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ヒュー…ヒュー…
弱い風が、俺の体を包み込む。
「………今日もいい景色だ。」
メジロのお父様が俺たちのために建ててくれた高台にポツンとある一軒家。 そこにある青い薔薇の園から見える景色。俺は、この景色が1番好きだ。
蒼い海…赤や黄色の屋根のグラデーション…。 まるで、数年前に妻と一緒に見た絵画のようだ。
「すぅぅぅ………。」
俺は、大自然の中、思いっきり息を吸う。薔薇の匂い、海風の匂い、森林の葉の匂い…。
そして…
「ふふっ…あなた、またここに居たんですか?」
俺の妻、メジロアルダンのふんわりとした香水の匂いが俺の鼻を擽った。
「おはよう、アルダン。」
「おはようございます、あなた。」
現役の時に着ていた勝負服を着たアルダンがゆっくりと俺の隣にやってくる。 現役の時と同じで、アルダンはとても美しく可憐だった。
「……………。」
「……………。」
俺たちは横に並んで青い薔薇の園から見える景色を静かに眺めていた。 そんな俺たちを優しく包むかのように、弱い風が吹いていた。
「私もこの畑から見える景色が好きなんです。」
しばらく沈黙が続いたあと、アルダンがポツリと話した。
「同じ、だな。」
俺は、前を見たまま返事をした。
「ふふっ…ほんとですね…♪」
そうアルダンが話したあと、アルダンは自身の腕を俺の腕に絡ませ、頭を俺の肩にもたれさせた。
「アルダン、どうした?」
不思議に思い、俺はアルダンに話しかける。 そうすると、アルダンは、
「少し…甘えたくなりました…。いいでしょうか…?」
彼女の香水の匂いが少し強く鼻に香った。
「ああ、当たり前だろ?俺の妻なんだから。」
俺は、彼女の頭に手を添え、ゆっくりと撫でてやる。俺の手に、水色の髪の感触が伝わる。 彼女は撫でやすいように耳を倒してくれた。
『これからもずっと、アルダンと一緒に居たい。』
俺はそう小さく呟いた。
⏱
俺の愛バ、メジロアルダンはトレセン時代は体が非常に弱く、本格化が進んでいたが選抜レースに出れない事が多かった。 主治医や両親も走るのを否定されていたらしい。 そのため、トゥインクルシリーズに出ずに引退も噂されていた。
たずなさんアルダンの事を心配していた。 そんな時、
「トレーナーさんも、アルダンさんに声をかけてみてはどうですか?」
そう言われ、俺はアルダンに声をかけた。それが俺とアルダンの出会いだった。
⏱
アルダンが出るとたずなさんや俺に話したのは『ダートの短距離』、彼女の脚質は『芝の中距離』。いかにも脚質が合っていない。
しかし、彼女は見事その選抜レースで1位を取り、俺は、そんなアルダンを担当にすることに決めた。
_____
そこから俺たちの3年間が始まった。
彼女の体の事を考え、比較的軽く、かつ、効率的なメニューを考え、トレーニングを組んだ。
「はっ、はっ…ふぅ…。」
コースをメニュー通りに走ってきたアルダンが小さく呼吸を整える。
「お疲れ様、今日はこれぐらいだな。そろそろ体に熱を持っているだろうからな…。」
俺はアルダンに声をかけ、タオルを手渡す。
「ふぅ…そうですね…ありがとうございます。」
アルダンはタオルで汗を拭きながら話す。だいぶアルダンの体調がわかってきたような気がする。
「よし、休憩が終わったらトレーナー室でいつものするぞ。」
俺は、アルダンのトレーニングの為にマッサージ師の免許を取り、毎日マッサージをしている。
「はい、では向かいましょうか。」
俺たちはベンチから立ち上がり、トレーナー室に向かった。
⏱
こうして、俺とアルダンはどんどん勝ち上がり、色んなレースを勝ち上がっていった。
そして、URAファイナルズ開催1日前。 いつもの健診にて、俺は主治医に言われた。
「…アルダンお嬢様の足は、もう限界に近いです。数多くのレースに出て、足に抱えた爆弾がもう爆発寸前です。最悪、URAを諦めるのも検討した方がよろしいかと…。」
俺は、それを聞いて、絶望した。 今まで2人で頑張ってきたのがこんなに簡単に否定された。 爆弾を抱えているというのは知っていながら、気づくことができなかった自身への後悔。
俺は、目の前が真っ暗になるような感覚に襲われた。
_____
「トレーナーさん、私の体調はどうでしたか?」
アルダンはいつもの笑顔で話しかけてくる。
「……………。」
「………トレーナーさん?」
返事が無い俺に対し、アルダンは不思議そうに話しかける。
「あ…ああ…!いたって健康だってよ!」
俺はアルダンに苦し紛れに作り笑いしながら返事を返した。
「……………そうですか!よかったです♪」
間が空いた後、アルダンは返事を返した。
『トレーナーさん…本当の事を言ってくださいませ…。』
アルダンが小さく呟いた言葉は、俺には届かなかった。
⏱
カタカタカタカタ…
時刻は夜10時。 俺はトレーナー室で今まで溜まった資料を確認し、まとめていた。
ピロン!
