※注意
この話は月神零華さんの作品
「とある日私は最弱から最強に_?¿」 の
妄想、捏造マシマシの仄暗二次創作です。
原作には無い設定な為、「それでもいい」という方のみご覧下さい。
(原作はテラーで読めるので、気になる方は是非読んでみてください。)
─逃げなければ。
何故こんなことになったのか、少女には分からなかった。
何故自分が追われているのか、分からなかった。
“人より強い力を持っている”
ただ、それだけで、こんな─
少女“飛鳥”は元々、至って普通の人間だった。
可憐な笑顔を咲かせる、少し便利な能力を持った女の子。
飛鳥は能力で空を飛ぶのがとても好きだった。
大きな翼を広げ、空を抱きしめ、風と共に泳ぐ。
その瞬間、小さな天使は誰よりも自由だと感じていた。
少女にとって翼とは、自由の象徴だった。
高いところにあるものを取れる上、飛んで移動すれば走るよりもずっと速い。
飛行すると共に現れる翼も美しく、他の子を抱えて飛んでみせれば、たちまち人気者だった。
このご時世、より良い能力を持って生まれた者ほど優遇されるのだ。
優れた能力を持つ少女は、親や教師、友達からも大層可愛がられた。
飛鳥は、この幸せがいつまでも続くものなのだと、本気でそう思っていた。
全てが壊れたのはあの日、まだ高校生になったばかりの頃だった。
彼女の能力が、突如として覚醒したのだ。
最初は気付かなかった飛鳥だが、今まで使えなかった属性の能力も使えるようになったことをきっかけに、その異変に気が付いた。
彼女は驚き、喜んだ。
─今までよりもっと凄い能力を手に入れた。
きっとみんな、喜んでくれる!
興奮したまま両親に伝えると、両親は想定していたよりもずっと驚いていた。
「あなた、これは…」
「いや、まだ分からん。一度検査を…」
飛鳥が困惑する中、なんだかよく分からない話が進んでいく。
何かおかしなことでもあっただろうかと、飛鳥は今一度思い返してみる。
そうして思い出した。
飛鳥の能力のランクは今、「B」だ。
それより上のランクになると危険とされ、早急な拘束と厳重な監視が必要になる。
もしこの覚醒によって、Bより上のAになったりでもしたら…
彼女は、その一生を管理されながら生きることとなる。
飛鳥は絶望した。
検査しに行こうと言われるも、もしB以上になっていたとすれば、その場で捕まってしまう。
─いや、これは…確実にB以上になってる。
感じているのだ。内側から溢れでんばかりの力を。
途端に恐ろしくなった彼女は、学校に行くと言って家を飛び出した。
不安で仕方ない胸を押さえつけ、「大丈夫、大丈夫」と自分に言い聞かせる。
学校に着き、友人達の顔を見ると安心したが、それもほんの一瞬に過ぎなかった。
平静を装っていつも通り授業を受けていたが、能力科の授業の時に、いつもの感覚で能力を使った。
すると能力が想像以上の威力で発揮され、周りにいた全員が巻き込まれてしまった。
学校を大破させる勢いの、大爆発を起こしてしまったのだ。
飛鳥が目を覚ました時、あたりには悲惨な光景が広がっていた。
友人が血を流して倒れている。
また、ある友人は腕が無い。
ある友人はバリアを張ったまま怯えている。
ある友人は、こちらを恐怖の目で見ている。
黒ずんだ視界と、赤、赤、赤。
真っ赤な鉄がどろどろに溶けた臭いがした。
聴 覚 に 意 識 が ゆ く 。
うああぁぁあああぁああああ!!!!!
誰か!誰か来て!!友達が瓦礫の下敷きに!!
いやだぁぁ…死にたくないよぉぉおおお!!
ははは、あはぁああははははははははは!!!
助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて
痛いよぉ!!苦しいよぉ!!!あぁああああぁぁああああああああああああああぁぁぁああぁぁああぁ
呆然とする。
なんで、そんな、ちがう、わたしは、ちがう、どうして、どうしよう、わざとじゃ
わざとじゃないの…!!!
震える彼女の手には、誰かの血が付いていた。
「─目標確認。これより包囲を開始する。」
どこからか声が聞こえ、ハッとする。
「政府はあいつをSと認定した。絶対に取り逃がすな!!」
─…あのひとたちは、だれ?
─……S…………………S!?
急速に思考が動き出す。
Aよりも上のランク、「S」。
最も危険とされる階級。
それが、飛鳥につけられていた。
─逃げなければ。
──にげなければ!!!!
