でた最精鋭たる馬廻りに守られている信玄には何ら感情らしきものは浮かんでいない。
当然信玄は関羽の己に向けられた強烈な対抗心を気づいているはずである。果たして信玄は関羽の思いを脅威に感じているのか、それとも片腹痛く思っているのか
だがその沈毅そのものな顔貌からはどちらであるのかは全く読み取れることは出来なかった。
「勝頼殿!我らも関羽兄いに後れを取ってはならんぞ!」
「はい!」
張飛の激励に勝頼は素直に応じる。
張飛が発する暗黒の闘気は関羽に及ばなかったが、そのとてつもない剛力で繰り出される蛇矛の武技はいささかも関羽に劣らない。
勝頼は関羽の青龍偃月刀の技よりも張飛の蛇矛の技を学ぼうと考えた。
薙刀に分類される青龍偃月刀は振り下ろして敵を叩き切るのが本道だが、突きを主にする蛇矛の技は槍術に似ているからである。
(俺はまだまだ武人として上に行ける!)
勝頼は一度死んで蘇った己の五体に未だ尽きざる武の水源があるのを発見して胸が高まるのを抑えることが出来なかった。
武田家と蜀漢によって編成された死者の軍勢と霜の巨人の戦いは熾烈を極めた。
数は少ないものの強烈な破壊力と生命力を持つ霜の巨人の前では下級の死者の兵は歯が立たず、次々と打倒されていく。
しかし将たる関羽、張飛、そして武田勝頼の武勇はその強化された霜の巨人をも上回っていた。
関羽の技は天を裂きを大地を穿つ雷光の如きであり、張飛の蛇矛は突風となって吹き荒れ、かまいたちのように鋭利であり、勝頼の槍術は猛烈な烈火となって霜の巨人の凍てついた肉体を砕いて行く。
そして信玄が軍配を振るって操る死者の兵は絶妙な動きで三人の猛将を援護していた。
数時間後、死者の軍勢の兵を多く失ってしまったものの、四人の将軍はこの場に現れた霜の巨人を悉く討ち滅ぼすことが出来た。
しかし彼らが何故突然強化したのか、また現れるのか否か、そしてニーベルングの指輪はどこに行ったのか、全ては謎のままであった。