自身のスマホに通知が入る。着信元はアルダンだった。
『トレーナーさん、少し、外で話しませんか?』
簡素だが、気持ちが伝わってくる連絡。俺は、
『ああ、今から向かう。』
俺はコートを羽織って、トレーナー室を後にした。
_____
「おまたせ、アルダン。」
トレセン学園の裏手にあるベンチ、俺とアルダンだけが知っている秘密の場所。
そこが待ち合わせ場所だった。
「いえいえ、私も今来たばかりですので。」
俺たちはいつものベンチに座った。空気はとても透き通っていて、寒かったが何故か気分がさっぱりしていた。
「まだ春手前なので、空気が冷たいですね。」
アルダンは手を擦りながら話す。
「………風邪ひくなよ?」
俺は、寒そうなアルダンの為に手を握った。
「やっぱり、トレーナーさんは優しいですね。」
「俺はアルダンのトレーナーだからな。」
そう話すと、『ふふっ』と小さく笑った。
⏱
「トレーナーさん、今日の検査の結果はどうでした?」
話は何だろうと思っていたが、やはりその件だったか…。もう嘘を付くことはやめておこう。
「………アルダン、実はな………。」
俺は、今日主治医から話された内容を全て話した。最初から最後まで。 そして、今まで2人で頑張ってきたのがこんなに簡単に否定された悲しみ、爆弾を抱えているというのは知っていながら、気づくことができなかった自身への後悔。全てをアルダンに話した。
_____
「そう…だったんですね…。」
アルダンはいかにも落ち込んだ表情で俺の方を向いて話した。
「……………。」
俺は、返す言葉も出なかった。
「……………ごめん。」
「……………トレーナーさん?」
「……………ごめん。」
口を開いても開いても謝罪の言葉しか出なかった。トレーナーという職業をしていながら、アルダンの体調を1から10まで見ることができなかった。
「……………ごめん……………ごめん……………ごめん。」
俺は、涙で声が震えながらひたすらアルダンに謝罪した。何度も、何度も…。太腿に添えていた握り拳に涙でできた水滴で濡れていた。
「トレーナーさん………。」
アルダンは、恐怖で震えてヤギのように震えていた俺の肩を優しく握る。
「……………アルダン。」
「トレーナーさん、大丈夫です。走れなくなるだけで、私がこの世から居なくなってしまう訳ではないのでしょう…?」
「……………。」
ぎゅっ………。
アルダンは俺の体を優しく抱きしめる。
「私は走れなくなっても、車椅子生活になっても、トレーナーさんと一緒に『歩める』なら、幸せです。」
俺はその言葉を聞いた瞬間涙が溢れた。大粒の涙が目から溢れ、頬を濡らした。 それをアルダンは優しく優しく抱きしめて『よしよし…。』と抱きしめてくれた。
⏱
こうして、URAファイナルズ当日。
「1位はメジロアルダン!メジロアルダン!URAファイナルズを制したのはメジロアルダン!!!」
わああああああ!!!!!
大歓声の中、アルダンは見事走り抜け、URAファイナルズを制した。
「おめでとう…おめでとう…アルダン…!!!」
俺はアルダンの勇姿をこの目で焼き付けた。アルダンは本当に素晴らしい担当バだった。
『___ありがとう___。』
_____
その後、様々な新聞記者からのインタビューや雑誌の特集、テレビへの出演など、目まぐるしく景色が変わっていった。
そして、
「アルダンお嬢様、URAファイナルズ優勝おめでとうございます。ですが、お嬢様の足はもう壊れる寸前です…ですから…。」
と、主治医は泣きながら話す。
「いいんです、私はこれから、ゆっくりとトレーナーさんと生活を致しますので…。」
アルダンは…走るのを…みんなとレースするのを…。
『ウマ娘としての最期』を迎えた。
⏱
コンコン…
「メジロアルダンです、失礼致します。」
「勝手に入っていいよ〜。」
「失礼致します…。」
アルダンが入ってきた瞬間、
パンッ!パンパンッ!!
