テラーノベル
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悩む三人に悩まない高尾が笑顔で言ってきた。
「別の舟かあ。
まあ、小さくても、そっちに移れば、あやかしのサイズ、変わるかもしれないよ。
今のそのおばあさんの姿もただそういう形をとっているだけなんだろうから。
元は水難事故で死んだ霊たちの集合体だからね。
そういえば、海坊主も海のあやかしだけど。
海で見かけたら悪いことが起こるって言うよね。
だから、見かけても、見てはならず、話してもいけないって。
いないと思えばいなくなるってことかな」
「……うち、海坊主さん、めっちゃ現れるし。
思い切り話しかけてるんですけど」
海で話しかけるのは駄目でも、駄菓子屋でならいいのだろうか……? と思う壱花に、高尾は、
「まあ、そうやって人は怪異をなかったことにしようとするってことさ」
と言う。
「実際は、見ないフリしてても、呪いがかかるときはかかっちゃうんだけどね。
向こうがかけようと思えばね。
そういう意味では、これから、君たちが見ないフリをしたとしても。
あの船にはもうあやかしの呪いがかかっちゃってるのかもしれないけどね」
……呪いか、と倫太郎が呟く。
「船に水をかき入れる動作も、水量が問題なんじゃなくて。
その行為自体に意味がある、呪術的なものだとか?」
水が入って船が沈むわけではなく。
あの動きにより、船が沈むようななにかを呼び寄せているのでは? と倫太郎は思ったようだった。
「そういえば、そうだねえ。
水には力があるしね。
じゃあ、そのあやかしに水を移動させないよう、早く穴あきお玉を渡してきなよ」
所詮は、ひとごと、みたいな軽さで高尾は言う。
「穴あきお玉って。
ここ、ありましたっけ?」
「まだ開いてるスーパーあるよな。
買ってこようっ」
と壱花と倫太郎はどたばたしはじめたが、ひとり冷静な冨樫が、ぼそりと呟いた。
「でも、どうやって船に戻るんですか?」
ぴたりと二人は動きを止める。
「社長たち、ここから戻れませんよね。
駄菓子屋の呪いがあるから。
もしや、私が走ってる船まで、ボートかヘリで行って、穴あきお玉を手に乗り込むとか?」
それと、もうひとつ、問題があります、と冨樫は言った。
「朝が来て、戻るときのことです」
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