コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
ーーーーーーーーーーーーーーーー
由樹が通った大学は、国立のいわゆるユニバーシティで、敷地内に収まらない学部が付近にに散乱している学校だった。
南門を出て、数キロ先の医学部にある看護学科に、由樹はいつも歩いていき、校門でその男を待っていた。
リョウはいつも、両肩に女をアクセサリーのようにぶら下げながら、看護師とはとても思えない金髪でパーマを当てた髪を揺らしながら歩いていた。
「あ、いたいた。由樹ちゃーん」
言いながら女たちをどんと左右に突き飛ばして、こちらに駆け寄ってきてくれるときは、暗い嫉妬心が弾けてくれるような、仄暗い快感を覚えたものだった。
「何あれー。リョウの友達?中学生みたいでかわいー」
「友達っていうか、あっちのトモダチ?」
「はー?嘘でしょー?」
「だってリョウ、両刀じゃん?」
後ろから女たちの笑い声が聞こえてくる。
「ねえねえ」
その笑い声を聞こえていないはずはないリョウは、由樹を見下ろして、いつも笑った。
「今日も、イイ?」
「あ、えっと」
由樹はポケットに入れてある映画のチケットを撫でた。
本当は、セックスだけではなくて、リョウとデートがしてみたかった。
映画を見たり、それが難しければ、食事だけでもいいし、なんだったら散歩だけでもいい。
待ち合わせをして、手を振りあって、並んで歩いて、今日一日のことや大学のことなんかを話して、ちょっとだけ将来のことを話して、また手を振って別れる。
カップルとまではいかなくてもいいから、
“あっちのトモダチ”じゃなくて、“こっちの友達”に、せめて昇進したい。
「今日は俺んちに来いよ。ちょっとね。準備してあるんだ」
リョウは何やら企んでいる顔で微笑んだ。嫌な予感しかしない。
「何を?」
耳元に唇を寄せてくる。
「……SMの拘束着」
最近リョウはソフトSMに目覚めたとか言って、行為中縄で由樹を縛るようになっていた。
「大丈夫大丈夫、俺、そっちの趣味はほぼないから」
彼は笑っていたが、その縄は日に日に太くなり、縛る強さも日に日に強くなっていった。
「見て。ほら」
スマートフォンの画像を見せられる。
上半身のガードル式黒いレザーの拘束着。後ろに両手を組んで、がっちりベルトで固定できるタイプ。
由樹は鳥肌が立った。
「これでさ。縛って、後ろからガンガン突かれたら、絶対気持ちいいから」
リョウは笑う。
(イヤだ。怖い。でも、ここで断ったら……)
「いいよ。楽しみだね」
由樹は緩く笑った。
「よし。俺の車、医学学科の裏でちょっと歩くけどいい?」
そう言いながらリョウは前を歩き出した。
(並んで歩きたかったな)
思いながら俯く。
フワッと風が吹き、由樹は何とはなしに視線を上げた。
正面から髪の長い女子が歩いてくる。
サラサラで、夏なのに全然汗をかいていない涼し気な髪の毛。
(この道を歩いてるってことは、医者の卵か。すごいな、女の子なのに)
その美しさに見惚れていると彼女はリョウをちらりと睨んだ後、こちらを見た。
(わっ。すげ。この子の眼の色、緑色だ)
驚いて目を見開いた由樹に彼女は一瞬微笑んだ気がした。
何も言わずに二人はすれ違った。
それが、由樹と千晶の出会いだった。