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大学をでて社会人になっても、由樹は千晶の大事な被検体だった。
相変わらず無自覚に女にはモテ、男には目を付けられながらも無事大学を卒業すると、彼は、大手空調メーカーであるダイクウの開発部に入社し、社会人としては順調すぎるスタートを切った。
だか金銭的な面では、大手メーカーとは言え、研修期間である初任給は微々たるものだった。
奨学金の支払や、家賃光熱費をすべて自分で払っている由樹には、夏季集中講義代を千晶に一括で支払う経済力はなかった。
「月1万円でもいいから、返しなさいよ」
これで毎月最低1回は彼に会う口実ができ、千晶は胸を撫で下ろした。
だがそれと共に、いち社会人として、世間に飛び出していった彼に対し、一抹の不安を覚えずにはいられなかった。
案の定、歓迎会を終えるころには、由樹の周りには、男の影がちらつくようになってきた。
「会社、楽しい?」
あれはお金の受け渡しのため、一緒に飲むようになってから何度目の夜だっただろう。
真新しい作業着に、着られているといった風貌の由樹は、嬉しそうに微笑んだ。
「指導係の上司がものすごく親身になって話聞いてくれてさ。いい人なんだ」
そのうち、由樹は彼の話しかしなくなった。
彼に奥さんは要るのか、パートナーはいないのかを確認するつもりはないようだった。
(何もなければいいけど)
だが、千晶の願い虚しく、それから約10か月後、由樹はこの会社を退職することになった。
酷い仕打ちと裏切りを受けて……。