無我夢中で空を駆ける。
友人達の血が、悲鳴が、脳裏に染み付いたまま離れない。
必死に繰り出した飛行能力は、今までとは段違いのスピードだった。
─こんなことになるなら、能力なんか要らないのに!!!
後ろから追ってくるヘリが、飛鳥に追いつきかけている。
飛鳥のスピードがだんだんと落ちてゆく。
まだ能力を扱いきれていないのだろう。
やがて、力尽きて急降下した飛鳥を誰かが麻酔銃で撃ち、彼女は囚われる。
自由な天使の翼は、見えなくなった。
飛鳥が拘束されて、少し経った。
牢獄の中では酷い扱いだった。
施設にいた兵士に、監視員に、役員に蔑まれ、手枷をつけられ、労働力として雑に扱われ、時には暴力に晒され、食事にありつけないこともあった。
彼女は精神が疲弊してゆく中で、かつての友人や、両親の顔を何度も思い浮かべていた。
危険ランクと言えど、厳重な警備の元ならば知り合いとの面会も出来る筈だが
両親も、友人も、誰一人として面会には来なかった。
幸い死者は出なかったようだが、友人はあんな目に会ったのだ。当然と言えば当然だろう。
しかし、なぜ両親は来ない?
両親が今まで「飛鳥」ではなく「飛鳥の能力」を…
もしくは「優れた能力の娘を持つ自分」を愛していたのかもしれないと考えると、胸が張り裂けそうになった。
両親に、そんなくだらない妄想を笑い飛ばして欲しいと、飛鳥は牢屋の中で願い続けた。
飛鳥の願いは結局、叶うことは無かった。
…その代わりなのだろうか。
飛鳥にはとある友人ができた。
同じ牢屋に居た、危険ランクの女性“紡(つむぎ)”。
彼女はとても心優しく、絶望の淵にいた飛鳥が正気を保っていられたのも彼女のおかげだった。
「誰が何と言おうと、私たちは人間よ。」
「他の人達は私たちを、怪物だとかバケモノだとかって罵るけれど、負けてはならないわ。」
紡はよくそう言っていた。
彼女もまた、強大な力の被害者だったようだ。
力があれば、人々は自分を慕う。
しかし、あまりに大きすぎる力は恐れられてしまう。
「怪物」と蔑む者もいれば、媚びを売り力の矛先が自分に向かないようにする者もいる。
紡は追手から逃げる間にそんな人々を散々見てきたせいか、人を恐れていた。
故に、自分と同じ境遇の者に出会えたことが嬉しかったらしい。
そしてそれは、飛鳥にとっても同じだった。
飛鳥が捕まって二人が出会ったあと、二人はすぐに意気投合し、支え合った。
二人は互いに互いのことを姉妹のように感じ、飛鳥は紡のことを「紡姉」と呼んで慕っていた。
共に過ごす内に、飛鳥は紡の体について知った。
実は紡は、大きな力に体が適応しきれておらず、内側から少しずつ蝕まれているらしい。
それに重なり、牢獄での酷い扱い。
このままでは紡はきっと、力尽きて死んでしまうかもしれない。
そうして二人は少しずつ、脱獄することを考え始める。
Sランク二人が力を合わせたならば、きっと出来る筈だ。
密かに脱出経路を確保しながら、二人は計画を進めた。
紡は時々、何かを深く考え込んでいた。
そうして、飛鳥が捕まってから約2年が経った頃、ついに計画を実行した。
紡の能力で監視カメラを停止させ、事前に調査した脱出経路を辿って出口へと向かう。
しかし、ここは対危険ランク用に造られた施設だ。
脱獄はそう簡単に上手くはいかなかった。
檻から出た時に鳴るブザーは事前に停止させ、あらゆるシステムもダウンさせていた筈だが、すぐに復帰してしまったようだ。
施設全体に、耳障りなブザー音が鳴り響く。
大勢の兵士が行く手を阻んできた。
少し躊躇ったが、兵士達をなぎ倒して前へと進む。
あの時がフラッシュバックする。
また、真っ赤な匂いがした。
その時、飛鳥は不思議な感覚がした。
皆自分達を忌み嫌っていた。
恐れ、憎み、蔑んでいた。
そんなヤツらが無様に倒されてゆく!
そ ん な 、
快 感 。
飛鳥は立ち止まった。
─違う、そんなこと思っちゃ駄目だ。
私達だけは、人を踏みつけて楽しむようなヤツらみたいに、汚れたりなんかしない!!