「きゃっ!!」
急に聞こえた破裂音に、アルダンは驚く。
「アルダン!誕生日おめでとう!」
俺はトレーナー室にケーキと飲み物とクラッカーを用意してアルダン卒業を祝った。
「もう、トレーナーさんったら…ふふっ。」
そうして、俺たちはアルダンの卒業を大いに祝った。同じ学年のサクラチヨノオーもやって来て、大盛り上がりになった。
_____
「トレーナーさん、また着いてきてくださってありがとうございます♪」
次の日、俺たちは美術館に来ていた。そう、俺たちが2人で初めて来た場所だ。 都市から離れた港町に行く前にアルダンが行きたいと話したからだ。
「トレーナーさん。」
アルダンは俺の顔を見ながら話す。
「どうした?アルダン。」
俺は、アルダンの綺麗な目を見ながら返事する。
「私、トレーナーさんと来れて嬉しいです♪」
アルダンは、にこっとしながら返事を返してくれた。
「………なんだかデートみたいだな。」
「で…デートだなんて…///」
横でアルダンのしっぽがフリフリ揺れ、ぺしぺしと当たっていた。
⏱
そして、俺たちが最後に訪れたのは、あの外に設置されていた絵画だ。 あの時より色が剥げ落ち、色が褪せて、もはや絵画と言えるのか分からないぐらいになっていた。
「……………。」
そんな絵画をアルダンは静かに、そして、真剣に眺めていた。そんなアルダンを俺は静かに眺めていた。
_____
「よし、そろそろ帰ろうか。」
俺がアルダンにそう話すと、
「待ってください、トレーナーさん。」
と、アルダンに止められる。
「どうした?」
俺はアルダンに返事を返す。
そうすると、アルダンは体をもじもじさせながら、後ろから青い薔薇を9本束ねた花束を出す。
「トレーナーさん、青い薔薇の意味はご存知ですか?」
「いや…知らないが…。」
俺がそう言うと、アルダンはゆっくりと口を開ける。
「青い薔薇には、『奇跡』や『不可能な事を成し遂げる』、『一目惚れ』という意味があります。」
「……………。」
俺はアルダンの話を静かに聞いていた。
「また、何故本数が9本なのかと言うと、『あなたを想っています』という意味があるのです。」
「……………もしかして……………。」
俺は何を言いたいのか勘づいたが、話さないでおこうと思い、静かにアルダンの言葉を聞いていた。
「私、トレーナーさんと出会っていなかったら、今頃トレセンを退学して、他のメジロの方々、両親をお世話するウマ娘になっていたかも知れません。」
「………アルダン………。」
思わず声が漏れ出てしまう。
「でも、トレーナーと出会ってから、様々な景色を見せてくれました。私がURAファイナルズを制することは『奇跡』です。」
確かに、アルダンが怪我や体調を崩さずにそこまで迎えたのは『奇跡』だ。
「それで…その…。」
アルダンが初めて言葉が詰まる。顔がだんだん赤くなっていく。 そして、数秒の間が空いた後、アルダンは口を開いた。
『私と、お付き合いしてくれますか…?///』
⏱
「パパ〜!遊ぼ〜!!」
「ずーるーいー!!次パパと遊ぶのはあたし〜!!」
「こら!順番だぞ〜!!」
「ふふっ…そうよ〜、順番こよ〜。」
数年後、俺とアルダンの間に双子の子供が産まれた。両方女の子のウマ娘だった。俺とアルダンにとって念願の子供だったので、両方とも可愛がった。
_____
夜、みんなが寝鎮まる時間。
「2人とも寝ましたか?」
アルダンは俺の方を見ながら囁くように話す。
「ああ…もうぐっすりだ。」
子供部屋のドアを閉め、忍者のように歩いて寝室に向かった。
「今日もお疲れ様でした…。」
アルダンは俺を優しく抱きしめる。俺も返すように優しく抱きしめる。
「ありがとう、アルダン。」
そのまま数分間、2人だけの時間を静かに味わう。
「なあ、アルダン。」
俺は、アルダンから離れた後話す。
「どうしたんですか?あなた。」
アルダンが返事を返す。
「俺、アルダンと出会って毎日が楽しくて幸せだよ。」
俺はアルダンの目を見ながら話す。
「私もです、あなたと出会って毎日が輝いて見えるし、幸せです♡」
アルダンは俺の口に優しくキスを交わす。それを返すように俺もアルダンにキスを交わした。
「………あなた♡」
アルダンは俺の手を握り、艶やかな声で俺を呼ぶ。
「ん?」
俺が返事をしようとした瞬間、アルダンは優しく口に舌を入れ、大人のキスをする。
「ぷは…アルダン…♡」
「ぷは…あなた…♡」
大人なキスを交わした後、アルダンが話す。
「あなた…愛していますよ…♡」
「ああ、俺も愛してるよ、アルダン。」
俺たちはその後、2人で愛を確かめた。
_____
お 父 様 、
お 母 様 、
ば ぁ や 、
メ ジ ロ 家 の 皆 様 、
私 達 の 庭 に 咲 い た 青 い 薔 薇 は 、
も う す ぐ 満 開 に な り ま す よ 。
ま る で …【 私 達 の 笑 顔 の よ う に 】。
_____𝓜𝓮𝓳𝓲𝓻𝓸 𝓐𝓻𝓭𝓪𝓷.
~ 𝓕𝓲𝓷 ~