美しい人になりたい。
そう思ったのはいつだっただろうか。
お隣の幼馴染がとても可愛かったからかもしれない。
いつも双子のように過ごしていた。
同じ幼稚園の帽子を被り、同じ制服を着ていると、まるで双子みたいだった。
でも、かわいいね、と言われるのはありすだけだった。
はじめは通りすがりのおばあちゃん。
ありすのぱっちり二重のおめめがかわいいねってほめた。
そのあと、わたしの方を見て、男の子?と聞いた。
ありすが、「なにいってるのー?女の子だよ!」というと、あわてて、「元気がいいね」とごまかした。
小学生になって、同じ学校に入ると、クラスで一番足の速い男の子が、ありすを好きになった。
わたしの方が先に好きになったのに。
「ぐあい、悪いのか?」
ありすが風邪をひいて休んだ日。わたしはひとりで学校に行って、ありすのためのプリントをあずかってた。
ありすの隣の家に住んでいるわたしが、ありすに届けてあげなくちゃ!
そう思ってたから、ちょっと具合が悪くても、我慢してた。
でも、ヤマトは私に気づいてくれた。
「そんなことないよ。だいじょうぶ」
へらへら笑ったけど、力が出なくて、頭が痛かった。
給食をなんとか食べて、帰りの会をして、プリントを預かって、あとは帰るだけなのに、席を立てない。
マスクでほとんど顔は見えないけど、眉毛が下がって、ヤマトがちょっと困った顔をしてるのがわかった。
「ひとりで帰れるから、だいじょうぶ」
いま、世の中では病気がはやっている。だから、具合が悪い子はお家で休んでないといけないし、病気をうつさないように、あんまり近寄ってもいけない。
ヤマトもそう思ってるはずだから、具合が悪くなってしまったわたしはそう言った。
実際は、ちょっと難しかった。
そうしたら、机の上に置いてあったランドセルを、ヤマトがうばって、前に抱えた。
「ランドセル持ってやるよ。家どこ?送る」
小学一年生の小さな体に、ランドセルを前と後ろに抱えて、ヤマトはにかっと笑った。
わたしはありがとうと言って、その言葉に甘えた。
その日は手をつないで帰った。
ふたりで、ありすの家に行くと、お母さんが先に出た。
「わざわざありがとうね、るいちゃん。ありすももう元気になったのよ」
優しくて美人なお母さんがそう言って、アリスを呼ぶと、ピンク色にレースがついたパジャマを着たありすがやってきた。
「るいちゃん!来てくれてありがとう!ヤマトくんも!」
「元気でよかった。これ、今日のプリント。明日は一緒に学校行こうね」
「治ってよかったな!明日、学校で待ってる!」
わたしがプリントを渡して、ヤマトがにかっとわらった。
ありすは髪がぼさぼさで、パジャマ姿でも可愛かった。
ぶり返したらいけないから、とありすのお母さんが言って、すぐにお別れした。
わたしも、すぐに家に帰る。
ヤマトに、今日はありがとう、というと、気にすんな、とまた、にかっと笑った。
ヤマトは太陽みたいに明るくて、かっこよかった。
家に帰るとお母さんはまだ帰ってなくて、ひとりで熱を測った。
37.5℃
どうしよう、と思った。
病気だったらどうしよう、お母さんに迷惑をかけちゃう。
お母さんは仕事が忙しい。
我慢しなきゃ。早く治さなきゃ。
お水を飲んで、ベッドに入った。
そのまま夜まで眠ってしまった。
お母さんが帰った時にはすっかり具合が良くなっていた。
ちょっと熱っぽい気もした。
でも、それをお母さんに言う気にならなくて、晩ごはんを食べながら、宿題をやってなかったことを怒られた。
宿題をして、また眠って、次の日の朝、元気にありすと学校に行った。
「おはよ!二人とも元気そうでよかったな!」
ヤマトが笑って、わたしはヤマトを好きになった。