紡が心配しているが、それを振り払うように突き進む。
これは聖戦なのだ。革命の灯火なのだ。
彼等はその邪魔をしてくるのだから、仕方がない──
──仕方がない………………
「…………は、 は」
声が、零れる。
「あはははははははははっ!!!!!!」
──ざまぁみろクソ野郎共!!!!!!
「飛鳥……?」
紡の声が聞こえた。
─あぁ、どうしよう。
嫌われてしまうかもしれない。
でも、笑いが止まらない!!
「はは、はははははは………紡姉…」
「どうしよう、あは、どうしよう!!」
「あいつらみんな!私達のこと散々罵って!雑に扱って!!殴って蹴って散々ゴミ扱いしてきたクセに!!!!」
「こんな、こんなにも、簡単に…!!」
つ、と飛鳥の頬には、気付かぬうちに涙が伝っていた。
紡は少し驚きながらも飛鳥にそっと寄り添い、手を握って呟く。
「なんだ、私だけじゃなかったんだね」
どうやら紡もまた、憎き兵士達が倒されてゆく光景に悦を感じてしまっていたらしい。
「こんな風に、なりたかった訳じゃ無いのにな…」
紡もまた、静かに涙を零していた。
「こうやって人は、歪んでいくんだろうね。」
「…悲しいなぁ」
掠れた声で、彼女はそう言った。
ふと紡が、真剣な眼差しでこちらを見てきた。
「飛鳥。」
「忘れないで。あなたがこれまで見てきたものを。」
「この国は、間違っている。どんどん間違った方向へ進んでいってる。」
突然何を言い出すのだろうと、飛鳥は困惑する。
「私達危険能力者こそが、この間違った国の被害者。」
「そして、この国を救う為の切り札なの。」
「それを、忘れないで。」
紡はそう言って、飛鳥の手を強く握った。
「さぁ、行こう。追手がくる。」
紡に手を引かれるまま、飛鳥は歩き出す。
紡の手はあまりにか細く弱々しく、消えてしまいそうにも関わらず
飛鳥は、強く握ることが出来なかった。
通路を抜け、途方もないほど長く、大きな廊下に出る。
そこには大勢の上級兵士が並んでいた。
一人の男が前へ出てくる。
「あれれ〜?途中いた兵士達はやられちゃったのカナ?」
鳥肌が立つような声で話しかけられ、咄嗟に構える。
今まで見たことの無い男だった。
「誰!?」
「え?ナニ?イケメン?
だよネ〜ボクもそう思う☆」
─そんなこと言っていない。何なんだコイツは。
しかし、何だか得体の知れない力を感じる。
おそらくこの男は、かなり上位の隊長だろう。
「ここを通させてもらうわ!」
紡がそう言って構えると、男はにやりといやらしく笑う。
「ソンな風にこれまでの兵士達も、平民共も、
みーんな殺してきたのカナ?」
「なっ…!殺してなんか!!」
飛鳥が憤り、男に向けて光線を放つ。
男はそれを軽く避け、嘲笑い、見下しながら言った。
「アッハハハハ!!
ソウやってすぐ自分の力に任せちゃっテ!!」
「ホンット、どこまでいこうとキミタチは」
「人殺しのバケモノなんだネ!!」
飛鳥の中で、何かが切れる。
─こいつ…こいつ!!!!
飛鳥が反論しようとした時
飛鳥の隣から、大きな声が聞こえた。
紡が、今まで見たことが無い程に、怒りを露わにしていた。
「お前達に分かるものか!!私達の苦しみが!!!!」
「何故そんなことが出来る…
どうしてそんなことが言える!!!」
「人の心が無いようなお前達こそが!!バケモノだ!!!!」
「私は!!お前達を…!!!」
紡はただひたすら、悲痛な叫びを放っていた。
そうすると突然、彼女は咳き込みだす。
脱出する為にたくさん能力を使ってきた。
もう彼女の体はとっくにボロボロだったのだ。
無理しないでと、飛鳥は紡に駆け寄るが
紡は飛鳥を突き放す。
そうして飛鳥に言った。
「飛鳥、行って。ここは私が止めるわ。」
「あなたの能力なら、きっと抜けられる。」
飛鳥は困惑し、焦った。
─どうして。
どうしてそんなことを言うの?
その言葉の意味はおそらく、
“自分が犠牲になるから飛鳥だけは逃げて”
ということなのだろう。
「嫌…嫌だよ!一緒にここを出るんでしょ…!?」
本当は、頭のどこかで理解していた。
彼女はここを出たところで、能力に蝕まれ、いずれ死んでしまうということを。
だからと言って、諦めたくは無かった。
ここを出て一緒に助かる方法を探せば、きっとなんとかなるはずだ。
なんとかなるはずなのだ。
「あなたも分かっているでしょう。
私はここを出たところで、どの道助からない。」
「今の日本の能力に関する研究は、これを解決出来るところまで進んでない…」
─駄目だ、違う。
絶対にそんなことは無い!!
そう言おうとしても、上手く声が出ない。
そのまま紡は、飛鳥を強く抱き締めた。
「私、あなたと出会えたことが、本当に嬉しかったの。」
「孤独な闇の中で見つけた、私の光。」
「他の人の命や、私自身のことなんかよりもずっと、ずぅーっと」
「あなたが、大切なの。」
飛鳥の目からボロボロと涙が零れる。
抱きしめ返した紡の体は、病人のように痩せ細っていた。
「そんなこと、言わないでよぉ…」
一緒に脱獄した時のことを妄想していた。
紡を助ける方法を探しながら、追手から逃げながら、色々な場所を共に旅して、美味しいご飯も食べて、楽しい事もいっぱいして、たくさん笑い合って、二人で寄り添いながら生きていくのだ。
そんな、素敵な生活を、夢に見て。
「いきなさい。」
「飛鳥。
大好きよ。」
─あぁぁ…ぁぁあぁああぁあああああああ!!!!
「逃げて。」
ふわりと体が宙を漂う感覚がする。
彼女が、紡が自分を小さな爆発で吹き飛ばしたのだと知る。
飛鳥は悟ってしまった。
彼女は最初から、こうするつもりでいたのだ。
飛鳥の為に。
悲しい。
悲しさのあまり、喉が痛くなる。
でも、
その覚悟を無駄にしてはいけないと思った。
見えない翼を広げて廊下の窓から飛び出し、全速力で飛行する。
飛鳥が逃げたのを見送った紡は、それを追わんとする兵士達に向かって光線を放つ。
「あの子は追わせはしない!!」
銃声が 何発か。
脱走したSランクは、生死問わずとなる。
故に兵士達は容赦無く、紡に銃を放った。
撃たれた紡がよろけるも、
それでも兵士に立ち向かう。
確かにその姿はまるで、バケモノだったことだろう。
しかし紡は止まらない。
「やれるものならやってみなさい…!!」
「私は…Sランクの紡よ!!!!」
─爆発、光線、爆発、爆発、爆発、…
銃声。
飛鳥は追手を振り切り、逃げ切った。
しかし、おそらく紡は──────
────死んでしまっただろう。
飛鳥は胸が張り裂けそうになる。
飛鳥にとっても、誰よりも大切な人だった。
本当に、大切で。
─「忘れないで。あなたがこれまで見てきたものを。」
「私達危険能力者こそが、この間違った国の被害者。」
「そして、この国を救う為の切り札なの。」
─変えよう。この国を。
もう二度とこんなことが起きないように。
それがきっと、紡姉の願いだから。
たくさんたくさん悲しんだ後で、
飛鳥は起き上がった。
紡の願いを叶えるために。
地を歩き出した天使の翼は、もう見えなくなってしまったが
いつかきっと、また自由を抱き締める日がくるのかもしれない。
彼女は歩き出した。
この国を変える、切り札を探す為に。
(本編に続く)
─あとがき─
念の為もう一度書きます。
この話は、9割が私の妄想です。
公式じゃないのでご注意を。
原作のセリフから
妄想に妄想を重ね妄想による妄想の為の妄想を作りました。
こんなこと考えるヤツもいるんだな〜程度に考えてください。
そこそこ長いにも関わらず、ここまで読んで頂きありがとうございました。
原作「とある日私は最弱から最強に__?¿」はコメディ調でとても面白く楽しく読める作品なので、気になる方は是非読んでみてくださいね。
それではノシ
コメント
6件
オイオイ…目からメントスコーラが止まんねぇじゃねぇかよォ……泣 どうしてくれんだよぉ…泣 でも、おそらくキースという名の男の登場シーンのところが面白かった(?) キャラをしっかり掴めてて、クオリティがめっちゃ高いのがホント好き。大好き。愛してr((( これらをまとめると、原作者大絶賛の作品!! マジで二次創作作ってくれてありがとう!!!